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13.魔女の工房
しおりを挟む食事を終えるとルーティスは「ティスに会わせる」とコルトを屋敷の外に連れ出した。
いつの間にか外はすっかり宵闇に包まれており、窓から漏れる明かりと月の光だけを頼りにルーティスは屋敷の裏手へむかっていく。その迷いのない堂々とした大きな背中を、コルトはランタン片手に追いかけた。
まさかランドリア辺境伯と食事をすることになるとは思わなかったが、振り返ると今日一日でいろいろなことがありすぎた。さすがにこれ以上おかしなことは起きないだろう。
(早くティスに会って、今日はもう家に帰りたい……)
コルトが心の中で切実にそう思っていると、明かりも持たず歩いていたルーティスが立ち止まった。コルトも慌てて足を止める。いつの間にか樹木が生い茂る裏庭、もとい敷地内の林に来ていたらしい。木々に囲まれているが足元にはレンガで道が作られておりランタンの明かりだけでも迷うことはなさそうだ。辺境伯家の屋敷は首都の中心部にあるが、表から見えるよりも敷地はかなり広いのだろう。
コルトは手に持つランタンを掲げて周りの様子をうかがう。ルーティスが立ち止まったのには何か理由があるのだろうと思ったからだ。身構えたコルトにルーティスは振り返ると、慌てる様子もなく道から外れた木々の奥を指さした。
「庭師に確認したがウルシの木はこの奥にあるそうだ。だが足場が悪いから、行くなら昼間がいいといっていた」
「へ? あ、ああそうなんですね」
突然話しかけられて、コルトは一瞬なんの話をされたのかわからなかった。
(ティスが漆のこと辺境伯に話してくれたのかな? 金継ぎ本当に楽しみにしてたもんな)
ルーティスの一挙手一投足に緊張していたコルトだったが、市場で過ごしたティスとの時間を思い出せば心が自然と軽くなる。
「わかりました。それでしたらまた日を改めて樹液をいただきに来てもいいでしょうか? あと、ティスにはお皿を直す方法を教える約束もしているので、可能なら一緒に作業もしたいんですが……」
漆のことを話したならなぜそれが必要なのかもルーティスに話しているだろう。そう判断したコルトは恐る恐るティスに会う許可も取ることにする。
「ああ、構わない」
「ありがとうございます!」
(やった! やったよティス!)
小躍りせんばかりに嬉しい気持ちをどうにか押し込めて、コルトは心の中で喜びを叫ぶ。ティスに会ったら一番に報告しようと決意した。
それから暗い林道を歩くこと三分。木々の開けた先に二階建ての家が現れた。使用人が住む家にしては少し大きい気がするが、辺境伯家の人間が住むには微妙な外観をしている。先程までいた館も歴史のある建物だったが、目の前の二階建ての家はさらに歴史が古いように見えたからだ。そのうえ家の壁を覆いつくさんばかりに生えている蔦や葉などが余計に古めかしさをかもしだしている。一見しただけでは草に埋もれているように見えるし、レンガ道がここに続いていなければコルトは発見することも出来なかっただろう。
草に覆われた家を唖然と見上げるコルトをよそにルーティスは玄関へと向かう。慌てて後を追えばちょうどルーティスが扉を開け、中に一歩足を踏み入れたところだった。
「あの、ここは……えっ!!??」
ルーティスが家に足を踏み入れたその瞬間、突然目の前が明かりに包まれた。なにごとかと腕で顔を覆ったコルトの隣でルーティスが静かに答える。
「ここはランドリア家歴代の魔女が使っていた工房だ。入ると勝手に明かりがつく仕組みになっている」
「!!!!!?????」
ルーティスの説明にコルトは目を見開くと慌てて家の中を見回した。
二階建ての建物は吹き抜けになっていて、見上げればまず目に飛び込んできたのは二階部分の壁にこれでもかと収納された本や巻物の数である。二階部分は壁に沿った廊下だけで、壁はすべて本棚になっていた。また天井には窓があり、日中であればかなり明るいのだろう。一階部分は入り口近くに応接用だろうソファーセットがあり、中央には大きな作業台、奥にはなかなかお目にかかれない魔女窯、あるいは錬成窯と呼ばれる人が二人は入れるだろう大きなツボのような魔法薬作りの道具もある。驚くべきはそれだけではない、他にもコルトが知ってるだけでもかなり高価で入手の難しい実験器具などがいっぱいあった。
それに何よりすごいのはこの自動で点灯したランタンである。二階の廊下から垂れ下がるように吊るされたランタンが煌々と幾つも輝きを放っていた。
魔術や錬金術で便利な道具を作成できることは知られている。その動力に魔石を使うことで魔力を扱えない男でも便利な道具、魔道具を使うことが可能だ。コルトが作ろうと思っていた御守りも言ってしまえば魔道具の一種である。そしてこの勝手に点いたランタンも魔道具なのだろう。
「…………すごい」
思わず口をあけながら工房に魅入っていたコルトがつぶやく。
「工房を見るのは初めてか?」
「いえ、そんなことはありませんが、ここまで立派なものは初めてです!!」
興奮気味に答えたコルトがルーティスに視線を移せば、微笑まし気に見下ろしてくる新緑の瞳と目が合った。
(ぐっ、子どもっぽいと思われた……?)
あまりにもルーティスが優しい表情を向けてくるので、コルトはなんだか居心地が悪くなり視線をそらした。
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