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第十一幕

402.信賞必罰は政の基本よ

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 なぜダメなのか、私に叱られているのか。理解できるまで一時間ほど言い聞かせた。頭の出来は悪くないはずよ。お母様はお兄様の教育に手を抜かなかったもの。途中で脳が筋肉に変わっただけだった。

「本当に申し訳ありません」

 夫の代わりに頭を下げたエルフリーデは、茶色い髪を三つ編みにしている。騎士として仕事をするときは、後ろで束ねると決めたんですって。彼女らしいわね。忠誠心あふれる彼女に免じて、お兄様は解放された。

「今後は余計なことを子ども達に吹き込まないで頂戴。余計なことをしたら……わかってるわね?」

「わかった」

 何度も頷く兄は、私の恐ろしさをよく知っているはず。愚かな行動で寿命を縮めないことを祈るわ。

 リュシアンが向かったのは、叛逆者達が集うリッシリアの街だった。比較的大きな都市だけれど、叛逆者が旗を振った理由の一つは……この街がシントラーの首都だったこと。元王族が今も住まう土地なの。もちろん、彼らに叛逆の意図はない。けれど、担ぎ出されてしまったのよ。

 過去の栄光に縋ったのは貴族達ね。王族はすでに新しい生活に馴染んでいた。にも関わらず、担ぎ出されるなんて不幸なことよ。だから王族は残して、貴族だけを処分するつもりだった。

「エルフリーデ、リュシアンと連絡が取れるかしら?」

「はい、もちろんです」

 精霊魔法の使い手であるエルフリーデは、精霊経由でリアルタイム中継が可能になる。現時点で精霊が力を貸してくれるリュシアンと彼女だけの特権ね。過去にプロイセ国の騒動で、役に立ったわ。私の護衛として近くに居るエルフリーデは、その後も外へ出たがるリュシアンとの中継を担当している。

 これに関しては特殊能力なので、今後の治世に織り込むことはできなかった。もちろん、次世代のヴィンフリーゼへ引き継がせることも不可能だわ。代替わりすれば、リュシアンはシュトルンツを離れる可能性がある。エルフリーデも人族だから寿命問題があった。

 いくら便利でも不確定要素を織り込んだ政治は、必ず破綻する。ならばそれに変わるシステムを構築すればいい。現在エレオノールと練っている策が動き出せば、いずれは迅速な情報伝達が可能になるわ。

「何を伝えますか?」

「王族は五体満足で生かしておいてと。それから貴族に関しても、公式に罰を与えるから息の根を止めないように。そのくらいかしらね」

 扱いに大きな差が出るのは当然だった。王族は巻き込まれた被害者であり、人質のような存在よ。主犯の貴族は痛い目を見てもらう。その上で生かして引き摺り出し、処刑する必要があった。見せしめは、どの世界線でもいつの時代でも効果があるの。

 恐怖政治を敷くつもりはない。ただ信賞必罰、逆らえば相応の罰があることを周知するだけ。主犯への処刑を許可する書類を作成して押印する。それを受け取ったエレオノールが「手配いたします」と静かに頭を下げた。

 リュシアンはどんな手段で敵を追い詰めるつもりかしら。とても楽しみだわ。最近、少し退屈していたのよね……私。ふふっと笑う私の金髪を一房手にとり、口付ける夫は「ご機嫌ですね」と嬉しそうに声を弾ませた。
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