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番外編
番外編:女子会(書籍化記念SS)
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「……それでハンナ、実際のところどう思う?」
「どうって、何がよ」
唐突に切り出したアニーに、なんのことか分からなくて問い返す。
「このお屋敷に来てからのユリア様のことよ!」
「……クズ、……お優しくないご家族から解放されて良かったと」
「そっちじゃなくて! ジェレミー様とのこと!」
私の返事を途中で遮って、アニーがブンブンと首を横に振る。
「とても幸せそうでたいそうお可愛いお顔をされるようになってめでたし」
「現実から目を逸らさないでよ!」
再び遮られ、興奮状態のアニーにガクガクと肩を揺さぶられて目が回りそうになる。
別にこれは現実から目を逸らしているわけではなく、現実の綺麗なところだけを見るようにしているというだけのことだ。
「ジェマ! ジェマはどう思う!?」
「えぇ~? ここはメイド用にもいいシャンプー使わせてくれるから好きよぉ?」
ジェマはパサつきやすい髪のお手入れに熱中していて、ベッドの端に腰掛けこちらに背を向けている。
どうやらあまり話を聞いていなかったらしい。
「んもー! そうじゃなくて!」
期待通りの返事が誰からも返ってこなくて、アニーが癇癪を起している。
わりとよく見る光景だった。
「なによ! ユリア様をあの変態から守らなきゃって思ってるのはもう私だけなの!?」
「それはジェマも私も常に思ってるから安心しなさい」
たぶんユリア様の夫となったジェレミー様の悪口大会をしたかったのだろう。
だけど実のところ、ジェレミー様はともかく私もこの屋敷での暮らしは結構気に入っていた。
お給料はいいし、他の使用人たちは皆親切で有能だし、二人一部屋が基本なのに少し広めの部屋を私たち三人用の部屋にしてくれた。
何より、大切なユリア様のお世話を堂々とすることができる。
ブラクストンのお屋敷ではどれも叶わなかったことだ。
それに、アニーに答えたことは嘘ではない。
ユリア様はここに来てから本当に幸せそうで、キラキラと輝いて見えるほどだ。
第一、アニーだって別に不満があるわけではないのだ。
むしろ私よりもジェレミー様を気に入っているのだと思う。
当主様に気安く接することを許されているのが、新鮮で面白いのだ。
だから必要以上に悪態をついたり嫌っているフリをする。
ジェレミー様に懐いていると、認めたくないからこそ思い出したように寝る前の愚痴大会を開催しようとするのだ。
あるいはジェレミー様の度量を試しているのもあるかもしれない。
メイドごときのこんな悪態に目くじらを立てるような男はユリア様にはふさわしくない、なんて。
まあそこまで深く考えてはいなそうだけど。
「そんなことよりもう寝ましょうよぉ~明日も早いんだからぁ」
その点で言えば、ジェマなんかはジェレミー様自体にはほとんど興味がなく、ユリア様が幸せならなんでもいいというスタンスだ。
ユリア様を大切にしている間は従順なフリをしてやってもいい、くらいには思っているかもしれない。
「私は毎日ユリア様の扱いの悪さにイライラせずに済むから幸せだわ。いつニーア様をぶん殴ってクビになってもおかしくなかったもの」
「ホントそれぇ」
私が本心を言うと、ジェマが同調しながらモゾモゾとベッドに潜り込む。
「実家から農薬持ってくれば良かったって何度も思ったわぁ」
農家出身のジェマが、冗談とは思えないトーンで言ってあくびをした。
「私よりひどいじゃない」
思わず呆れてしまう。
たぶんこれは本気だ。付き合いが長いから分かる。
「農薬? なんで? ユリア様に美味しいお野菜を食べていただくため?」
健全な農薬の使い方しか知らないアニーが首を傾げる。
「うふふ、そうねぇ。そういう使い道もあるかも」
アニーの無邪気な問いに、ジェマが目一杯の含みを持たせた笑みを向けた。
ジェレミー様の悪口を言うアニーを微笑ましく見ていられるのは、この辺が理由だ。
彼女は根っからの善人で、二十歳を過ぎた今もどこか幼さを残したままだった。
「なに!? 今ちょっとバカにしたでしょう!」
「そんなことないわよぅ。アニーは可愛いなぁって思っただけぇ」
汚れ仕事でも躊躇なく遂行できてしまうジェマや私にとって、彼女の存在はちょっとした清涼剤であるとともに癒しでもあった。
「あんたはそのままでいてね」
「ハンナまでバカにした! そういうの分かるんだからね!」
アニーの頭を撫でてから私も自分のベッドに潜り込む。
アニーは顔を真っ赤にしてプリプリしながら自分のベッドに入った。
けれど撫でられるのは悪くなかったようで、ランプの明かりを消す瞬間に自分の頭にこっそり触れているのを目撃してしまった。
とっさにジェマの方を見ると、カーテンの隙間から差し込む月明かりに照らされた顔が、ニマニマと楽し気に笑うのが見えた。
どうやら同じ感想を抱いたらしい。
可愛い奴め。
「――ま、旦那さまには死ぬまで監視が必要だとは思うわ」
「同意ー」
「やっぱりそう思うわよね!?」
私のリップサービスに乗ったジェマが、アニーの素直な反応に静かに肩を震わせる気配がする。
アニーは気付いた様子もなく、「やっぱり私たちがしっかりしなくっちゃ」とブツブツ意気込んでいる。
私は二人が楽しそうなのが嬉しくて、安らかな気持ちで目を閉じた。
たぶん、私たちはずっとこんな感じでやっていくのだろう。
悔しくて泣く日はもうこない。
