タブー的幻想録

ももいろ珊瑚

文字の大きさ
上 下
49 / 99
第十章 ひとすじの光が差し照らす

アノヒトへの伝言

しおりを挟む

 連絡先は無論、知っている。 しかし帰ることは疎か、電話での連絡もするなと言い渡されていた。
 それでも最初の数ヶ月は納得いかなくて、家の近くで待ち、一人でいる時を見計らい声を掛けたりしたのだが、『家で待つヒトが嫌がる』『会いたくないと何度言わせるのか』『執拗にするなら警察に届出る』とその都度、門前払いを食った。 行き場を失った思いが、あの公園へ足を運ばせたのだ。
 電話しても留守録にしていて出てくれないだろう。 留守電でも良い、兎に角さっきの事を話せたなら。 それで良いじゃないか。


 携帯を開き、久しく開けていなかった『自宅』の番号を表示させ、通話を押した。

 (呼出し音が1回、2回、3回、4回……繋がった)

 やはり応答メッセージだ。
 何度もやるせない思いをさせられた、背中を錆びた鋸で挽かれているような気にさせる機械的な声。


 < ……の方は録音をどうぞ。……ピーッ >

「あの……僕です、とおるです。ご無沙汰しています……お元気でいらっしゃいますか?今日は報告があり電話をしました。僕、女神に会えるかも知れません!貴女に……貴女と会えなくなって全てを失った僕の。希望の光となって現れた女神に、もうすぐ会えるかも知れない。まだ確実でないけど……とにかく望みが出て来て、それがとても嬉しいのです。興奮しています。祐子ゆうこさんに聞いていただくのは筋違いとも思いますが誰か……」

 < ピーッこの録音で宜しいですか?宜しければ…… >

 話が尻切れトンボになってしまい、どうするか迷ったが保持する数字のボタンを押し、僕は画面を閉じた。
 あの人は聞かずに消去するだろう。
 そんな事は決まりきっている訳で、今では別段気落ちなどはしない。 今は名前すら思い出される事も無いのかもしれない。
 高揚していた気持ちが冷えてすぼみ落ち着いた。



 僕を引取り三年もの間、身内以上に優しく時に厳しく接してくれた人。
 恩師であり、恋人であった。
 僕を愛してくれた人、祐子ゆうこさん__


 アノヒトは全ての事を教えてくれた。
 知識も礼節も聖書の教えも。 それから愛し方も……。
 全てが正しい道で、愛し愛される喜びが溢れ、素晴らしい日々、であった。
 進学先が決まるまで、いや僕が分を弁えない申し出をするまでは、だ。

しおりを挟む
1 / 5

この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!

メロカリで買ってみた

キャラ文芸 / 連載中 24h.ポイント:106pt お気に入り:10

奴隷から始まる優しい生活

BL / 連載中 24h.ポイント:7pt お気に入り:111

窓側の指定席

現代文学 / 連載中 24h.ポイント:844pt お気に入り:13

1人の男と魔女3人

恋愛 / 連載中 24h.ポイント:142pt お気に入り:1

【R18】交際0日。湖月夫婦の恋愛模様【本編完結】

恋愛 / 完結 24h.ポイント:14pt お気に入り:187

不登校が久しぶりに登校したらクラス転移に巻き込まれました。

ファンタジー / 連載中 24h.ポイント:35pt お気に入り:883

フィオ君、娼館で下働き?

BL / 連載中 24h.ポイント:127pt お気に入り:7

処理中です...