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第十章 ひとすじの光が差し照らす
酔っぱらいの記憶
しおりを挟む妙な興奮と安堵の翌日、店に入るなり怒り狂った形相で大西が噛み付いてきた。
「透!卑怯な奴だ、人の物を横取りするなんてよ!」
「ああ?」
「『ああ?』じゃねえ!こっちはマユミちゃんをお持ち帰りしたって知ってるんだからな!」
「一昨日の事か……そう云ったこともあったな」
「“そう云ったことも”だとぉ?すっ惚けたこと抜かしやがって!何様だオマエ!」
コイツのことは愚か、マユミとのことさえ忘れていた。 そのまま記憶の隅に押しやって置きたいのに、間の悪いヤツ。
少しあの続きをしてやる事にして、不機嫌さを前面に出し応答する。
「あの子、お前の何?彼女だったの?」
「いや……そうじゃ無いけど。でも……」
「でも、何?」
「俺が狙ってるの話しただろ!『相手にするな』って言ったよな?」
「ああ。だから相手にしてない。それでいいんだろ?」
「相手にしてないって、二人して消えたんだろ?それって相手になってるじゃねえか!あん時もずっと隣りに座って喋ってたよな?どうせ口説いてたんだろ」
「アレが勝手に引っ付いてきて勝手に話し続けてたんだぜ?あんな好みから離れた女を、俺が何故口説かなきゃならないんだ!意味が分からん」
「『どっか行こう』ってお前から誘ったんじゃないのか?どうなんだよ!」
嫉妬する男の相手程、面倒くさいものは無い。 いつもであれば『女に問え』と言い捨てる。
相手にされ無くて面子を失った女は、大西の想像通りの答えを返すだろうし、それを確かめた大西は更に激昂した事だろうし、一昨日の事はそうさせる為に仕組んだのであるし。
が、今回は相手をしてしまった。 これは僕として恥であり、他言したくない不手際だった。
「マユミ連れて何処へ行ったんだよ!」
「駅の近くまで送ったただけ」
「そんな分かりきったウソをつくなよ。マユミとナンも無しって、あるワケない!」
「誰が何言った知らないが、へべれけに酔って狙った女を送りもしない男が、そんなことを言える立場なのか?」
「か、帰るとわかってりゃ俺っちが送ったさ」
「あの子の出ていく時に『行け』って肩を叩いてやったろ?それも覚えて無いの?」
「覚えてるよ、そう、肩叩いたよな……あぁそうだな。お前は礼を言ってたよな?『ごちそうさま』とか何とか」
あれだけ酔い潰れていて覚えていた大西のこれを、どう利用し何処に話を落とそうか……。
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