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第十一幕
431.姉妹の違いが鮮明になるほど安心する
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ヴィンフリーゼは、私の執務を手伝うようになっていた。まず失敗しようのない手配から任せ、徐々に難易度を上げていく。三回失敗したら、一度レベルを下げてやり直し。確認作業が入るので、正直面倒だけど仕方ないわ。
私も同じように育ててもらったんだもの。今なら、お母様の言動や采配の理由が分かる。逆に言えば、ヴィンフリーゼも同じ年齢にならなければ、私が執務を預けた理由は理解できないでしょう。
「お母様、これ見て。上手に出来たの」
得意げに刺繍を披露するパトリツィアは、政にまったく興味を示さなかった。故意なのか、偶然か。どちらにしても姉と競う気はないみたい。最近は刺繍と読書に凝っていて、その前は剣術だったわね。お陰で立派な剣だこのある姫に育ったわ。
読書も歴史が好きで、それ以外は恋愛小説を夢中になって読んでいたっけ。
「見事ね、私は刺繍があまり得意ではなかったから……テオに似たのかしら」
手先の器用さは、父親譲りね。お茶の時間は執務の話をしない。これは我が家の決まり事だった。お気に入りのお茶菓子を引き寄せたエレオノールが、ふと思い出したように口を開く。
「来週、二日ほど休暇をいただけますか」
「いいわよ」
理由は聞かなくても分かるわ。前回のお休みから時間が経ったから、可愛いワンちゃんが暇を持て余しているのでしょう。二日と言わず、もっと欲張ってもいいのに。微笑んで、休暇の申請書の日付を書き換えようと決めた。
「お母様はお父様とどうやって出会ったのですか」
「そう、ね……拾ったのよ」
そこで「お母様とお父様は」と尋ねないところが、ヴィンフリーゼらしい。私がどこかで見初めて来たと思っているんだもの。人間観察が上手ね。答えにくい質問に、曖昧に返した。
「落ちているのですか?」
「置いてあったのかも」
姉妹二人で首を傾げる。その角度もタイミングも、本当に息がぴったり。フリードリヒが戦線離脱したから、ヴィンフリーゼの補佐をどうしようか迷ったけれど。パトリツィアが穴埋めしてくれそうだわ。
「捨てられた私を、ヒルト様が拾ってくださったのです」
うっとりと告げる父の姿に、娘達が感動して「きゃぁ」「素敵」と手を取り合って歓声を上げる。付き合いの長さとテオドールの変態ぶりを知るエレオノールは、そっと目を逸らした。ええ、分かるわ。純粋な娘達の様子を見ると、事情を知る自分が汚れたような気がするもの。
「突然どうしたの?」
話を逸らそうと尋ねたところ、ヴィンフリーゼは気になる異性がいるのだとか。詳しく聞き出すのは、パトリツィアが適任だった。あの子に聞かれると、つい話してしまうの。あれはひとつの才能ね。今後のヴィンフリーゼの役に立つでしょう。
「まだ、好きとかじゃないわ」
頬をほんのり赤く染めながら呟く長女を見ながら、渋い顔のテオドールを肘で小突く。まだ余計なことしたらダメよ。
シュトルンツに併合された国のひとつ、クレーべ王国の元王弟だという。兄である元国王と二十近い年齢差があり、ほぼ息子のような存在だった。そこまで聞いたテオドールが、調査のために退室した。やり過ぎなければいいけれど。
「お母様はどうやって口説いたのですか」
こういう話はパトリツィアも大好きね。恋愛小説に夢中になるくらいだもの。さて、どう話したらロマンチックに聞こえるかしら。いっそ真実を話してしまう? 幸せな悩みに頭を捻った。
私も同じように育ててもらったんだもの。今なら、お母様の言動や采配の理由が分かる。逆に言えば、ヴィンフリーゼも同じ年齢にならなければ、私が執務を預けた理由は理解できないでしょう。
「お母様、これ見て。上手に出来たの」
得意げに刺繍を披露するパトリツィアは、政にまったく興味を示さなかった。故意なのか、偶然か。どちらにしても姉と競う気はないみたい。最近は刺繍と読書に凝っていて、その前は剣術だったわね。お陰で立派な剣だこのある姫に育ったわ。
読書も歴史が好きで、それ以外は恋愛小説を夢中になって読んでいたっけ。
「見事ね、私は刺繍があまり得意ではなかったから……テオに似たのかしら」
手先の器用さは、父親譲りね。お茶の時間は執務の話をしない。これは我が家の決まり事だった。お気に入りのお茶菓子を引き寄せたエレオノールが、ふと思い出したように口を開く。
「来週、二日ほど休暇をいただけますか」
「いいわよ」
理由は聞かなくても分かるわ。前回のお休みから時間が経ったから、可愛いワンちゃんが暇を持て余しているのでしょう。二日と言わず、もっと欲張ってもいいのに。微笑んで、休暇の申請書の日付を書き換えようと決めた。
「お母様はお父様とどうやって出会ったのですか」
「そう、ね……拾ったのよ」
そこで「お母様とお父様は」と尋ねないところが、ヴィンフリーゼらしい。私がどこかで見初めて来たと思っているんだもの。人間観察が上手ね。答えにくい質問に、曖昧に返した。
「落ちているのですか?」
「置いてあったのかも」
姉妹二人で首を傾げる。その角度もタイミングも、本当に息がぴったり。フリードリヒが戦線離脱したから、ヴィンフリーゼの補佐をどうしようか迷ったけれど。パトリツィアが穴埋めしてくれそうだわ。
「捨てられた私を、ヒルト様が拾ってくださったのです」
うっとりと告げる父の姿に、娘達が感動して「きゃぁ」「素敵」と手を取り合って歓声を上げる。付き合いの長さとテオドールの変態ぶりを知るエレオノールは、そっと目を逸らした。ええ、分かるわ。純粋な娘達の様子を見ると、事情を知る自分が汚れたような気がするもの。
「突然どうしたの?」
話を逸らそうと尋ねたところ、ヴィンフリーゼは気になる異性がいるのだとか。詳しく聞き出すのは、パトリツィアが適任だった。あの子に聞かれると、つい話してしまうの。あれはひとつの才能ね。今後のヴィンフリーゼの役に立つでしょう。
「まだ、好きとかじゃないわ」
頬をほんのり赤く染めながら呟く長女を見ながら、渋い顔のテオドールを肘で小突く。まだ余計なことしたらダメよ。
シュトルンツに併合された国のひとつ、クレーべ王国の元王弟だという。兄である元国王と二十近い年齢差があり、ほぼ息子のような存在だった。そこまで聞いたテオドールが、調査のために退室した。やり過ぎなければいいけれど。
「お母様はどうやって口説いたのですか」
こういう話はパトリツィアも大好きね。恋愛小説に夢中になるくらいだもの。さて、どう話したらロマンチックに聞こえるかしら。いっそ真実を話してしまう? 幸せな悩みに頭を捻った。
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