浮気されて婚約破棄したので、隣国の王子様と幸せになります

当麻リコ

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1巻

1-3

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 色々な打算や思惑があってのことだろうが、賢い判断だと思う。こちらとしてもその方がありがたい。家名や爵位を知ってしまったら、しがらみができることになる。もちろん父にどんな用があったのかも聞かない。せっかく楽しいのだから、何も気にせず飲んでいたい。
 これはあくまでも突発的な酒の席で、一度限りのことなのだから。
 もうボトルの残りは少ない。このボトルが空になったら彼を解放してあげるつもりだった。


「――それでね、自分からプロポーズしてきたくせに全然手を出してこないわけ」
「一見誠実な奴だな」
「そう、それ! 婚約前は遊びまくってたけど、結婚相手となると別なのかなってちょっと好感度上がってたのよ」

 酔った勢いに任せてナルシスのことを語る。
 愚痴ぐちみたいにしたらヴィンセントもうんざりするだろうから、できるだけ面白おかしく話した。そのおかげか、彼は興味深げに聞いてくれる。聞き上手なのか、笑ってほしいところで笑ってくれて、的確な相槌あいづちを打ってくれるのが小気味良かった。

「まさか特殊プレイ愛好家だったなんて」
「付き合ってやれば良かったのに」
「それ本気で言ってる?」
「まさか」

 思い切り顔をしかめると、彼はイタズラっ子のような目つきで笑った。

「全く。ならヴィンセントが付き合えばいいのだわ」
「男色の気はないが」
「相手が女性だったら付き合えるってこと?」
「恋人のリクエストには可能な限り応えたいね」
「お優しいこと」

 調子のいいことを言って、肩をすくめて笑う。
 ヴィンセントは飄々ひょうひょうとしていて、気取ったところが全くない。女性を見下すような態度もないし、侮るような雰囲気もないのが心地いい。それとは別に、妙に話しやすくて警戒心を解いてしまう。
 アルコールが回っているせいか、初対面だというのに十年来の友人のような気安さを感じる。

「ああ、もう最後か」

 あっという間にワインは尽きて、気のせいかもしれないけれど彼は名残惜しそうな顔になった。

「ところでヴィンセント」

 だからバスケットに手を突っ込み、中に残っていたものを引っ張り出した。

「もう一本あるのだけど、いかが?」

 新たなワインボトルを両手に掲げ持って、笑顔で小首を傾げながら問う。
 ヴィンセントは目を丸くした後で、唐突に噴き出した。

「待って、まさか全部一人で飲む気だったの?」
「当然よ」
「どこの酒豪だよ。ちょっとそれ見せて」

 笑いながら差し出された手に素直にボトルを渡すと、彼は布を剥いで真っ先にラベルを確認した。

「……さっきよりいいワインじゃないか」

 ヴィンセントが頭を抱える。
 さっきもラベルを見ただけですぐに価値を理解していたし、どうやらお酒にはかなり詳しいらしい。私も嫌いじゃないけど、ヴィンセントはただお酒が好きというだけではなさそうだ。

「えらい? めてくれてもいいのよ」

 なかなか良いチョイスだと思うのだけど。
 得意げに言うと、彼は「ペルグラン公に同情を禁じ得ないよ」とつぶやいて眉尻を下げた。

「なにせおめでたいもので」
「分かった、付き合うよ」

 言い訳にもならない私の言葉に、お手上げのポーズでヴィンセントが苦笑する。
 だから空になったグラスに新たなワインを注いであげた。
 そのグラスを持って、ヴィンセントが吹っ切れたような顔で笑う。

「それで? 次は何に乾杯する?」
「そうね、じゃあナルシスの新しい門出に!」
「あはは、物は言いようだ」

 取ってつけたようなお題目に、ヴィンセントが朗らかな笑い声を上げる。

「ヴィンセントは何か祝いたいことはないの?」
「そうだな、ではナルシスくんと本命さんが結婚できるようになったことに」

 と言ってボトルにグラスを合わせる。
 どうやら最後まで私に合わせてくれるらしい。
 何か含みを感じた気もするが、酩酊し始めた頭ではよく分からない。
 そんなことよりも二本目のワインも美味しくて、初対面の相手だというのにますます楽しくなっていい気分だった。

