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21 どうしても生理的に無理なんです
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黒髪をキザったらしく掻き上げたセレストは、得意げに語り続けた。
「幸い僕は次男坊ですから、貴族令嬢ではない貴女を、正式に妻にできます。平民の貴女に対して、無理に貴族の流儀を押しつけるつもりもありませんし、苦労はさせませんよ」
セレストは視線や発言が助平すぎるところ以外は、至って好条件な男なのだろう。
ディミエルにとっては、その一点がアウトすぎるのだが。
綺麗な顔の伯爵令息が、真剣に口説いてくれるなんて、ネーナが聞いたら全力でプッシュする案件だ。
「僕は貴女の薬の知識を高く評価していますし、見た目も抜群に好みだと感じています。妻にするなら貴女がいいんです」
「前から、考えられないって、お断りしてますよね……」
「なぜなんですか? あの男はよくて、どうして僕は駄目なんです?」
苛つきを含んだ声音と共に、セレストはディミエルに近づき手首を握ろうとした。
触れた瞬間、バチっと小さな雷のような衝撃が走り、彼は手を引っ込める。
「な、これは……?」
(特別製だって言ってたのは、これのことかしら。好意を持たれている場合にも、私に拒絶の意思があると発動するのね。助かるわ)
彼が怯んでいる間に、数歩後ずさり距離をとった。
「触らないでください、私はお仕事をしに来たんです」
「……僕の手を取らなかったことを、後悔しますよ」
セレストは、昏い目つきでディミエルの胸を睨みつけて、屋敷へと戻っていった。
ホッと胸を撫で下ろし、門番に薬を納品する。時間を食ってしまった。ネーナと会う約束をしているので、早足でギルドまで駆けつける。
薬を持ち込むと、いつもより多量に売ってくれないかと交渉された。
読みが当たったと思いながら、作り溜めしてきた薬を買い取ってもらう。
辺りを一周見回して、ライシスがいないか確認をしたけれど、すでにギルド内にはいないようだった。
残念だけど、今日はもう会えなさそうだ。肩を落として、ネーナとの待ち合わせ場所に向かった。
町の中央広場に向かうと、リスの尻尾のようなポニーテールは、すぐに見つかった。軽く挨拶をして、連れ立って歩く。
「久しぶり、ディミー。ライシスとは上手くいってる?」
開口一番にそう尋ねられて、ディミエルは彼女に恨みがましい視線を向けた。
「ちょっとネーナ、勝手に私のことを話さないでよね」
「あー、ごめんねえ。あんまりにも必死に、アンタのことを教えてほしいってお願いされたからさ。ディミーに対して本気なんだわって感動して、つい応援したくなっちゃったのよ」
「……必死だったの?」
ディミエルが聞き返すと、ネーナはにんまりと頬を緩めた。
「ええ。それはもう。こっちが引くぐらいに頼みこまれて、しょうがないから当たり障りのないことだけ教えてあげたの」
「ふうん、そう……」
「おやあ、潔癖なディミーにしては、満更でもなさそうな態度じゃない? これはつきあっちゃう未来も近いかもしれないね!」
「……」
ディミエルが黙り込むと、ネーナは目の色を変えて興奮した。
「えっ、まさか本当にありえちゃう感じ!?」
「まだ考えてるだけ。つきあうだなんて、軽々しくできるものじゃないし」
「結婚や婚約じゃないんだから、軽々しくお試しすればいいじゃない! 私は応援するわ!」
鼻息を荒くして顔を近づけるネーナに、こほんと咳払いをする。
「その話は置いておいて、大事な話をさせてちょうだい。町の冒険者が出払ってるみたいね」
ネーナは途端に、不安そうに表情を曇らせた。
「ああ、そうなのよ。変異種の魔物が出たとか、町まで魔物が押し寄せてくるとか、変な噂が出回ってるわ。おかげで推しの冒険者がみーんないなくて、情報の仕入れようがないのよ。私は一体誰の勝利に賭ければ良いの?」
「賭けなくていいから。薬の需要は今後も増えそうなのかな」
「増えると思うよー、実際怪我して帰ってくる人が増えているしね。ディミーも気をつけてよ」
「やっぱりそうなのね、気をつけるわ」
