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第十六章 聖人は薔薇の耽美の中に
聖職者としてでは無く、友として
しおりを挟む金田 晋人の視点――――
建物を出て、木漏れ日が微笑みかける中を通り、それが僅かな障りも許さず二人を包み隠す場所へと辿りつく迄、私達は何も話さなかった。
祐子さんは気持ちの整理をしているのか、ずっと前を向いた侭、こちらを向かないでいた。
何が彼女をこんなに物憂げにさせるのだろう。
出会った頃と変わらない愛くるしい横顔は、幼さはまだまだ抜けてはいない。 生まれ持ったお嬢様と証明しているかの様なその目元。 可愛いらしさはそのままに、元々の整った顔立ちが会えないでいたこの月日のうちに、幾分大人びた様に感じる。
利発な彼女だが、それだけに時折見せる陰りが残念で為らない。
大学ではどうしているのか、環境に馴染んでいるのかと心配であったが、寮の住所を教えて貰えず弱った末に自ら調べてやっと手紙が出せた。
大学での生活は到って良好な様子。
友も出来たらしいし学業でも困ってはいないと云うし、そこの所は安心した。
進むべき道について相談を受けた折、私は敢えて、入寮しなければ為らない距離に在る美大への進学を勧めたのであった。 それが間違いでは無かったと確認したいが為、今日会うことを決めて来た。
彼女が悩んでいるのは、恐らくは、父親のあの過剰過ぎる保護から生じているのだと推測されるのだが、先程、彼女が懺悔と口にした時の表情は尋常では無い。
果たして僕に受け止めることが可能だろうか?
神の御業に背く、人として至らないこの私が……。
否、聖職者としてでは無く、友人として絶対に受け止めよう。
友の決しの告白なのだ。
僕も真摯に聞こう。 そして出来るならば、その苦悩を一緒に受け分かち合いたい。
友のしてきた思いを理解出来ない筈は、決して無い。
生まれ育ちが違えど、共に神の子では無いか。
(晋人よ、勇気を奮い立たせろ)
「私はとても罪深い人間なのです。」
噴水が飛沫を上げそれが顔に掛かった時、彼女は重い口調で話し出した。
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