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外伝
外伝3−1.抜け駆けはダメなんだけどな
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お気に入りの悪魔に会いに行く。以前なら同族の天使にバレないよう気を使い、神に知られぬよう名を呼ばなかった。だが、神の座が空席となった今、そんな懸念は払拭された。
「ちょっとカリスに会いに行ってくる」
カリスと約束した天界の果物を手に宣言した途端、思わぬ状況になる。
「なら、僕も。こないだ頼まれた新しいゲームを手に入れたんだ」
「え? 僕もお絵描きの道具をいくつか揃えたから、プレゼントしに行く」
「抱っこして飛んでやる約束をしたんだ」
競争率が高いのを忘れてた。うっかり口にせず、自分一人でさっさと降りればよかったのに。後悔先に立たずとはよく言ったものだ。人間の格言だが、今後は役に立てよう。今回はもう仕方ない。
「わかった、皆で行こう。抜け駆けは無しだぞ」
そう言ったのに、念押しして返事も貰ったのに!! ラファエルが抜け駆けしやがった。当然ウリエルとガブリエルも怒る。
「捕まえて、ラファエルの羽をむしってやる」
恐ろしい呟きだ。自分の羽は関係ないと知りながら、ぞっとして背中の羽を消した。ウリエルのキレ具合も気になるが、どうせ現実になりはしない。ラファエルが抵抗するとか、ウリエルが口ばかりという意味ではなく。単にカリスに会えば、毒気を抜かれてしまうからだった。
あの子は天使以上に天使だ。ここまで清らかで純粋な子は知らない。大天使ルシフェルだったバエル様が育てたのも影響している。だが、ほとんど本人の資質だろう。持って生まれた才能と言い換えてもいい。
無邪気に微笑むあの子を前に、誰かを害する気持ちなど消えてしまう。ウリエル、ガブリエルと共に、地上へ向かう。通り過ぎて、ゲーティアまで飛んだ。
現在のゲーティアは、地上と変わらぬ明るさと豊かな緑の大地が広がる。一時期砂漠化していたのが嘘のようだった。これすら、カリスの影響だというから驚きだ。あの子が望んだから、皆が力を合わせた。そこへ神の退位が重なり、地上とゲーティアを隔てる壁が消える。徐々に改善されるゲーティアの状況は、見ていて楽しかった。
「カリス!」
「あ、皆きた!」
僕が呼んだ声に、カリスの愛らしい声が聞こえる。甲高い子どもの声特有の、少し甘い響きが心地よかった。微笑んでばさりと翼を畳めば、嬉しそうに駆け寄ってくる。すぐ後ろにバエルがいて、ラファエルが渋い顔をしていた。
バレて顔を顰めるくらいなら、最初からやるな。そう目配せを送り、怒っていたウリエル達の様子を窺う。案の定、カリスを見たら怒りが霧散したらしい。にこにこしながら、頼まれたゲームや絵の具などを並べた。
どれを見ても、カリスは目を輝かせる。美しい青い瞳はアザゼルそっくりだった。父親? いや、産んだから母親か。彼によく似た幼子は、小さな手で宝物のように贈り物を抱く。
「かわいいなぁ」
考えるより早く声が溢れていた。振り返ったカリスへ、用意した果物を差し出す。
「約束した仙桃と金林檎だよ」
仙桃はともかく、金林檎は禁断の果実だ。神がいないから関係ないけど……そう思った僕の目に、唸る猫が映った。やべ、神がそこにいたじゃん。まあ、向こうは手出しできないから無視しよう。
「ありがと! ニィ、唸ったらダメだよ。一緒に食べようね」
すっかりペットとして扱われる神と目が合い、曖昧に微笑んでおいた。やーい、カリスに叱られてやんの。心の中でやり込めて、僕はカリスの嬉しそうな笑顔を堪能した。
「ちょっとカリスに会いに行ってくる」
カリスと約束した天界の果物を手に宣言した途端、思わぬ状況になる。
「なら、僕も。こないだ頼まれた新しいゲームを手に入れたんだ」
「え? 僕もお絵描きの道具をいくつか揃えたから、プレゼントしに行く」
「抱っこして飛んでやる約束をしたんだ」
競争率が高いのを忘れてた。うっかり口にせず、自分一人でさっさと降りればよかったのに。後悔先に立たずとはよく言ったものだ。人間の格言だが、今後は役に立てよう。今回はもう仕方ない。
「わかった、皆で行こう。抜け駆けは無しだぞ」
そう言ったのに、念押しして返事も貰ったのに!! ラファエルが抜け駆けしやがった。当然ウリエルとガブリエルも怒る。
「捕まえて、ラファエルの羽をむしってやる」
恐ろしい呟きだ。自分の羽は関係ないと知りながら、ぞっとして背中の羽を消した。ウリエルのキレ具合も気になるが、どうせ現実になりはしない。ラファエルが抵抗するとか、ウリエルが口ばかりという意味ではなく。単にカリスに会えば、毒気を抜かれてしまうからだった。
あの子は天使以上に天使だ。ここまで清らかで純粋な子は知らない。大天使ルシフェルだったバエル様が育てたのも影響している。だが、ほとんど本人の資質だろう。持って生まれた才能と言い換えてもいい。
無邪気に微笑むあの子を前に、誰かを害する気持ちなど消えてしまう。ウリエル、ガブリエルと共に、地上へ向かう。通り過ぎて、ゲーティアまで飛んだ。
現在のゲーティアは、地上と変わらぬ明るさと豊かな緑の大地が広がる。一時期砂漠化していたのが嘘のようだった。これすら、カリスの影響だというから驚きだ。あの子が望んだから、皆が力を合わせた。そこへ神の退位が重なり、地上とゲーティアを隔てる壁が消える。徐々に改善されるゲーティアの状況は、見ていて楽しかった。
「カリス!」
「あ、皆きた!」
僕が呼んだ声に、カリスの愛らしい声が聞こえる。甲高い子どもの声特有の、少し甘い響きが心地よかった。微笑んでばさりと翼を畳めば、嬉しそうに駆け寄ってくる。すぐ後ろにバエルがいて、ラファエルが渋い顔をしていた。
バレて顔を顰めるくらいなら、最初からやるな。そう目配せを送り、怒っていたウリエル達の様子を窺う。案の定、カリスを見たら怒りが霧散したらしい。にこにこしながら、頼まれたゲームや絵の具などを並べた。
どれを見ても、カリスは目を輝かせる。美しい青い瞳はアザゼルそっくりだった。父親? いや、産んだから母親か。彼によく似た幼子は、小さな手で宝物のように贈り物を抱く。
「かわいいなぁ」
考えるより早く声が溢れていた。振り返ったカリスへ、用意した果物を差し出す。
「約束した仙桃と金林檎だよ」
仙桃はともかく、金林檎は禁断の果実だ。神がいないから関係ないけど……そう思った僕の目に、唸る猫が映った。やべ、神がそこにいたじゃん。まあ、向こうは手出しできないから無視しよう。
「ありがと! ニィ、唸ったらダメだよ。一緒に食べようね」
すっかりペットとして扱われる神と目が合い、曖昧に微笑んでおいた。やーい、カリスに叱られてやんの。心の中でやり込めて、僕はカリスの嬉しそうな笑顔を堪能した。
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