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本編
第30話 お茶を振る舞いましょう
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竜の方々がお休みになる部屋を用意しなくてはならないのですが……。
「伯母様?」
ちらっと視線を向けると、豪胆な伯母様もさすがに固まっている。この建物はセブリオン家の王宮ですが、王族が離縁したり絶縁して、残った方も投獄されたので持ち主不在となりました。
この場合、建物を勝手に使用しても叱られませんよね? 竜の乙女は国の要であり、竜に対する祭事の権限を有します。ならばここはひとまず、城内でお茶を振る舞うのが、竜の乙女としての私の役割でしょう。
食事の必要がなくても、お茶くらい楽しまれると思いますし。起きたばかりですもの、喉が渇いておられる方もいらっしゃるわ。
よしっと気合を入れてテユ様の袖を引いた。
「どうした? 我が愛しのステファニーよ」
さらりと「愛しの」と足した彼の表現に頬が赤く染まります。「我が」と独占欲丸出しの部分はあまり気になりませんでした。どちらかといえば嬉しいくらいです。
「皆様に中でお休みいただきましょう。お茶を振る舞いますわ」
「それは彼らも喜ぶであろう。聞こえたな? 中に参れ」
口々に了承を告げた彼らを迎えるべく、足早にテラスから室内へ戻ります。シャンデリアが照らす豪華な場で、フランカが指揮を取っていました。
「そのテーブルは片付けて。そうよ、大きな円卓をこちらへ。椅子を用意してくださる? ああ、こちらのデザインで揃えてちょうだい。誰か、純白のテーブルクロスを!」
メレンデス公爵家に嫁ぐため、淑女教育以外にもあれこれ学んだ親友の心強い応援に、自然と肩から力が抜けました。力強い味方です。
そういえば、フランカは一度誘拐事件に巻き込まれたことがありました。あの時は油断を誘い、犯人の股間を蹴飛ばして脱出したと、リオ兄様が大笑いして話していましたわ。でも貞操を守るために全力で抗った姿に惚れ直したそうです。お似合いのカップルですわね。
いけない、話が逸れました。少し現実逃避が入っているようです。
「ああ、ティファ。ちょうどよかったわ。皆様のお茶の好みを伺って欲しいのよ」
フランカが侍女を指揮してお茶の支度を始めました。それぞれに自己紹介や挨拶を交わしながら席に着いた竜を前に、私は笑顔でお茶と菓子を振る舞います。お名前は順次覚えていくことにいたしましょう。
集まった貴族たちに帰宅を促した父ベクトルが、王宮内を案内する目的で数人の竜を連れ出されました。
伯母様や元王女のお二方の許可が得られたので、この城を竜の方々の宿にするようです。確かに王家がいなければ城は不要ですし、私たちも公爵家の屋敷がありますもの。誰も住まない家は荒れると言いますから、住居として管理をお願いすれば助かります。
幸いにして我が国は豊かですから、数十年は何もしなくても王家が貯め込んだ金銀で維持費は賄えるでしょう。その辺の計算はリオ兄様かお父様にお任せします。侍女や侍従、騎士の方も失職せずに済みますわ。
入れ代わり立ち代わり、自由を謳歌する竜達の楽しそうな様子に目を奪われます。色とりどりの鱗をそのまま髪色や瞳の色に宿す彼らは、目を引く華やかな方々でした。見惚れるほど顔立ちも整っており、力の強い竜種は美しさも兼ね備えています。甘い感嘆の息がもれます。
「では、我が麗しき姫の歓待を受けるとしよう」
腰を抱き寄せるテュフォンの微笑みに、私はまんまと騙されたのでした。
「伯母様?」
ちらっと視線を向けると、豪胆な伯母様もさすがに固まっている。この建物はセブリオン家の王宮ですが、王族が離縁したり絶縁して、残った方も投獄されたので持ち主不在となりました。
この場合、建物を勝手に使用しても叱られませんよね? 竜の乙女は国の要であり、竜に対する祭事の権限を有します。ならばここはひとまず、城内でお茶を振る舞うのが、竜の乙女としての私の役割でしょう。
食事の必要がなくても、お茶くらい楽しまれると思いますし。起きたばかりですもの、喉が渇いておられる方もいらっしゃるわ。
よしっと気合を入れてテユ様の袖を引いた。
「どうした? 我が愛しのステファニーよ」
さらりと「愛しの」と足した彼の表現に頬が赤く染まります。「我が」と独占欲丸出しの部分はあまり気になりませんでした。どちらかといえば嬉しいくらいです。
「皆様に中でお休みいただきましょう。お茶を振る舞いますわ」
「それは彼らも喜ぶであろう。聞こえたな? 中に参れ」
口々に了承を告げた彼らを迎えるべく、足早にテラスから室内へ戻ります。シャンデリアが照らす豪華な場で、フランカが指揮を取っていました。
「そのテーブルは片付けて。そうよ、大きな円卓をこちらへ。椅子を用意してくださる? ああ、こちらのデザインで揃えてちょうだい。誰か、純白のテーブルクロスを!」
メレンデス公爵家に嫁ぐため、淑女教育以外にもあれこれ学んだ親友の心強い応援に、自然と肩から力が抜けました。力強い味方です。
そういえば、フランカは一度誘拐事件に巻き込まれたことがありました。あの時は油断を誘い、犯人の股間を蹴飛ばして脱出したと、リオ兄様が大笑いして話していましたわ。でも貞操を守るために全力で抗った姿に惚れ直したそうです。お似合いのカップルですわね。
いけない、話が逸れました。少し現実逃避が入っているようです。
「ああ、ティファ。ちょうどよかったわ。皆様のお茶の好みを伺って欲しいのよ」
フランカが侍女を指揮してお茶の支度を始めました。それぞれに自己紹介や挨拶を交わしながら席に着いた竜を前に、私は笑顔でお茶と菓子を振る舞います。お名前は順次覚えていくことにいたしましょう。
集まった貴族たちに帰宅を促した父ベクトルが、王宮内を案内する目的で数人の竜を連れ出されました。
伯母様や元王女のお二方の許可が得られたので、この城を竜の方々の宿にするようです。確かに王家がいなければ城は不要ですし、私たちも公爵家の屋敷がありますもの。誰も住まない家は荒れると言いますから、住居として管理をお願いすれば助かります。
幸いにして我が国は豊かですから、数十年は何もしなくても王家が貯め込んだ金銀で維持費は賄えるでしょう。その辺の計算はリオ兄様かお父様にお任せします。侍女や侍従、騎士の方も失職せずに済みますわ。
入れ代わり立ち代わり、自由を謳歌する竜達の楽しそうな様子に目を奪われます。色とりどりの鱗をそのまま髪色や瞳の色に宿す彼らは、目を引く華やかな方々でした。見惚れるほど顔立ちも整っており、力の強い竜種は美しさも兼ね備えています。甘い感嘆の息がもれます。
「では、我が麗しき姫の歓待を受けるとしよう」
腰を抱き寄せるテュフォンの微笑みに、私はまんまと騙されたのでした。
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