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16 一目惚れじゃなかったみたいです
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ベルの服屋を出たディミエルとライシスは、お互い照れたままで通りを歩きはじめた。
「そろそろお腹空いてない? お昼を食べようか」
「うん……」
「ディミーは鳥料理が好きって聞いたから、美味しい鳥を出す店を予約したんだ」
「それもネーナから聞いたの?」
「そう」
悪びれもなく肯定するライシスに、苦笑する。
「今度から私に直接聞いてね。もう無視したり避けたりしないから」
「あ、じゃあ聞きたかったんだけどさ。ベルの選んだ服はディミーの好みにあってた? アイツの趣味を押し付けられてないか、気になったんだ」
ディミエルはとんでもないと首を振った。
「ううん、すごく素敵で、かわいいと思う。自分では選んだことがなかったけれど、私はこういう服が似合うんだね。とても参考になったわ」
「ディミーは肌が白いから、薄めの色もふんわりと着こなせるね」
「そうかな……ライシスの方が日に焼けてはいるけど、元々の色素は薄いね。その銀色の髪、綺麗だと思う」
「え、そう? 嬉しいな、ディミーに気に入ってもらえるなら、こんな派手な髪でよかったよ」
話をしている間にも、周囲から視線がビシビシ飛んでくる。
その中には羨むものや敵意を感じるものもあったが、ディミエルはもう俯いたりしなかった。
(服を変えてお化粧をするだけで、こんなに自信が満ちてくるものなのね)
いつもは隠しがちな胸を張って歩くと、やはり無遠慮な視線が飛んでくる。
けれどライシスと一緒なら、変な人に声はかけられないだろうと、安心していられた。
鳥料理のお店は、前回のケーキ屋よりはカジュアルな雰囲気で、ディミエルは寛いで食事ができた。
ライシスが、優雅にカトラリーを操る様を見て気づく。
(とっても所作が綺麗ね。もしかして、貴族出身というのは本当なのかしら)
仕事柄、冒険者について調べたり考えたりすることが多い。
他の冒険者はもっと粗野で、荒くれ者ばかりのイメージだが、ライシスはそうではなかった。
そこが、彼が女性にモテまくる由縁でもあるのだろう。綺麗で強くて王子様みたいで、いかにも人気が出そうだ。
銀色のまつ毛が、頬に影を落とす様子に見惚れていると、彼と目があった。海色の瞳が、弓形に弧を描く。
「どうしたの? そんなに見つめて」
「っ、なんでもないわ」
(危ない、本当に綺麗な人だから、うっかりもっと近くで見つめたくなってしまう)
いっそ付き合ってみればいいのに、と心の中に住むネーナがささやいてくる。
ディミエルは首を振って、その思考を追い出した。
レストランを出て、その後は公園に向かった。暑い日差しを遮る公園は、町の癒しスポットのようで、たくさんの町人が訪れている。
「綺麗なところだね」
「落ち着くよな。ディミーはやっぱさ、自然が好きなの?」
「自然というか、森が好きね。薬草や森の恵みを分けてもらいながら、魔女らしく慎ましく暮らすのが落ち着くの」
「へえ、そうなんだ。自然はいいよな。俺も辺境の森にいた時は、そこらへんに成ってる木の実の場所とか覚えて、収穫するのが楽しかった」
ディミエルは驚いてライシスを見上げた。
(そっか、この人は冒険者だから、森で暮らすことに抵抗がないのね)
ディミエルの中で、ライシスの好感度がぐんと上がった。
彼だったら薬草作りを手伝ってくれそうだし、ディミエルでは手が行き届かない力仕事だって、嫌な顔をせず引き受けてくれそうだ。
実のところ顔だって好みだし、ここ数日関わってみて、思っていたような不誠実な人ではないことに、気づきはじめている。
