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第十一章 懇ろな図りこと
優しい罠の幕閉じ
しおりを挟む「俺に機会を与えて頂けますか?」
「……あなた。私よりも随分、年下の様ですが」
「確かに未だ学生です。事情があって就活はしなかったのですが、安心して貰える様、卒業後は速やかに仕事に就きます」
「そこでは無くて……女の私が年上というのが」
「んもぅ、透君はあんたが好みなの!言っちゃうとね、なんか前から見定めてたきらいがあのよね~。どっかで会って一目惚れした、とか?」
その突然の洞察に、彼が動揺を見せた。
「この謎解きはしちゃいけないのかな?透君はそこんとこちっとも教えてくれないんだものねぇ。だから彩っちに譲る!要らなきゃ私がいただいちゃう!これで手を打とう!OK?」
「この子にも選ぶ権利が有るでしょ。デッカイ子ども抱えたシングルマザーはアウトオブ眼中で決まり」
そして吉冨さんがケタケタ笑う。
「アウトオブ眼中って死語だよ。それにイカズゴケに言われたきゃないわ。私は、一回は、嫁いだんだから」
「ハイハイごめんなさいよ、薫ちゃんは今でも美人だよ、まだまだイケる。でも透君とは親子程の歳の差でしょ?そりゃないわ。然もこんなにイケメンなんだもん」
「恋愛に年の差なんて関係無いのよ!だから私は透君に、他のイケメン君を紹介して貰うんだもん。ねぇ透く~ん」
「はい。その件は全力で補佐します。俺がどうのこうの言うまでもなく、お姉様は魅力的ですから」
「言うねー。言っちゃったら約束不履行は受け付けないよ。薫は飢えてるから、ただじゃ済まない」
「当たり前じゃないですか。分かってますって。でも先ずはアノォ……彼女との出会いを。祝っていただけませんか?」
「そうだった!早く頼まなきゃ!」
安川さんは再びメニューと睨めっこを始めた。
(ハイテンションだなぁ私何も言ってないんだけど)
「あの、私まだ……」
「X'masはアポイント入れて無いのでしょ?ウチらは個々で何かと手が取られるから、彩香に構ってあげられんのよ。とにかくその日、デートして来な」
「じゃなきゃ異動の内定吹き飛ぶよん♪」
彼女達の強引過ぎる提案で、私とその彼は聖夜にデートする事となった。 なってしまった。
彼がどの様な理想像を安川さんに伝えたのかは、その後も双方共に口を噤んでさわりでさえ聞けなかった。
二人の優しい罠に嵌まったことを、ずっと感謝するとは予想だにしてはいなかったが。
これが私と透との出会いの一部始終である。
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