「ねぇ、二人は本当に結婚すると思う?」

 彼らの行く末に興味はないものの、ヴィンセントの考えを知りたくて身を乗り出して聞いてみる。
 彼はグラスを持ちながら軽く肩をすくめた。

「真実の愛なんだろう? 本命の女性も親の決めた金目当ての婚約がなくなったなら万々歳じゃないか」
「まだ正式に破棄になったわけじゃないみたいだけど」
「時間の問題さ。財力と真実の愛なら、天秤は愛に傾くと思わない?」
「普通の女性ならそうかもしれないけど、リンダだからねぇ……」

 もしかしたらヴィンセントはリンダのことをよく知らないのかもしれない。
 彼女の派手な装いと、お金のかかった美しい容姿を思い浮かべる。ガルニエ家は財政難と聞いていたが、美容への投資を控えている様子はまるでなかった。他国の大金持ちとの結婚が決まっていたからに違いない。
 もし廃嫡されたナルシスと結婚したら、さすがにあの生活は続けられないだろう。この状況でナルシスが持参金を持たせてもらえるとは思えないし、二人の能力でガルニエ家を立て直せるとも思えない。果たしてあのリンダが貧乏生活に耐えられるだろうか。
 意地の悪いことを考えてしまうけれど、たぶんこれはリンダへの嫉妬の気持ちもあるのだと思う。自分らしさを隠すことなく、ナルシスとお互いの深いところまで見せ合える関係を築き上げたことが羨ましいのだ。

「……でもそうね、自分をさらけ出せる相手が一番よね」
「そうそう。無理して合わない人間と結婚したって幸せにはなれないさ」

 したり顔で言って、ヴィンセントがグラスに口をつける。
 彼にそんなつもりはないのだろうけど、無理をして生きてきた私に対する揶揄やゆに聞こえて恥ずかしくなった。だから、つい軽口を叩きたくなってしまう。

「特にプレイ内容とかね」
「ごふっ」

 けに言うと、理不尽な意趣返しにヴィンセントが思い切りむせた。

「よくこぼさなかったわね」

 一滴もワインを垂らさなかったのを見て、変に感心してしまう。絶妙なタイミングだったのにワインを噴き出さないなんてすごい。

「げほっ、あのねぇ……」

 口許を押さえながら、ヴィンセントが恨みがましい視線を寄越す。

「はぁ、全く……けほっ」

 けれど酔っ払いに説教をしても意味はないと判断したのか、短く嘆息たんそくするだけだった。

「あら大変、まだ咳が。何か飲まれた方がよろしいですわ」

 白々しく言って、半分に減ったグラスにワインを注ぎ足してあげる。

「お気遣いどーも」

 さすがに怒るかと思ったけれど、ヴィンセントはかすかに笑っただけだった。

「君って結構いい性格してるね」

 それから皮肉ではなく、面白そうに言う。

「そうなの、私ってば世界一性格がいいのよ」
「……いい性格と、性格がいいってのは正反対の意味だと思うけど」
「あらそう? なら、あなた言い間違えてたわ」

 しれっとした顔で返すと、ヴィンセントが軽く頬を引きらせる。
 それから弾けるような笑顔になった。

「ホント、いい性格してる」

 くくく、と肩を揺らして笑い、ヴィンセントがグラスをあおる。その屈託のない笑顔に、思わずぽかんと口を開けてしまう。
 この国で気の強い女は好まれない。実際にそう感じる場面も多かったし、だからこそ息苦しくても父の助言に従ってきた。
 けれどヴィンセントは違うらしい。
 どうせもう会うことはないし……と、開き直って素の私を見せても彼は楽しそうに笑うばかりだ。
 しとやかなフリをするのにはすっかり慣れたつもりでいたけれど、自分をいつわらなくてもいいというのは想像していたよりずっと爽快なものだった。
 にわか仕込みの酒宴は、ワインボトル二本がすっかり空になるまで続いた。
 また今度、なんて言葉はどちらからも出なかった。
 それでいいと思った。
 その日私はすっかり涙も悔しさも忘れて、とてもいい気分で眠りについたのだった。


