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外伝
外伝5−2.まだ俺は綺麗に見えるか?
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拾った時から不思議な子だった。あれだけの虐待環境にも関わらず、殺されることはなく手足も揃っている。顔を傷つけられることもなかった。まるで何かに守られていたように見える。
哀れに思ったのは勿論だが、呼びかける声に懐かしさを覚えたのも、拾った原因のひとつだ。仮契約は問題なかったのに、上書きしようとした時……気づいた。悪魔の皇帝である堕天の象徴、元は天使の頂点でルシフェルの名を捨てたバエル――その能力は神に次ぐと言われる。
四大天使を凌ぐ魔力を持つ俺の契約を弾く力は、すでに半分ほど消えかけていた。それでも一度は俺の干渉を弾いたのだ。それほどの実力者は数えるほどしか知らぬ。その中で現在行方が分からぬ者……アザゼル。
天使であり悪魔でもある。神の寵愛が深すぎ、堕天してさえ繋ぎ止められた天使だ。気づいて見つめれば、カリスの顔に面影があった。ならば、この子は単体生殖によるクローンと同じだ。天使にも悪魔にもなれる。そんな稀有な存在を黒に染めた。
契約印の上から血で上書きしたことで、カリスのバランスを恣意的に悪魔へ傾ける。我が子を守るためにアザゼルが施した守護であったなら、安心するがいい。この魔皇帝バエルが、この子の親になろう。庇護者として最期まで付き添う。だから安心して眠れ。
カリスの中の不安定さのひとつが、吸収されたアザゼルと思われた。我が子の未来が不安で、保たれていた存在が薄れる。名付けたことで、カリスの存在意義が高まったせいか。愛らしい銀髪の幼子を抱き締め、その髪に口づけを落とした。
アザゼル、ゆっくり眠るがいい。この子はバエルの息子となった。尊重され愛され幸せな人生を送る。笑顔を振り撒き、誰からも好かれるはずだ。
深い眠りへ誘導する。この子が目覚めるまでに、薄汚い人間の女を片付けるとしようか。すでにアガレスやアモンが動いていた。カリスに知られぬ間にすべては闇の底だ。
見ていた悪夢も全て食らってやる。だから夢も見ずに休むがいい。温かく猫のように柔らかな体を包み込み、久しぶりに俺は柔らかな笑みを浮かべた。そういえば、カリスが来てから、笑みを浮かべる時間が増えたな。
神と争う前に戻ったようだ。悪魔に堕ちたものは、皆、人間を憎む。己の身を堕としてまで救おうとした人間の愚かさに、苛立ちが募るのだろう。見返りを求める彼らの気持ちも分かるが、それでは神と変わらぬ。罪には罰を、だが苦しみに痛みを返せば泥沼だ。
もぞり、腕の中で動いた幼子の表情が和らぐ。美味しい物を食べた夢でも見たのか、小さな唇が動いた。それだけで満たされる感情がある。だから憎しみに染まる気はなかった。心眼を持つカリスの目に、醜い悪魔を映す気はない。
「おはよう、カリス。よく眠れたか?」
「うん」
カリスの笑顔が曇らぬよう、アザゼルの分まで愛し抜くと誓った。その誓いは、己の魂と命を懸けて……終生違えることはない。
「まだ綺麗に見えるか?」
カリスの目に俺は醜い獣の本性を晒していないか? 尋ねた俺に、幼子はほわりと笑う。俺の世界は満ち足りて、何も過不足はなかった。
哀れに思ったのは勿論だが、呼びかける声に懐かしさを覚えたのも、拾った原因のひとつだ。仮契約は問題なかったのに、上書きしようとした時……気づいた。悪魔の皇帝である堕天の象徴、元は天使の頂点でルシフェルの名を捨てたバエル――その能力は神に次ぐと言われる。
四大天使を凌ぐ魔力を持つ俺の契約を弾く力は、すでに半分ほど消えかけていた。それでも一度は俺の干渉を弾いたのだ。それほどの実力者は数えるほどしか知らぬ。その中で現在行方が分からぬ者……アザゼル。
天使であり悪魔でもある。神の寵愛が深すぎ、堕天してさえ繋ぎ止められた天使だ。気づいて見つめれば、カリスの顔に面影があった。ならば、この子は単体生殖によるクローンと同じだ。天使にも悪魔にもなれる。そんな稀有な存在を黒に染めた。
契約印の上から血で上書きしたことで、カリスのバランスを恣意的に悪魔へ傾ける。我が子を守るためにアザゼルが施した守護であったなら、安心するがいい。この魔皇帝バエルが、この子の親になろう。庇護者として最期まで付き添う。だから安心して眠れ。
カリスの中の不安定さのひとつが、吸収されたアザゼルと思われた。我が子の未来が不安で、保たれていた存在が薄れる。名付けたことで、カリスの存在意義が高まったせいか。愛らしい銀髪の幼子を抱き締め、その髪に口づけを落とした。
アザゼル、ゆっくり眠るがいい。この子はバエルの息子となった。尊重され愛され幸せな人生を送る。笑顔を振り撒き、誰からも好かれるはずだ。
深い眠りへ誘導する。この子が目覚めるまでに、薄汚い人間の女を片付けるとしようか。すでにアガレスやアモンが動いていた。カリスに知られぬ間にすべては闇の底だ。
見ていた悪夢も全て食らってやる。だから夢も見ずに休むがいい。温かく猫のように柔らかな体を包み込み、久しぶりに俺は柔らかな笑みを浮かべた。そういえば、カリスが来てから、笑みを浮かべる時間が増えたな。
神と争う前に戻ったようだ。悪魔に堕ちたものは、皆、人間を憎む。己の身を堕としてまで救おうとした人間の愚かさに、苛立ちが募るのだろう。見返りを求める彼らの気持ちも分かるが、それでは神と変わらぬ。罪には罰を、だが苦しみに痛みを返せば泥沼だ。
もぞり、腕の中で動いた幼子の表情が和らぐ。美味しい物を食べた夢でも見たのか、小さな唇が動いた。それだけで満たされる感情がある。だから憎しみに染まる気はなかった。心眼を持つカリスの目に、醜い悪魔を映す気はない。
「おはよう、カリス。よく眠れたか?」
「うん」
カリスの笑顔が曇らぬよう、アザゼルの分まで愛し抜くと誓った。その誓いは、己の魂と命を懸けて……終生違えることはない。
「まだ綺麗に見えるか?」
カリスの目に俺は醜い獣の本性を晒していないか? 尋ねた俺に、幼子はほわりと笑う。俺の世界は満ち足りて、何も過不足はなかった。
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