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第八章 雑多
我田引水に溺れる者をあとにして
しおりを挟む空いた皿と酒が増えるにつれて、それぞれに相手が定まってゆく。 大西が何度も呼ぶのを、全く聞こえていない態度をとり続けてマユミは、僕の隣から放れようとしない。 それどころか酔った勢いで体を擦り寄せ、ベタベタと甘えてきた。
「俺が合コンをセッティングしたんだぜぇ……何だよお前らばかり楽しんで。それが人のすることかぁ」
独り浮いた状態になってしまった大西は、冷や酒をかっかと手酌し煽りだした。
こうなった人間は崩壊に向かい、後戻り出来ない破滅の道を突き進むのみ。
遂には、横に座っている別の女に卑猥な言葉を吐き始めて、奴は一層みすぼらしい人格を露にしていった。
(後はこの女を連れ出せば完璧に潰えるな)
「えっと君、どっか二人で行かないか?」
「ホント!行く行く。電話を掛けに行く振りして外で待ってるから後で来てね♪」
周りの女達に、したり顔でウインクを飛ばし、携帯を耳に当て大袈裟に対話する真似をしながら、もう片方に鞄を携え、マユミは店の外に出て行った。
「じゃあ俺、先に帰るわ。酒代はお前の奢りだったよな。ありがとう、ご馳走になったな」
まだ他の奴らに絡んでいる大西は、肩を叩かれても気が付かないでいた。
僕は席を立つ。 残った女達が一斉にこちらを向き、意味深に体の横で手を振る。
(アイツ。後で知ったら怒り狂うだろうな。まっ好きに壊れるさ。自分が蒔いた種だ)
これで喧騒を後に出来ると思うとすっきりする。
外では今か遅しとマユミが立っていた。
「何処に連れて行ってくれるの?」
腕に胸を押し付けながら、しな垂れかかって来た。
「何処でも」
「眠たくなってきたわ」
「じゃあ寝ようか」
マユミはこの答えに思いもかけなかったのか、一瞬動きを止めたが、すぐに歓喜の表情を浮かべ、空かさずそれを恥じらう顔と声へと変えた。
「今夜は友達んちに泊まるって言ってきたから……」
(ここからは何時もの通りでいいな)
次の流れを素早く繰り、場所の設定をと辺りを見渡す。
たじろう演技を続けるマユミの頭越しには、ホテルの看板が幾つか見えている。 先ずはその方向へ向かう事にした。
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