  


   第二章 良いワインは喜びをもたらす


 あの酒宴の日以来、鬱屈うっくつとした思いはかなり晴れたように思う。
 強がりでも空元気でもなく、自分の精神が落ち着いているのを感じる。

「ミシェル、明日の大公家主催の夜会なんだが……」

 晴れやかな気分で朝食を食べていると、父が遠慮がちに声を掛けてきた。
 ナルシスとの婚約を破棄して以来、社交パーティーには一切出席していない。まだそんな気分になれないと断り続けてきたせいで、父はかなり気を遣ってくれるようになった。
 それでも今回ばかりは声を掛けざるを得なかったのだろう。大公家のパーティーは、かなり大規模なものだ。国外からの来賓が参加することも多いし、公爵家の人間ならば病気でもない限り出席するのが普通だ。

「……ええ、そうね。気分転換に参加してみようかしら」

 父の面子メンツもあるし、ずっと傷ついたフリをしているわけにもいかない。前向きな返事をすると、父の顔がパッと明るくなった。

「そ、そうか! うむ、いつまでも塞ぎ込んでいても仕様がないしな!」
「よかったわ、ミシェル。少しは元気になったみたいね」

 安心したように表情を緩める父と、嬉しそうに笑う母に申し訳ない気持ちになる。確かに気落ちしていたのもあるけれど、半分以上は面倒で出たくなかっただけなのだ。

「私はもう大丈夫。心配かけてごめんなさい」

 微笑んで答えると、両親はホッとしたように顔を見合わせた。

「ミシェルにその気があるなら、俺の友人を紹介しようか? お前を気に入っている男は案外多いんだ」
「お兄様……ありがたいお話だけど、それはあくまで『ペルグラン公爵令嬢ミシェル』を、よね?」
「……うん、まあ、そうだな」

 私の問いに、兄が歯切れ悪くうなずく。
 自分の妹が外ではどう見えているのか、そしてそれが本来の私とはどれほど違うのか、十分に知っているのだ。
 出来損ないの淑女でも、大人しくて聞き分けが良い若い娘というのはそれなりに需要がある。だけどそれを求めて寄ってくる人間なんて、きっとロクなものではない。ナルシスとの一件でそう悟ってしまった。

「私、疲れてしまったの。このままの私を愛してくれる人がいないというのなら、結婚はもういいわ」
「そうか……ではもう何も言うまい」

 兄は苦笑して引き下がってくれた。
 もともと家にいる時のミシェルの方が好きだと言ってくれる優しい人だから、猫を被った状態を良いという男性を無理に勧める気はなかったのかもしれない。ただ、この後の人生を一人で歩ませるのは不憫ふびんだと思ってくれたのだろう。

「すまないミシェル、私のせいで……」

 心苦しいという表情で父が言う。私がこうなった原因が自分にあると思っているらしい。

「気になさらないでお父様。娘の将来を思ってのことだと分かっているもの」

 猫を被るようになったのは確かに父の助言がきっかけだけど、やらなければ良かったとまでは思わない。
 私がこうなってしまったのは、あくまでも私のやり方が下手だったせいだ。
 実際、気の強い女というのは社交界では敬遠される。それは社交界に出てから身に染みて理解した。父に従わず自我を通していたら、間違いなく学園でも社交の場でも浮いた存在になっていただろう。

「だがミシェル、自分らしく過ごしていれば少なくともあんな男には……」
「いい勉強になったわ。どんなに良い子でいても、どんなに尽くしても、応えてくれない人間はいるんだなって」
「お姉様、あんなに頑張っていたのに……」

 妹が涙ぐんで悔しそうに言う。
 姉想いの良い子だ。妹は私と違って無理なく淑女に育ち、容姿も優れていて、それこそ引く手数多だろう。変な男に引っかからないように私がついていてやらねば。
 特にナルシスみたいな駄目男には。

「ほらほら、せっかくミシェルが元気になったのだもの、暗い話はもうやめにしましょう?」
「そうだな、料理が冷めてしまう」
「ごめんなさい、お母様」
「今日のスープは特に絶品だな。うちのシェフは世界一だ」

