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第六幕

170.帝国の未来を決めるお茶会

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 クリスティーネをお茶会に誘うため、テオドールに菓子作りを命じた。他国の調理場であっても、最上級のお菓子を作ってくるでしょう。期待できるわ。

 個人的にはカラフルなマカロンが好きだけど、この世界だと色付けが難しい。カラフルな着色料がないの。花やハーブを利用すると、香りや味も出てしまう。色だけ欲しいのよね。その辺の工夫は、リュシアンにお願いするとして。

 今日の注文はシフォンケーキだった。この世界にもケーキはあるけれど、あのふわふわ食感はない。お母様も絶賛のシフォンケーキなら、彼女も満足してくれるはずよ。前世と違って電動泡立て器がないから、すごく大変だけどね。

「シフォン……ケーキ!」

 思惑通り、目を輝かせるクリスティーネは可愛い。いえ、一般的には美人系で綺麗と表現するでしょう。でも凛々しい男装も似合いそうな美女が、甘い物に目をキラキラさせる姿は、可愛いわよね。

「食べながら聞いてちょうだい」

 前置きして、エレオノールと詰めた案を提示した。フォークで上品に切って、口に運ぶクリスティーネが頷く。添えたクリームは、スコーン用だけど……どうかしら。この世界に生クリームがなくて、なぜかチーズ系のクリームなのよ。いつか作らせるけど。

 一口頬張れば、幸せが広がる。大袈裟じゃなく、本当に美味しかった。臨時大使の肩書きがあるのに、お菓子を作って給仕する彼は、執事そのもの。始終笑顔で嬉しそう。

「ヴァルター騎士団長は正義感の強い方で、真っ直ぐな竹みたいな人です」

 竹はこの世界で発見してないから、前世を知らないと伝わらない表現だった。私相手だから、前世の言葉が出たのかしら。

「皇帝として担ぎ上げるのに適しています。足りない部分を父が宰相として補う案も、問題なく機能すると思いますわ」

 だけど、何か引っ掛かるのね? そんな口調のクリスティーネに先を促す。迷いながら、彼女は切り出した。

「ヴァルター騎士団長は奥方様を早くに亡くされて、ご令嬢が一人おられます」

 ここまでは私も調査結果を読んで知っている。しかし続きは、まだ耳にしていない情報だった。

「そのご令嬢が……実は、その……」

 言い淀む姿から、ほとんどの貴族は知らない秘められた話だと察する。ごくりと喉を鳴らして身を乗り出す私に、クリスティーネはきっぱり答えを示した。

「猫獣人なのです」

「猫?」

「はい、猫です」

「……そういえば、我が国の貴族から、ルピナス帝国へ輿入れした方がいらした、かも」

 エレオノールが記憶を辿りながら「駆け落ちでしたね」と手を叩く。駆け落ちで逃げた貴族令嬢は、貴族名鑑から削除される。そのため、私は知らなかった。エレオノールも伝え聞きで知っている程度の情報だ。

「……問題になるかしら」

 ぽつりと疑問を口にしたエレオノールに、私は少し考えて笑顔を浮かべる。そうよ、ご令嬢がいるなら手はあるわ。

「逆よ、利用して立派な婿を迎えたら足元は盤石だわ」

 確か、ルピナス帝国の公爵家に一人、変わり者の男がいたわね。目配せするまでもなく、テオドールが口を挟んだ。

「リッター公爵家次男、エトムント殿が最適かと存じます」

 猫どころか、動物が好き過ぎることで有名だった。あまりに動物を拾ってくるので、父母に「別の屋敷に住みなさい」と別居を言い渡されたほど。皇族の血を引く公爵家の次男で、猫好き。何も問題ないわ。

「というわけなの」

 微笑んだ私に、クリスティーネは肩を竦めて口元を緩めた。

「承知いたしました。彼なら確かにぴったりですわ」
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