「どうって、何がよ」
唐突に切り出したアニーに、なんのことか分からなくて問い返す。
「このお屋敷に来てからのユリア様のことよ!」
「……クズ、……お優しくないご家族から解放されて良かったと」
「そっちじゃなくて! ジェレミー様とのこと!」
私の返事を途中で遮って、アニーがブンブンと首を横に振る。
「とても幸せそうでたいそうお可愛いお顔をされるようになってめでたし」
「現実から目を逸らさないでよ!」
再び遮られ、興奮状態のアニーにガクガクと肩を揺さぶられて目が回りそうになる。
別にこれは現実から目を逸らしているわけではなく、現実の綺麗なところだけを見るようにしているというだけのことだ。
「ジェマ! ジェマはどう思う!?」
「えぇ~? ここはメイド用にもいいシャンプー使わせてくれるから好きよぉ?」
ジェマはパサつきやすい髪のお手入れに熱中していて、ベッドの端に腰掛けこちらに背を向けている。
どうやらあまり話を聞いていなかったらしい。
「んもー! そうじゃなくて!」
期待通りの返事が誰からも返ってこなくて、アニーが癇癪を起している。
わりとよく見る光景だった。
「なによ! ユリア様をあの変態から守らなきゃって思ってるのはもう私だけなの!?」
「それはジェマも私も常に思ってるから安心しなさい」
たぶんユリア様の夫となったジェレミー様の悪口大会をしたかったのだろう。
だけど実のところ、ジェレミー様はともかく私もこの屋敷での暮らしは結構気に入っていた。
お給料はいいし、他の使用人たちは皆親切で有能だし、二人一部屋が基本なのに少し広めの部屋を私たち三人用の部屋にしてくれた。
何より、大切なユリア様のお世話を堂々とすることができる。
ブラクストンのお屋敷ではどれも叶わなかったことだ。
それに、アニーに答えたことは嘘ではない。
ユリア様はここに来てから本当に幸せそうで、キラキラと輝いて見えるほどだ。
第一、アニーだって別に不満があるわけではないのだ。
むしろ私よりもジェレミー様を気に入っているのだと思う。
当主様に気安く接することを許されているのが、新鮮で面白いのだ。
だから必要以上に悪態をついたり嫌っているフリをする。
ジェレミー様に懐いていると、認めたくないからこそ思い出したように寝る前の愚痴大会を開催しようとするのだ。
あるいはジェレミー様の度量を試しているのもあるかもしれない。
メイドごときのこんな悪態に目くじらを立てるような男はユリア様にはふさわしくない、なんて。
まあそこまで深く考えてはいなそうだけど。
「そんなことよりもう寝ましょうよぉ~明日も早いんだからぁ」
その点で言えば、ジェマなんかはジェレミー様自体にはほとんど興味がなく、ユリア様が幸せならなんでもいいというスタンスだ。
ユリア様を大切にしている間は従順なフリをしてやってもいい、くらいには思っているかもしれない。
「私は毎日ユリア様の扱いの悪さにイライラせずに済むから幸せだわ。いつニーア様をぶん殴ってクビになってもおかしくなかったもの」
「ホントそれぇ」
私が本心を言うと、ジェマが同調しながらモゾモゾとベッドに潜り込む。
「実家から農薬持ってくれば良かったって何度も思ったわぁ」
農家出身のジェマが、冗談とは思えないトーンで言ってあくびをした。
「私よりひどいじゃない」
思わず呆れてしまう。
たぶんこれは本気だ。付き合いが長いから分かる。
「農薬? なんで? ユリア様に美味しいお野菜を食べていただくため?」
健全な農薬の使い方しか知らないアニーが首を傾げる。
「うふふ、そうねぇ。そういう使い道もあるかも」
アニーの無邪気な問いに、ジェマが目一杯の含みを持たせた笑みを向けた。
ジェレミー様の悪口を言うアニーを微笑ましく見ていられるのは、この辺が理由だ。
彼女は根っからの善人で、二十歳を過ぎた今もどこか幼さを残したままだった。
「なに!? 今ちょっとバカにしたでしょう!」
「そんなことないわよぅ。アニーは可愛いなぁって思っただけぇ」
汚れ仕事でも躊躇なく遂行できてしまうジェマや私にとって、彼女の存在はちょっとした清涼剤であるとともに癒しでもあった。
「あんたはそのままでいてね」
「ハンナまでバカにした! そういうの分かるんだからね!」
アニーの頭を撫でてから私も自分のベッドに潜り込む。
アニーは顔を真っ赤にしてプリプリしながら自分のベッドに入った。
けれど撫でられるのは悪くなかったようで、ランプの明かりを消す瞬間に自分の頭にこっそり触れているのを目撃してしまった。
とっさにジェマの方を見ると、カーテンの隙間から差し込む月明かりに照らされた顔が、ニマニマと楽し気に笑うのが見えた。
どうやら同じ感想を抱いたらしい。
可愛い奴め。
「――ま、旦那さまには死ぬまで監視が必要だとは思うわ」
「同意ー」
「やっぱりそう思うわよね!?」
私のリップサービスに乗ったジェマが、アニーの素直な反応に静かに肩を震わせる気配がする。
アニーは気付いた様子もなく、「やっぱり私たちがしっかりしなくっちゃ」とブツブツ意気込んでいる。
私は二人が楽しそうなのが嬉しくて、安らかな気持ちで目を閉じた。
たぶん、私たちはずっとこんな感じでやっていくのだろう。
悔しくて泣く日はもうこない。
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(・д⊂)〜°←25分経過
(´ーωー)…←28分経過
( ーωー)…zzz←30分経過
(゚Д゚)ハッ←終了5分前
(・∀・)←終了の後
がラストの実家かな?(´゚д゚`)