 母の言葉を合図になごやかに笑い合い、食事が再開される。婚約破棄以来、味気なく感じていた食事もここ数日はとても美味しい。
 やはりあの憂さ晴らしの酒宴が良かったのだろう。
 人間、め込みすぎるのは良くないのだ。

「ところでミシェル」

 父に呼びかけられ、ナイフを持つ手を止める。

「その……私のワインセラーに入ったり、なんてことは」
「していないわ」

 言いにくそうな父に、薄く微笑んでよどみなく答える。

「そ、そうか……ならば良いのだ……」

 髭をたっぷり蓄えた威厳のあるお顔が、しょんぼりと悲しげにしおれた。さすがに少し胸が痛む。
 この家で酒飲みは父と私だけだ。母と兄と妹は下戸なので絶対に手を出さない。
 誰が聞いても私の返答は嘘なのだけど、恐らくそれに気づいた全員が父から目を逸らした。私が元気ならそれで、という思いやりに満ちた空気を感じる。父もそう思うからこそ強く突っ込めないのだろう。ありがたい話だ。娘が立ち直るための必要経費だったということで、今回は涙を呑んでもらおう。
 けれどさすがに申し訳ないので、そのうちクレジオ公爵家からいただけるらしい慰謝料で何かいいお酒を買って返そう。そう決意した。


   ◇◇◇


 華やかな空気は嫌いではない。けれど、どうしてだか自分はいつも場違いな気がして苦手だった。
 だけど今日、久しぶりに参加して気づいた。苦手だったのは、こんな楽しげな空間で淑女のフリをしていなくてはならなかったから。我を出さないように大人しいフリをしていたせいで、いつも会話が上滑りしていたのだ。
 淑女というのは何を好むのだろう?
 淑女ならただ静かに微笑んでいるべき?
 そんなことばかりを考えて、結局は何を話せばいいのかも分からず、女性たちの輪になかなか加われなかった。
 本当は豪奢なドレスも好きだし、大ぶりのアクセサリーも好きだし、他の女性たちとファッションの情報交換をしてきゃあきゃあとはしゃいでみたかった。

「あら、ミシェル様。お久し振りですわ」
「まあ、サラ様。ご無沙汰しております。そのネックレス素敵ですわね」
「嬉しい、お気に入りですの。実はこれはタウンゼンドの……」

 だけど、もう私は自分をいつわらなくてもいいのだ。結婚相手候補に見られているかもしれないなんて怯える必要はない。素直に話したいことを話せばいい。そう思うと気が楽だった。
 これまで挨拶と天気の話くらいしかしたことがなかったのに、あれこれ聞く私にサラ・ウィテカーは嫌な顔ひとつせず答えてくれる。学生時代もボロを出さないよう必要最低限の受け答えしかできない私に、いつも気を遣って話しかけてくれていた素晴らしい人格者だ。
 侯爵家の一人娘であるサラが身につけているものはどれも本当にセンスがよく、実のところこれまでも気になっていたのだ。

「ミュゼ通りにそんなお店ができたなんて存じませんでしたわ。今度覗いてみますわね」
「ええ、是非。本当に素敵ですのよ」

 ああ、なんて楽しいの。
 趣味じゃないアクセサリーをめる必要もなく、好きなものを好きと言えるなんて。

「……その、ミシェル様さえよければ、ご一緒しませんこと?」
「いいんですの⁉」

 遠慮がちに問うサラに、思わず前のめりに問い返す。淑女ならありえない所作に、サラが圧倒されたようにのけぞる。
 ああ、やってしまった。
 今のはきっと社交辞令だったのだろう。そんなことにも気づかず、浮かれて彼女の思惑と違う反応をしてしまった。嫌われてしまっただろうか。
 淑女の振る舞い以前に、貴族の付き合い方というものを学ぶべきだった。これまで上辺の付き合いしかしてこなかったツケが回ってきている。

