悪魔につけこまれたお姫様の話

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侍女と狼

6 癒しの力

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 呪わしい夜でも、時が経てば明ける。朝の光が、女王の寝室の天蓋をしらじらと照らす。
 控えめな呼びかけに、シェリルは目を覚ました。
 そっと天蓋を持ち上げて、エマが姿を見せる。きちんと髪を結ってプリムをつけた、いつもの装い。

「エマ!」

 幼子のように飛びついてきたシェリルを、彼女は受け止めた。

「あらまあ、どうなさったんですか」
「だって」

 口に出し確かめるのも厭わしい、あの光景。

「夢見が悪うございましたか? 大丈夫ですよ、なにもご心配なさることなんてございません。美しい朝でございます」

 そして、エマは申し添えた。

「昨晩は、夜のお茶をお持ちせずに申し訳ありませんでした。少し、奥に手を取られてしまって……」

 シェリルはひととき、エマの言葉を信じた。なにも起こっていないのだと、思おうとした。

 病んだ人々が、ベッドを降りてシェリルをふし拝む。

「女王陛下、お許しください」

 痘瘡に瞼まで覆われた老婆が、譫言のように言う。
 若い母親が、高熱に喘ぐ幼な子を抱いたまま、身を折っている。

 シェリルは子に右手を伸ばす。子が身を返し、母の腕から落ちかけるのを、咄嗟にもう片手……印のある左手で、受け止めた。

 印が、光を放った。
 子の顔から、腕から、痘瘡が溶けるように消えていく。痛々しく熱をもった頬から腫れが引き、呼吸が落ち着いた。
 シェリルとともに子を抱く母親からも、痘瘡が見る間に消えていく。

「奇跡である! 女王陛下が慈悲を持って奇跡をお示しになった!」

 付き従う神官が、杖をかざして宣言する。

「女王陛下、万歳!」

 歓喜の声が沸き起こり、シェリルに近づこうとする病人たちを護衛が押しとどめて、場は混乱する。
 シェリルは涙を流して感謝を述べる母親の前で、呆然と立ち尽くしていた。

 ふと、獣の息が耳にかかる。

「よかったね、女王様」

 護衛についてきていたジークが、悪びれることなく言った。
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