婚約者に捨てられた訳ありΩは辺境でしたたかに生きることにしました

和泉臨音

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10.なぜか、門前払いされた婚約者の屋敷にいます

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(もしかして俺は盛大な勘違いをしているんじゃないだろうか……)

 港地区で出会ったティスと名乗った銀髪の少年と買い物をしたコルトは、なぜか今、ランドリア辺境伯の屋敷の前にいた。
 一ヶ月前に何度も門前払いを受けた家である。

「ええっと……」
「なんだコルトはここが誰の屋敷なのか知ってるのか?」

 前を歩くティスは迷うことなく頑丈な門を押し開けると、明らかに青ざめるコルトに振り返りながら尋ねた。

「知ってるも何も、ランドリア辺境伯の屋敷では……?」
「ああその通りだ。大丈夫、私の客人として招待したんだ。堂々と入ってくれ」

 露店などで買った荷物を持ったコルトは笑顔のティスに導かれ、恐る恐る屋敷へ歩を進めた。

 なぜコルトが再びここにいるのかというと、話は少し前にさかのぼる。
 コルトは当初と目的を変え、金継きんつぎに興味を示したティスと共に必要となる道具を調達することにした。街を知り尽くしたティスの案内は的確で、短い時間でおおよそ必要なものを揃えられたのはよかったが、この日のコルトは災難にあう……もとい、自ら首を突っ込む日であったらしい。
 一つ目はティスを助けたことだろう。二つ目は道端で重い荷車を引けずに困っていた老人との出会いだ。
 ティスは「放っておけ」と言ったがコルトは気になってしまい、声をかけてみれば行く方向が同じだという。それならばとコルトが代わりに荷車を引くことにした。しかしこの荷車、そうとう年季が入っていたらしく目的地の前で崩壊してしまった。荷物は無事に運べたものの、コルトは老人から「お前が荷車を壊したんじゃ!!!!」と感謝ではなく怒りを買うことになってしまった。確かにコルトの使い方も悪かったのかもしれないと思い、修理費にいくばくかお金を渡すことにした。
 ティスがそれはもう大きなため息をついていたが、老人に荷車の適正だろう価格を提示し、コルトが運んだ荷物の労働対価を差し引いた額を支払った。ちなみに300ルギーである。安すぎではとコルトは内心思ったが、老人も納得していたので悪くない額だったのだろう。

「基本的に日常生活で500ルギーなんて金額を出すことはない。王都と比べるとランドリアは物価が安いしな。ラーシムランドリアの首都でも日用品で500だなんて言われたら、まず吹っ掛けられてると思え。いやその前にお前は表通りの店以外で買い物をするな」

(ぐっ、初対面の少年に長年一緒にいるエリックと同じことを言われている……)

 悔しくはあるが自分の未熟な部分であるのは確かなのでコルトは大人しく「はい……」と答えた。自由に生きるというのは楽しくはあるが学ばねばならぬことも多いのだ。この辺境で平民としてひっそり暮らしていくならば、買い物に必須な金銭感覚も身につけねばならない。

 決意を新たに市場にて買い物を再開したコルトとティスだが今度はひったくりの現場に遭遇してしまった。
 女性の「どろぼー!! そいつを捕まえて!!」という叫び声の方を見れば、こちらに走ってくる長身の男が目に入った。捕まえようとコルトが体制を低く構えると、長身の男は何を思ったのかひったくった女性の荷物を力いっぱい海へと投げた。その後、ひったくり男は無事コルトに投げ飛ばされて無力化され確保、すぐにやってきた自警団に引き渡された。
 捕物劇とりものげきが収まり人だかりが減っていく中、ひったくりに合った女性は座り込んだまま海を見つめていた。コルトの行動を先読みしたティスに「お前の出る幕じゃない」と言われたものの放ってはおけず、コルトは下着姿になると躊躇せずに海に飛び込んだ。
 幸いにも女性の荷物は沈むことなく水面に浮かんでおり、回収して浜辺に戻ることが出来た。女性には比喩ではなく泣かれるほど感謝され「温かいものでも飲んでください」と回収した荷物の中から2ルギーを手渡された。良いことをしたなと安堵したのも束の間、ティスにめちゃくちゃ怒られた。

「なにを考えている! 外海に流されなかったからよかったものの、ここは素人が泳ぐ場所じゃない!! お前は死にたいのか!!」
「……す、すみません」

 コルトは思わず職場の上司に怒られたかのように恐縮し、素直に反省すると謝罪する。見た目に反したこの貫禄、本当にティスは幾つなんだろうか。コルトが不思議に思いながら銀髪のつむじを見ていればティスが肩を落としたように息を吐いた。

「はぁ……どうやったらここまでおせっかいが焼ける人間になるのやら」

(お節介なのか……気にしたことなかったな)

「それはその、たまたま手助けする機会が重なっただけだと思うよ」
「……気づいていないのも原因なんだろうな」

 なんとなく居心地が悪くなって視線をさまよわせて誤魔化すように言ったコルトに、ティスは新緑色の瞳をジトリと細めて呆れた顔を隠しもせずに呟いた。

 そんなこんなで買い物よりも人助けをしてる時間の方が長かったコルトとティスだが、ティスの帰る時間も迫ったところでまだ肝心の漆を入手することが出来ていなかった。ラーシムで探してみるかと馬車乗り場に向かう道すがら、ティスが「あっ!」と小さな声を発した。

「そのウルシとやらだが、もしかしたらうちの裏庭にあるかもしれない」
「え? 本当に?」
「私はあまり植物に詳しくないが、そばに寄るとかぶれるから気を付けるようにと言われた木は生えている」 
「樹液を取ったような跡はあった?」
「それはわからない。なにせ近寄るなと言われていたし興味もなかったから」
「それはそうだ」

 というティスとのやり取りがあり「なんだったら確認していけばいい。必要なら樹液を採取してもいい」とまで言われ、コルトはのこのことティスについてきたのである。

(それがまさか、ランドリア辺境伯家の本邸とは……)

 別邸でひっそりと暮らしているのかと思ったが、こんな堂々と本邸を歩ける立場だったなんて想像と全く違う。
 そういえば、いつだったかこの屋敷に小さな子どもがいるのを見かけなかったか?

(もしかしなくても、俺って物凄く迂闊な人間なのでは??)

 今までそんなことを思ったことはなかったが、認識を改めなくてはならないのかもしれない。
 ずんずんと歩を進めるティスの後ろでそんなことを痛感しながら、コルトは小さな背に身を隠すように着いていく。コルトの「このまま誰にも会いませんように!」という願いもむなしく、しばらく屋敷に向かって歩いていれば玄関から白髪の執事がこちらにすごい速さで向かってくるのが見えた。

(ああ、これは誤魔化すのは無理だな……)

 コルトは大人しく腹をくくることにした。
 
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