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第 86 話
しおりを挟む激しい雨の中を歩き、ずぶ濡れになったゼニスとシリルは、ようやく山腹斜面にポツンと建つ人家を見つけ、ひと晩だけ世話になった。
「まぁ、まぁ、ふたりともそのままだと風邪を引いてしまうわ。今すぐ、お湯を準備してあげるから、待ってなさい。ほらほら、あなた、お客様の邪魔よ。どいて、どいて。」
気さくな奥方は、床に寝そべってくつろぐ旦那に倉庫から盥を持ってくるよう云いつけた。湯水を入れて納屋まで運び、布団も用意してくれた。
「どうも、すみません。」
ゼニスは礼を述べて受け取り、扉を閉めてからシリルを振り返った。
「もういい?」と、訊くシリルに、「ああ」と応じる。互いに衣服を脱いで裸身になると、麻布を湯でしぼり、カラダを拭いた。
「シリル、ちゃんと水滴を拭け。湯冷めするぞ。」
シリルは犬みたく首を振って、髪の毛を乾かしている。それは獣人の習性につき、ゼニスは、フッと、気息を吐いた。ふいに、シリルの動きがピタッと停止する。カラダを拭くゼニスを、じーっ、と見つめる。
「なんだよ?」
無遠慮な視線を感じたゼニスは、麻布を広げて下半身を隠した。すると、シリルの口から文句がでる。
「あっ、なんで隠しちゃうの? もっと見たかったのに!」
「おまえと同じものがついてるだけだ。そんなにじっくり見る必要はない。」
「え~? 全然ちがうよ。ゼニスのほうが太くて長いもん! おとなの毛も生えてるし、大きくてかっこいい!」
男性器を褒められても、返す言葉がないゼニスである。濡れた衣服は壁の鉤に引っ掛けてあるため、今夜は裸身で過ごすしかない。シリルも同様につき、今更ながら、妙な空気が漂いはじめた。
「ねぇ、もう1回だけ見せて。」
シリルが擦り寄ってくるため、ゼニスは悩んだ挙げ句、「ほらよ」と云って麻布を取り除いた。シリルは「はわぁ~」と吐息を洩らして、股のあいだをのぞき込むと、うっとりとした表情に変わった。ゼニスのほうで平静を保てなくなる前に、シリルの肩を掴んで距離を取った。
「すごいなぁ。ゼニスの生殖器が、いつか、ぼくの体内に、はいるんだね。」
「……はいるかよ。」
「え? だって、そうすることが交尾って云うんじゃないの?」
「正確には交尾とは云わない。」
「じゃあ、なんて云うの?」
「強いて答えれば、交接とか、性交だろう。」
「こうせつ……、せいこう……。あぁ、そうか。ゼニスは人間だから、交尾とは云わないんだね。それじゃあぼくも、こんどからは交接って云うようにするね。」
シリルは、ボフッと布団の上に寝転がり、「えへへ~」と笑っている。すっかりゼニスと交接する気でいるため、誤解を正したいところである。だが、ゼニスの意思に反して、生殖器は少しだけ硬くなっていた。シリルの言動に誘惑されないよう、ゼニスは深呼吸をしてから腰に麻布を巻きつけた。とはいえ、用意された布団は1枚につき、シリルと寄り添って眠るしかない。さらに、シリルはゼニスの胸板に抱きついてくる。
「おい、あんまり密着するな。」
「こうしてれば、あったかいよ。」
「……それは、そうだが、」
「えへへ。おやすみなさい、ゼニス。またあした。」
シリルは背中を丸めると、先に就寝モードへ突入した。天真爛漫な一面に振りまわされつつあるゼニスは、なるべく互いの肌が触れ合わないようにして横になった。
しかし、眠りについたゼニスは、あろうことか、シリルを抱く夢をみてしまう。考えられる要因は、女体化した際の乳房を見て、うっかり欲情を経験してしまったことだが、ゼニスの腰つきに悦がるシリルの肉体は、男のままだった。
「……さすがにマズイだろ。」
翌朝、目醒めたゼニスの男根は、しっかり勃ちあがっていた。シリルに気づかれる前に自慰するため、静かに納屋の扉から外へでると、澄みわたる青空に見事な半円を描く虹がかかっていた。
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