ディミエルは固い表情で頷いた。もう少し森に頻繁に採取に出て、薬の量を増やす必要がありそうだ。
「幸い僕は次男坊ですから、貴族令嬢ではない貴女を、正式に妻にできます。平民の貴女に対して、無理に貴族の流儀を押しつけるつもりもありませんし、苦労はさせませんよ」
セレストは視線や発言が助平すぎるところ以外は、至って好条件な男なのだろう。
ディミエルにとっては、その一点がアウトすぎるのだが。
綺麗な顔の伯爵令息が、真剣に口説いてくれるなんて、ネーナが聞いたら全力でプッシュする案件だ。
「僕は貴女の薬の知識を高く評価していますし、見た目も抜群に好みだと感じています。妻にするなら貴女がいいんです」
「前から、考えられないって、お断りしてますよね……」
「なぜなんですか? あの男はよくて、どうして僕は駄目なんです?」
苛つきを含んだ声音と共に、セレストはディミエルに近づき手首を握ろうとした。
触れた瞬間、バチっと小さな雷のような衝撃が走り、彼は手を引っ込める。
「な、これは……?」
(特別製だって言ってたのは、これのことかしら。好意を持たれている場合にも、私に拒絶の意思があると発動するのね。助かるわ)
彼が怯んでいる間に、数歩後ずさり距離をとった。
「触らないでください、私はお仕事をしに来たんです」
「……僕の手を取らなかったことを、後悔しますよ」
セレストは、昏い目つきでディミエルの胸を睨みつけて、屋敷へと戻っていった。
ホッと胸を撫で下ろし、門番に薬を納品する。時間を食ってしまった。ネーナと会う約束をしているので、早足でギルドまで駆けつける。
薬を持ち込むと、いつもより多量に売ってくれないかと交渉された。
読みが当たったと思いながら、作り溜めしてきた薬を買い取ってもらう。
辺りを一周見回して、ライシスがいないか確認をしたけれど、すでにギルド内にはいないようだった。
残念だけど、今日はもう会えなさそうだ。肩を落として、ネーナとの待ち合わせ場所に向かった。
町の中央広場に向かうと、リスの尻尾のようなポニーテールは、すぐに見つかった。軽く挨拶をして、連れ立って歩く。
「久しぶり、ディミー。ライシスとは上手くいってる?」
開口一番にそう尋ねられて、ディミエルは彼女に恨みがましい視線を向けた。
「ちょっとネーナ、勝手に私のことを話さないでよね」
「あー、ごめんねえ。あんまりにも必死に、アンタのことを教えてほしいってお願いされたからさ。ディミーに対して本気なんだわって感動して、つい応援したくなっちゃったのよ」
「……必死だったの?」
ディミエルが聞き返すと、ネーナはにんまりと頬を緩めた。
「ええ。それはもう。こっちが引くぐらいに頼みこまれて、しょうがないから当たり障りのないことだけ教えてあげたの」
「ふうん、そう……」
「おやあ、潔癖なディミーにしては、満更でもなさそうな態度じゃない? これはつきあっちゃう未来も近いかもしれないね!」
「……」
ディミエルが黙り込むと、ネーナは目の色を変えて興奮した。
「えっ、まさか本当にありえちゃう感じ!?」
「まだ考えてるだけ。つきあうだなんて、軽々しくできるものじゃないし」
「結婚や婚約じゃないんだから、軽々しくお試しすればいいじゃない! 私は応援するわ!」
鼻息を荒くして顔を近づけるネーナに、こほんと咳払いをする。
「その話は置いておいて、大事な話をさせてちょうだい。町の冒険者が出払ってるみたいね」
ネーナは途端に、不安そうに表情を曇らせた。
「ああ、そうなのよ。変異種の魔物が出たとか、町まで魔物が押し寄せてくるとか、変な噂が出回ってるわ。おかげで推しの冒険者がみーんないなくて、情報の仕入れようがないのよ。私は一体誰の勝利に賭ければ良いの?」
「賭けなくていいから。薬の需要は今後も増えそうなのかな」
「増えると思うよー、実際怪我して帰ってくる人が増えているしね。ディミーも気をつけてよ」
「やっぱりそうなのね、気をつけるわ」
ディミエルは固い表情で頷いた。もう少し森に頻繁に採取に出て、薬の量を増やす必要がありそうだ。
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