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第4章 奪われる恐怖
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※流血表現があります。
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「……くっ」
噛み締めて殺した声が、吐息に混じって零れ落ちる。ぎっと睨み付けた先で、男がびくりと肩を震わせた。
ゆらりと立ち上がったライアンの手が、男へ伸ばされる。青紫の瞳は暗く翳り、普段の彼が嘘のように酷薄な色を浮かべていた。口元に薄く笑みが浮かび、男は怯えて動けなくなる。
「あがっ……」
首を掴むと、徐々に指先に力を入れた。呼吸が引き攣れて暴れる男の指がライアンの腕に食い込み、引き裂いて血を滲ませる。ぽたりと赤い血が金髪を汚した。
「邪魔すんなよ」
ゴキッと嫌な音がして、男の全身が弛緩した。ナイフを使わずに奪った命に見向きもせず、ライアンは無造作に男の死体を床に落とす。そのまま膝を付いて、背中を傷つけたナイフを引き抜いた。小太りのハンターの腹に刺した筈の、自分のナイフだと知り、足元の床へ突き立てた。
「……これはっ」
目の前の惨状に声を失い、慌てて槍の状況を確認する。アイザックは荒い呼吸ながら、不死の血を持つ為か、すぐ死に至る状況ではなさそうだ。だが、シリルは……傷つけられた肩からの出血が多すぎた。すぐに止血してやらないと危ない。
「ライアンッ、これは!?」
飛び込んだリスキアは返り血に濡れた三日月型の青龍刀を片手に、3人の下へ駆け寄った。目を見開くリスキアの驚愕と心配の表情に、ライアンは唇を噛む。
長身のアイザックの背中や腕に、かなり深い切り傷が残っていた。彼は約束を守ってくれたのだろう。ハンターが傷つけようとした刃を、己の身を挺してシリルを庇ってくれた。その心に報いる為にも、何よりも自分自身の為に、シリルを失う訳にいかない。
「悪い、リスキア。今は一刻を争う」
謝罪は後だと告げるライアンに、当然だとリスキアも頷いた。
「アイザック、我慢できるか?」
痛みに濁った緑の瞳が薄ら開き、小さな頷きが返された。自分も辛いだろうに、吸血鬼であるシリルの身を案じてくれる同族に、ライアンはアイザックの背から注意深く槍を引き抜く。
「……ッ」
途端に濃くなる血の匂いに、ライアンは跪いて細身の少年を抱え上げた。腕の中でぐったりと青ざめた顔で目を閉じたシリルの肌は、完全に血の気を失っている。出血量が多すぎるのだ。ほぼ凝固し始めている傷口の近くをきつく縛って止血し、先ほど足元に突き立てたナイフを拾い上げた。
「大丈夫か? アイザック」
「……ああ」
守り切れなくて済まない。そう視線で告げるアイザックの傷は酷く、ただの人間ならば、とうに命を失っていただろう。しかし、生まれついての不死の民ではなくても、彼の体にはライアンと同じ種族の血が流れている。それが彼の命を繋ぎとめていた。
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「……くっ」
噛み締めて殺した声が、吐息に混じって零れ落ちる。ぎっと睨み付けた先で、男がびくりと肩を震わせた。
ゆらりと立ち上がったライアンの手が、男へ伸ばされる。青紫の瞳は暗く翳り、普段の彼が嘘のように酷薄な色を浮かべていた。口元に薄く笑みが浮かび、男は怯えて動けなくなる。
「あがっ……」
首を掴むと、徐々に指先に力を入れた。呼吸が引き攣れて暴れる男の指がライアンの腕に食い込み、引き裂いて血を滲ませる。ぽたりと赤い血が金髪を汚した。
「邪魔すんなよ」
ゴキッと嫌な音がして、男の全身が弛緩した。ナイフを使わずに奪った命に見向きもせず、ライアンは無造作に男の死体を床に落とす。そのまま膝を付いて、背中を傷つけたナイフを引き抜いた。小太りのハンターの腹に刺した筈の、自分のナイフだと知り、足元の床へ突き立てた。
「……これはっ」
目の前の惨状に声を失い、慌てて槍の状況を確認する。アイザックは荒い呼吸ながら、不死の血を持つ為か、すぐ死に至る状況ではなさそうだ。だが、シリルは……傷つけられた肩からの出血が多すぎた。すぐに止血してやらないと危ない。
「ライアンッ、これは!?」
飛び込んだリスキアは返り血に濡れた三日月型の青龍刀を片手に、3人の下へ駆け寄った。目を見開くリスキアの驚愕と心配の表情に、ライアンは唇を噛む。
長身のアイザックの背中や腕に、かなり深い切り傷が残っていた。彼は約束を守ってくれたのだろう。ハンターが傷つけようとした刃を、己の身を挺してシリルを庇ってくれた。その心に報いる為にも、何よりも自分自身の為に、シリルを失う訳にいかない。
「悪い、リスキア。今は一刻を争う」
謝罪は後だと告げるライアンに、当然だとリスキアも頷いた。
「アイザック、我慢できるか?」
痛みに濁った緑の瞳が薄ら開き、小さな頷きが返された。自分も辛いだろうに、吸血鬼であるシリルの身を案じてくれる同族に、ライアンはアイザックの背から注意深く槍を引き抜く。
「……ッ」
途端に濃くなる血の匂いに、ライアンは跪いて細身の少年を抱え上げた。腕の中でぐったりと青ざめた顔で目を閉じたシリルの肌は、完全に血の気を失っている。出血量が多すぎるのだ。ほぼ凝固し始めている傷口の近くをきつく縛って止血し、先ほど足元に突き立てたナイフを拾い上げた。
「大丈夫か? アイザック」
「……ああ」
守り切れなくて済まない。そう視線で告げるアイザックの傷は酷く、ただの人間ならば、とうに命を失っていただろう。しかし、生まれついての不死の民ではなくても、彼の体にはライアンと同じ種族の血が流れている。それが彼の命を繋ぎとめていた。
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