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第二章 動き出す歯車
48 救出劇(後)
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燦々と遮るものなく光が降り注ぐ。
名残の粉塵が漂うなか、ばたばたと遠ざかる足音に、ベティは王女たちが出口に向かったことを悟った。
(いけない、このままじゃ)
慌てて、まだ状況をつかめずにぼうっと覆い被さるシトリンの下から抜け出る。
追いかけなければ。この機を逃したら、もう……!
だが、遅かった。
おかしな具合に屋根だけがなくなった家で、ご丁寧に残された壁が行く手を阻む。
なんとか廊下の角を曲がり終えると、開け放たれた玄関扉から、こちらに走り寄るアストラッド王子に抱きつくヨルナ姫と、サジェス王子に手を引かれるロザリンド王女が見えた。さらに――
トール王子が懐から何かを取りだし、地面に振り撒いていた。
(や ば い)
さぁっと血の気が引く。
城づとめの間、あらゆる噂を聞きつけていたベティは顔をこわばらせた。反射で背後まで追いついていたシトリンを振り返り、すばやく命じる。
「シトリン! 飛びなさい、早く!」
「えっ? は、はいっ!」
――――予想違わず。
トールの足下から緑が溢れかえり、凶暴なスピードで地を這い生長を続けた。
信じがたいことに蔦植物だ。
蔦は、獰猛な生き物のようにうねりながらたちまち建物の残骸に到達し、あろうことか壁と床板を突き抜けた。
「嘘でしょーーーーーー!?!?」
叫んだベティは逃げることもままならず、あっという間に足首をからめとられる。
シトリンは空へ逃れたかに見えたが……
「!! きゃぁぁあっ!?」
竜の翼を力強くしならせていたシトリンは忽然と消え、代わりに、どうっ! と音を立てて地に落ちる彼女を見つけた。それを、みるみるうちに緑が覆ってゆく。隠すほど。
「そうか、転移……」
両脇に垂らした腕もしゅるしゅると拘束されつつ、ベティはぼそりと呟いた。
トールを伴い、サジェスが二人に歩み寄る。やがて五歩ほど離れた場所に立ち止まると、国王譲りの厳しい顔つきで告げた。
「君が、旧エキドナの末裔ベティだな。ルダートはこちらで身柄を預かっている。君たちの計画もこれまでの経緯も全て聞き出した。降伏を勧める」
「……『嫌だ』と言ったら?」
悔しい。悔しい悔しい悔しい。悔しい……!!!!
負けを認められず、一族への顔向けもできない。追い詰められたベティは真っ黒に塗りつぶされた気持ちで王太子を睨みつけた。
呆れたように息をついたサジェスはがりがりと頭を掻き、傍らの弟に目配せをする。
「トール。説明してやれ。その、悪趣味な草の性質を」
――悪趣味は余計です、と前置いたトールは、王妃譲りのやさしげな美貌を惜しげもなく笑顔で華やがせた。
「やぁベティ。その節はどうも。これはね、植物ではあるんだけど、栄養源が虫や小動物というとても稀な種でね」
「え」
ぞわ、と、悪寒が走った。
こわごわと足元に視線を落とす。よく見ると太い蔦には大玉のスイカほどの丸い実がいくつも連なっていた。
気のせいでなければ、少し……ザクロみたいに、割れているような。
トールはにこにこと続けた。
「今、この子は僕の魔力で活性化しててね。がんばって制御してるけど、凄まじく食事したがってるんだ。どう? ごはんになってあげる?」
「! う、うぅぅっ……」
――こうして、敵首謀者の孫娘である少女は 悔し泣きを必死に我慢しながら、息も絶え絶えに王子たちに全面降伏した。
名残の粉塵が漂うなか、ばたばたと遠ざかる足音に、ベティは王女たちが出口に向かったことを悟った。
(いけない、このままじゃ)
慌てて、まだ状況をつかめずにぼうっと覆い被さるシトリンの下から抜け出る。
追いかけなければ。この機を逃したら、もう……!
だが、遅かった。
おかしな具合に屋根だけがなくなった家で、ご丁寧に残された壁が行く手を阻む。
なんとか廊下の角を曲がり終えると、開け放たれた玄関扉から、こちらに走り寄るアストラッド王子に抱きつくヨルナ姫と、サジェス王子に手を引かれるロザリンド王女が見えた。さらに――
トール王子が懐から何かを取りだし、地面に振り撒いていた。
(や ば い)
さぁっと血の気が引く。
城づとめの間、あらゆる噂を聞きつけていたベティは顔をこわばらせた。反射で背後まで追いついていたシトリンを振り返り、すばやく命じる。
「シトリン! 飛びなさい、早く!」
「えっ? は、はいっ!」
――――予想違わず。
トールの足下から緑が溢れかえり、凶暴なスピードで地を這い生長を続けた。
信じがたいことに蔦植物だ。
蔦は、獰猛な生き物のようにうねりながらたちまち建物の残骸に到達し、あろうことか壁と床板を突き抜けた。
「嘘でしょーーーーーー!?!?」
叫んだベティは逃げることもままならず、あっという間に足首をからめとられる。
シトリンは空へ逃れたかに見えたが……
「!! きゃぁぁあっ!?」
竜の翼を力強くしならせていたシトリンは忽然と消え、代わりに、どうっ! と音を立てて地に落ちる彼女を見つけた。それを、みるみるうちに緑が覆ってゆく。隠すほど。
「そうか、転移……」
両脇に垂らした腕もしゅるしゅると拘束されつつ、ベティはぼそりと呟いた。
トールを伴い、サジェスが二人に歩み寄る。やがて五歩ほど離れた場所に立ち止まると、国王譲りの厳しい顔つきで告げた。
「君が、旧エキドナの末裔ベティだな。ルダートはこちらで身柄を預かっている。君たちの計画もこれまでの経緯も全て聞き出した。降伏を勧める」
「……『嫌だ』と言ったら?」
悔しい。悔しい悔しい悔しい。悔しい……!!!!
負けを認められず、一族への顔向けもできない。追い詰められたベティは真っ黒に塗りつぶされた気持ちで王太子を睨みつけた。
呆れたように息をついたサジェスはがりがりと頭を掻き、傍らの弟に目配せをする。
「トール。説明してやれ。その、悪趣味な草の性質を」
――悪趣味は余計です、と前置いたトールは、王妃譲りのやさしげな美貌を惜しげもなく笑顔で華やがせた。
「やぁベティ。その節はどうも。これはね、植物ではあるんだけど、栄養源が虫や小動物というとても稀な種でね」
「え」
ぞわ、と、悪寒が走った。
こわごわと足元に視線を落とす。よく見ると太い蔦には大玉のスイカほどの丸い実がいくつも連なっていた。
気のせいでなければ、少し……ザクロみたいに、割れているような。
トールはにこにこと続けた。
「今、この子は僕の魔力で活性化しててね。がんばって制御してるけど、凄まじく食事したがってるんだ。どう? ごはんになってあげる?」
「! う、うぅぅっ……」
――こうして、敵首謀者の孫娘である少女は 悔し泣きを必死に我慢しながら、息も絶え絶えに王子たちに全面降伏した。
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※「小説家になろう」にも掲載(異世界転生・恋愛12位)
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