再び想像のネーナが茶々を入れてくる。だから付き合ってみればいいのに、結婚に興味ないわけじゃないんでしょ? という言葉に揺らいだ。
「そろそろお腹空いてない? お昼を食べようか」
「うん……」
「ディミーは鳥料理が好きって聞いたから、美味しい鳥を出す店を予約したんだ」
「それもネーナから聞いたの?」
「そう」
悪びれもなく肯定するライシスに、苦笑する。
「今度から私に直接聞いてね。もう無視したり避けたりしないから」
「あ、じゃあ聞きたかったんだけどさ。ベルの選んだ服はディミーの好みにあってた? アイツの趣味を押し付けられてないか、気になったんだ」
ディミエルはとんでもないと首を振った。
「ううん、すごく素敵で、かわいいと思う。自分では選んだことがなかったけれど、私はこういう服が似合うんだね。とても参考になったわ」
「ディミーは肌が白いから、薄めの色もふんわりと着こなせるね」
「そうかな……ライシスの方が日に焼けてはいるけど、元々の色素は薄いね。その銀色の髪、綺麗だと思う」
「え、そう? 嬉しいな、ディミーに気に入ってもらえるなら、こんな派手な髪でよかったよ」
話をしている間にも、周囲から視線がビシビシ飛んでくる。
その中には羨むものや敵意を感じるものもあったが、ディミエルはもう俯いたりしなかった。
(服を変えてお化粧をするだけで、こんなに自信が満ちてくるものなのね)
いつもは隠しがちな胸を張って歩くと、やはり無遠慮な視線が飛んでくる。
けれどライシスと一緒なら、変な人に声はかけられないだろうと、安心していられた。
鳥料理のお店は、前回のケーキ屋よりはカジュアルな雰囲気で、ディミエルは寛いで食事ができた。
ライシスが、優雅にカトラリーを操る様を見て気づく。
(とっても所作が綺麗ね。もしかして、貴族出身というのは本当なのかしら)
仕事柄、冒険者について調べたり考えたりすることが多い。
他の冒険者はもっと粗野で、荒くれ者ばかりのイメージだが、ライシスはそうではなかった。
そこが、彼が女性にモテまくる由縁でもあるのだろう。綺麗で強くて王子様みたいで、いかにも人気が出そうだ。
銀色のまつ毛が、頬に影を落とす様子に見惚れていると、彼と目があった。海色の瞳が、弓形に弧を描く。
「どうしたの? そんなに見つめて」
「っ、なんでもないわ」
(危ない、本当に綺麗な人だから、うっかりもっと近くで見つめたくなってしまう)
いっそ付き合ってみればいいのに、と心の中に住むネーナがささやいてくる。
ディミエルは首を振って、その思考を追い出した。
レストランを出て、その後は公園に向かった。暑い日差しを遮る公園は、町の癒しスポットのようで、たくさんの町人が訪れている。
「綺麗なところだね」
「落ち着くよな。ディミーはやっぱさ、自然が好きなの?」
「自然というか、森が好きね。薬草や森の恵みを分けてもらいながら、魔女らしく慎ましく暮らすのが落ち着くの」
「へえ、そうなんだ。自然はいいよな。俺も辺境の森にいた時は、そこらへんに成ってる木の実の場所とか覚えて、収穫するのが楽しかった」
ディミエルは驚いてライシスを見上げた。
(そっか、この人は冒険者だから、森で暮らすことに抵抗がないのね)
ディミエルの中で、ライシスの好感度がぐんと上がった。
彼だったら薬草作りを手伝ってくれそうだし、ディミエルでは手が行き届かない力仕事だって、嫌な顔をせず引き受けてくれそうだ。
実のところ顔だって好みだし、ここ数日関わってみて、思っていたような不誠実な人ではないことに、気づきはじめている。
再び想像のネーナが茶々を入れてくる。だから付き合ってみればいいのに、結婚に興味ないわけじゃないんでしょ? という言葉に揺らいだ。
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