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自分を消すと言う事

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架は、莉子と住むマンションの他に、住む場所があった。綾葉の所ではなく、自社ビルの1階に、寝起きする場所を作っていた。元は、父親である会長が、泊まり込んでいた部屋だ。仕事漬けの父親は、家にも帰らず、会社に泊まり込んでいた。だから、余計に架の母親は、傾倒していった。ピアノで才能を開花させた架を育て上げる。それが、自分の人生を輝かせる事になった。母親の期待通り、架は、コンクールでも、優勝し、名前を欲しい物にしていった。海外に留学し、プロになる事が、母子の夢になった。そんな中で、アクシデントが起きた。
「どうして?」
朝、起きた時に感じた手の違和感。架を起こしに来た母親が、心配するので、架は、平静を装った。が、日増しに、右手の違和感は、増していった。原因不明。あちこちの神経内科、整形外科とあちこちの病院に、内緒で、行ったみたが、何処に行っても、誰も、原因がわからなかった。
「何でだよ」
架は、絶望した。
「弾けなくなりました」
なんて、言える訳がない。ピアノを諦めるのか・・・。母親と父親の争いも増えていった。会社の資金繰りが上手くいっていないらしい。父親は、帰ってくると、母親と激しい喧嘩をする。
「やめろと言うことか・・」
架は、意気消沈した。このまま、諦めて、父親の会社の再起に協力するべきか・・。かとしても、ピアノを諦める事なんて、できない。
「架・・・」
悩める架に父親が声を掛けた。
「今まで、好きな事をしてきたんd。少しは、親の力になってくれないか。」
父親は、架に頭を下げた。
「会社が大変なんだ・・助けてほしい」
架は、夢を諦めた。もう、右手は、動かないかもしれない。早く会社に慣れる為、少しずつ、父親の仕事の代わりを務めるようになった。あの日もそう。
「現場に、届ける図面を忘れた。届けてくれないか?」
現場立ち会いに必要な図面を、届けに行って、架は、事故に遭った。
「逃げろ!」
頭上を見上げた時、鉄骨が、自分の頭上にあった。ゆっくりと、回りながら落ちてくる。
「架!」
近くに居た父親が叫んでいた。
「逃げろ!」
逃げる?何の為に?ピアノの弾けない自分は、もう、死んでいるんだよ。足が動かなかった。
「早く!」
周りの叫び声と、轟音が重なった。土埃が舞い上がり、一瞬、何も見えなくなった。静寂が広がり、悲鳴と怒号が行き交った。
「架・・・」
泣きそうな顔で、駆け付けたのは、父親だった。初めて見る父親の動揺する姿だった。
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