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14.今日一番の驚きはまだ起きていませんでした
しおりを挟む視線をそらしたコルトを気にするでもなく、ルーティスは部屋の中央にある作業台へ向かう。作業台はコルトが二人寝転がってもまだ余裕がありそうな大きさで、丸いランタンのような大きな器具や顕微鏡、本やメモなどが乱雑に置かれていた
コルトは失礼にも周りを見回しながらルーティスのあとに続く。
「ここでは魔獣対策用の魔道具の開発も行われていたから個人の工房にしてはそれなりに設備が整っているんだろう」
「それなりなんかじゃないですよ! とっても立派です!! これだけ色々揃っているということは辺境騎士団で使う回復薬なんかも製造していたのでは?」
「よくわかるな。たしかに以前はそうだったらしいが、今は騎士団内に魔力関連の部署があってそちらで製造をしている」
「へぇそうなんですね」
ランドリア家所有の工房よりは騎士団としてきちんと工房を持っている方が確かに色々と融通は利くだろう。組織としては正しい判断だと思う。
(ということは、今はあまりこちらの工房は使ってないのかな?)
自動で点灯するランタンたちも現役だし作業台の上はお世辞にも整頓されているとは言えないが、人が頻繁に出入りしている熱というか空気を感じない。ほこりっぽいということはないが、少し泥臭い匂いもする。少なくとも毎日人が出入りしている雰囲気はなかった。
(……いやでも、ティスのお母さんは使ってるのかな? うん? ティスのお母さんがここを使うということはランドリア家の魔女ということだよね? それってつまりランドリア辺境伯の奥さん……ではないから、もしかして恋人とか? だとするともしかしなくてもティスは辺境伯の隠し子なのでは?)
コルトは思わずルーティスに視線を向ける。こうして改めて見ればルーティスとティスはとても似ている。親子と言われてもしっくりくる。
(あ、右眉の同じところに傷がある)
先ほどから無表情を装いつつもこちらを観察するコルトの様子にしばらくは黙って耐えていたルーティスだったが、あまりにも視線がうるさくなったので目を細めて低く呟いた。
「おい、今ろくでもないことを考えているだろう?」
「え?」
「先に言っておくが……私に子どもは居ないからな」
「!!!?」
(ななな、なぜ考えてることがわかったんだ??)
考えていたことが口から知らず出ていたのでは? と慌てたコルトは無意識に自分の口元に手をあてる。市場でティスにも思考をたびたび読まれていたが、そんなに自分はわかりやすいのだろうか?
と、明らかに目で語っているコルトにルーティスは慈しむような憐れむような複雑な表情を向けた。
「口には出していない。まあ、その動作で私の推測が正しかったと言っているようなものだが」
「あ、いや、その、ティスとランドリア辺境伯はなんというか、とても似てるな……と思いまして」
バレているなら誤魔化しても仕方はないが、さすがに「ティスのお父さんですよね?」と未婚のはずの己の婚約者に聞くほどコルトも礼儀知らずではない。
噂では浮いた噂もなく、魔獣討伐にしか興味のない『残虐伯』とも呼ばれるランドリア辺境伯だが、噂はあくまでも噂である。むしろ身分違いで表に出せない恋人がいて、その人を思うがゆえに縁談をことごとく回避していたのかもしれない。
(だから以前は俺を追い返したけど、隠し子の存在がバレたから対応を変えたのかもな)
ティスも辺境で揉まれて育ったら立派な武人に成長するのだろう。逆に言えば今目の前の上から見下ろしてくる圧の強い男も、ティスのように可愛らしい子ども時代があったということだ。
「まあ、そうだな。アレと私はとても似ているから、親子と疑われても仕方ないが……」
不躾に見つめているのは無礼だと思いつつも、コルトはついティスの面影をルーティスに探してしまう。そんなコルトに苦い物を食べたような顔になったルーティスは、作業台の上にあった一際大きなランタンのような丸い機械に手を伸ばした。その上部の出っ張りをひねると、丸い大きな機械はゆっくりと明るくなっていく。自動で点いたランタンたちと同じく、照明用の魔道具なのだろう。
「わ、眩しい……」
大きさからして普通のランタンよりも明るくなるだろうと予想はしていたが、徐々に明かるさを増していく丸い大きなランタン型の魔道具に、コルトは思わず目を細める。
それとほぼ同時だった。
コルトの横で黒い霧のようなモヤが立ちのぼったかと思う、先ほどまであったはずの人影がなくなった。
「えっ!?」
慌ててコルトはルーティスが立っていた場所を見る。
そこにはいつの間にかぶかぶかのシャツを着たティスが立っていた。
「?????? ティ?? え???? いつの間に?? 辺境伯は??」
「…………ここに居る」
「は?」
まるで昼間のように明るくなった室内で、足元に絡まったズボンから抜け出る少年をコルトは凝視する。
(今、なんて……??)
「ティスが私に似ているのは親子だからではない、私がルーティス・レザーテ=ランドリア辺境伯本人だからだ」
「!?!?!?!?!?!?」
真面目な顔で見上げてくるティス……もといルーティスは嘘をついているようには見えない。
もう、今日は驚くことはないと思ったのに。
目の前に立つ銀髪の少年をコルトはただただ呆然と見つめることしかできなかった。
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