悪魔につけこまれたお姫様の話

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姫と悪魔

2 邪な企み

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 錆びついたドアノブが回る音に、シェリルは顔を上げた。
 不吉に軋むドアの向こうからのっそりと姿を現したのは、不健康に太った男だった。
 およそ武に優れているようには見えない風貌だが、勲章の並ぶ軍服を着ている。宝石で飾り付けられたボタンがはち切れそうだ。

「伯父様……!」

 掠れたか細い声ながら、シェリルは呼んだ。

「ああ、伯父様! ご無事でいらっしゃいましたのね」

 男は、シェリルの父の兄だ。

「もちろんだとも、シェリル」

 にやりと粘っこい笑みを浮かべ、歩み寄ってきた。

「おお、かわいそうに。こんなに目を腫らして」

 シェリルの大きな青い瞳から、再び涙がこぼれ始める。

「伯父様、お父様が……お母様が……! なんで、なんにも、悪いことなんて、していないのに……!」

 男の影が、立ち上がることのできないシェリルにかかる。
 悲しみに暮れ、やつれ果てていようと、シェリルは美しい姫だった。極上の絹糸でも敵わぬプラチナブロンドの輝き、透けるような白肌。
 今は涙に濡れている、長い睫毛に縁取られたサファイアの双眸。紅がなくともうっすらと色づいた、清らかな花の蕾を思わせる唇。
 両親の整った容貌を継いでいる。
 男には、それが忌々しい。凶暴な欲望が否が応でも掻き立てられる。
 何も知らぬ愚かな姫。この状況で軍に所属する伯父を疑わず、無事に安堵してみせる。

「いいや、シェリルのお父様とお母様は、悪いことをしたんだよ」

 男の言葉に、シェリルは目を見開いた。

「……伯父様?」
「いいかい、あいつはね、先に生まれたお兄様を差し置いて、王様になったんだ。順番を守らないのは、悪いことだね?」

 愉快でたまらないといった態度を隠さず、男はシェリルを見下ろして、幼い子供を諭すように不気味に優しい口調で続ける。

「お兄様のお母様より、自分のお母様の方が身分が高いからってね。身分で差別するのはいけないって、偉そうに言うくせに。それに、シェリルのお母様もいけないんだよ。伯父様が結婚してあげるって先に申し込んでいたのに、あいつを選んだんだ。王妃の座に目が眩んだんだね」

 シェリルは愕然として、男を見上げていた。頭に手を乗せられて、びくっと身体を強ばらせる。

「さあ、シェリルはいい子かな? 伯父様の言うことがちゃんと聞けるなら、ここから出してあげようね」

 油染みた指が、シェリルの髪をくぐる。頬をべたべたと触ってくる。
 短く息をつきながら、シェリルが問う。

「伯父様が、したことなの?」
「ああ、バカな娘だ!」

 男はこらえきれずにゲラゲラ笑った。
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