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第十章 ひとすじの光が差し照らす
アノヒトへの伝言
しおりを挟む連絡先は無論、知っている。 しかし帰ることは疎か、電話での連絡もするなと言い渡されていた。
それでも最初の数ヶ月は納得いかなくて、家の近くで待ち、一人でいる時を見計らい声を掛けたりしたのだが、『家で待つヒトが嫌がる』『会いたくないと何度言わせるのか』『執拗にするなら警察に届出る』とその都度、門前払いを食った。 行き場を失った思いが、あの公園へ足を運ばせたのだ。
電話しても留守録にしていて出てくれないだろう。 留守電でも良い、兎に角さっきの事を話せたなら。 それで良いじゃないか。
携帯を開き、久しく開けていなかった『自宅』の番号を表示させ、通話を押した。
(呼出し音が1回、2回、3回、4回……繋がった)
やはり応答メッセージだ。
何度もやるせない思いをさせられた、背中を錆びた鋸で挽かれているような気にさせる機械的な声。
< ……の方は録音をどうぞ。……ピーッ >
「あの……僕です、透です。ご無沙汰しています……お元気でいらっしゃいますか?今日は報告があり電話をしました。僕、女神に会えるかも知れません!貴女に……貴女と会えなくなって全てを失った僕の。希望の光となって現れた女神に、もうすぐ会えるかも知れない。まだ確実でないけど……とにかく望みが出て来て、それがとても嬉しいのです。興奮しています。祐子さんに聞いていただくのは筋違いとも思いますが誰か……」
< ピーッこの録音で宜しいですか?宜しければ…… >
話が尻切れトンボになってしまい、どうするか迷ったが保持する数字のボタンを押し、僕は画面を閉じた。
あの人は聞かずに消去するだろう。
そんな事は決まりきっている訳で、今では別段気落ちなどはしない。 今は名前すら思い出される事も無いのかもしれない。
高揚していた気持ちが冷えてすぼみ落ち着いた。
僕を引取り三年もの間、身内以上に優しく時に厳しく接してくれた人。
恩師であり、恋人であった。
僕を愛してくれた人、祐子さん__
アノヒトは全ての事を教えてくれた。
知識も礼節も聖書の教えも。 それから愛し方も……。
全てが正しい道で、愛し愛される喜びが溢れ、素晴らしい日々、であった。
進学先が決まるまで、いや僕が分を弁えない申し出をするまでは、だ。
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