「……ミシェル様、何か吹っ切れたようなお顔をなさってますわね」

 落ち込みかける私に、けれどサラは嬉しそうに笑う。

「そ、そうでしょうか」
「ええ。以前より明るくなられたようで安心いたしました」
「……ご心配くださり恐縮いたしますわ」

 控えめに微笑みを返す。
 彼女は独りの人間を放っておけない性質たちのようで、こうしてさりげなく声を掛けてくれる。それが偽善ではなく本心からなのだというのは、私の変化に気づいてくれたことからもよく分かる。
 明るくなったと感じるのは、私が素の自分を出していくことに決めたから。それがサラのような善人にとって不快じゃないらしいことが嬉しい。

「では、来週末などいかがでしょう?」

 社交辞令ではないことを示すように、サラが具体的な日取りを提案する。

「ええ、その日でお願いします」

 嬉しさのあまり涙がにじみそうになるのを堪えて、時間や行く場所を詳細に決めていく。
 同年代の女性とあてもなくショッピングなんて、悲しいことに初めてだ。興奮で頬が紅潮してしまう。

「実は皆で心配しておりましたの……その、クレジオ公の御子息について、あまり良い噂を聞かなかったものですから」
「まぁ、そうでしたの……私一人知らなくてお恥ずかしい限りです」

 しとやかなフリをしていたのは、もちろん女性の前でもだ。男女で態度の違う女は蛇蝎だかつのごとく嫌われるから。そのせいで女友達が少なかったことが悔やまれる。

「ええ。婚約者でもない女性に手を出していたとか」

 言いづらそうなサラの言葉を聞いて半眼になる。
 ナルシスが派手なグループにいたことは見ていれば分かったけれど、素行が悪いことまでは知らなかったのだ。今なら分かるが、きっと学生時代からそうだったのだろう。
 もし学生時代から彼女と仲が良ければ、ナルシスと婚約なんてしないで済んでいたかもしれない。たとえ公開プロポーズから逃れる術はなかったとしても、少なくとも彼に尽くそうとはしなかったはずだ。
 やはり自分をいつわってもいいことはない。そもそも最初から地を出していれば、都合のいい女としてナルシスから目を付けられることもなかったのだから。

「これからはその、私も皆さんのお話に交ぜていただけますか?」

 面と向かって「お友達になってください」と言うのはなんだか子供みたいで気恥ずかしい。それでも少し恥じらいながら問うと、彼女はパッと顔を輝かせた。

「もちろんですわ! ミシェル様とはもっとお話ししてみたいと思っていましたの!」

 そう言ってサラは私の手を引き、少し離れたところからこちらを窺っていた友人たちの輪に早速入れてくれた。
 最初は戸惑っていた彼女たちだが、警戒することもなく笑顔で招き入れてくれた。サラの友人というだけあって、皆いい人たちばかりだ。
 すぐに素の自分をすべて見せるというのはまだ難しかったけれど、おかげで打ち解けるまでにそう時間はかからなかった。

「――ああ、おかしい。ミシェル様ったらそんなことを考えてらしたのですね」
「実はそうですの……やっぱり変でしたかしら?」

 学生時代の思い出話や、ナルシスやリンダへの鬱屈うっくつした思いを、何重にも重ねたオブラートに包んで吐露とろすると、彼女たちは目元を拭いながら笑ってくれる。

「いいえちっとも。むしろ私たちと同じでホッとしました。今まではどこか近寄りがたい雰囲気がありましたもの」
「本当に。こんなみやびやかな方とお話ししたら絶対に恥をかくって、遠巻きにしていましたわ」
「ええ!? そんなふうに思われていましたの?」

 地味でつまらない女だから友達ができないのだと思っていた。だからある意味仕方のないことだと諦めていたのだ。なのに、お高くとまったスカした女というまさかの方面で嫌われていたなんて、あまりにも嫌すぎる。

「私、本当は大雑把でがさつな人間でしてよ」
「大雑把かは分かりませんけど、気さくで親しみやすい方だと知ることができて嬉しいですわ」
「……好意的に解釈してくださってありがとう」

 私の言葉をいい感じに言い換えて、彼女たちは上品にクスクスと笑い合う。そこに嫌味や皮肉は一切なくて、話していてとても楽しかった。
 彼女らのような人たちこそ『淑女』と呼ぶのだろう。


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