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しおりを挟む第一、店に来ても文句ばかりで自分はろくに働きもしないというのは、さすがにいかがなものかと思う。そんな有様なのになぜ毎日来るのか、ただただ疑問でしかなかった。
もしや、部下にストレスを与えに来ているのだろうか。もしくは、誰かを見張るのが趣味なのか。なんにせよ、納得できる理由ではないだろう。
彩香は天井に両腕を伸ばし、いるのかいないのかよくわからない神様とやらに、願い事をしてみる。図々しい自覚はある。
「ああー、神様! どうかカタクラさんがギリギリ店に出てこれない程度の体調不良にさいなまれて一ヶ月くらい出勤してきませんように!」
そのとき、テーブルの端に置いていた雑誌が音をたてて落ちた。
彩香はそちらに目をやり、ひらいて落下した雑誌のページに目を走らせる。
――取り扱い注意! 本当に効くおまじない5選!
ページには大きく、そんな文字が躍っていた。彩香は思わず眉を寄せる。
「……嘘くさ。なに、この古い詐欺みたいな」
率直な感想をぼやき、雑誌をつまみ上げてテーブルに戻した。
「っていうか、こんな雑誌買ったっけ? 私」
占いやおまじないの類いに関心の薄い自分がこんな雑誌を買うとは思えず、ぱらぱらとページをめくって確かめる。
が、それは間違いなく、先週に購入したファッション雑誌であった。どうやら、おまじない云々は雑誌内の企画のひとつらしい。
彩香はページをさらにめくり、そのおまじないのコーナーを読んでみる。
「……気になる彼を今カノと別れさせるおまじない……。恋のライバルの食欲を活性化させて太らせるおまじない……。なんか、おなじないっていうより呪いっぽいような……」
基本的にそこまで恋愛に積極的ではない彩香から見れば、そのおまじないの内容はどうにも笑い飛ばしにくい。ライバルを貶める内容のおまじないではなく、もっと前向きになれる内容のおまじないはないものか。
そもそも、それを抜きにしても、今のご時世におまじないを信じる人間がどれほどいるのか。
雑誌を眺めながら、彩香は小さくため息を漏らす。
「……でもまぁ、効果がなくても、こういうので多少は気が晴れるってことは……あるか」
自己満足というものは、存外に馬鹿に出来ないものだ。それによって不安やストレスが発散されるのであれば、たとえ効果がなくとも無意味なものではないだろう。
それを考えると、むしろ効果はないほうが喜ばしいのかもしれなかった。誰も傷付けることなくマイナスな感情を発散できるのであれば、それに越したことはなかろう。
そこまで考えて、彩香の視線はページの一部に釘付けになった。書かれている文字を、声に出して追ってみる。
「……バイト先の上司を軽い病気にするおまじない……」
思わず、彩香は笑った。
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