婚約者に捨てられた訳ありΩは辺境でしたたかに生きることにしました

和泉臨音

文字の大きさ
15 / 57

15.竜の呪い

しおりを挟む
 
「実際に見ても信じ難いことだというのはわかっている」

 見上げていた顔をおろして自嘲気味に笑うティス、いやルーティスの姿にコルトは我に返った。
 慌てて片膝をつき、視線を合わせる。

(確かに信じられない、信じられないけど……)

 二人が入れ替わる時間も変な動きもなかったし、そもそもこんな意味不明な嘘をルーティスやティスがつく必要がない。もし親子だとバレたくないのなら親戚の子どもだとか最もなことを言えばいいのだ。大人が子どもになるなど、そちらの方が到底信じられない。
 信じられない、だけど自分が告げる真実を嘘だと決めつけられる悲しさを、コルトは痛いほど知っていた。

「あの……とりあえず状況を整理してもいいですか?」
「ああ構わない」

(あ、さっきの辺境伯と同じ言い方だ)

 いや、それだけではない。
 よくよく思い出してみれば表情や言葉遣いもティスとルーティスはとても似ていた。だから血の繋がった親子だと思ったし、同一人物だというなら本当にそうなのだろう。それならば右眉にある傷が全く同じなことにも頷ける。

「ティスがランドリア辺境伯なんですよね?」
「そうだ」

(ということは、俺もしかしなくてもすごく失礼な態度をとっていたのでは??)

 市場でのティスとのやり取りを思い出し、コルトは血の気が引くのを感じた。だがしかし今更しでかしたことを後悔しても仕方はない。それにティスに対するコルトの対応を特には咎められていないので、大問題になることはないだろう。
 コルトは浮かんだ不安をとりあえず横に置くことにする。

「なぜ辺境伯が子どもの姿になるのか……お伺いしても?」
「竜の呪いだ」
「竜?」

 ルーティスの説明によれば、少年ティスの姿になってしまうのは『竜の呪い』なのだという。
 二年前の竜との戦いでルーティスは背中に重傷を負い、どうにか一命を取り留めた。その後から陽の光を浴びると体が子どもになってしまうのだという。夜になれば元の姿に戻るし、子どもになる以外は特に変化や不調はないらしい。
 ちなみにルーティスが先ほど点けた丸い大きなランタンは、半径50メートルくらいを昼間と同じ明るさにできる国宝にも匹敵する貴重な魔道具だった。昔、夜行性の魔獣討伐のために開発されたものなのだそうだ。
 コルトはその魔道具もものすごく気になったが、とりあえずそれも横に置くことにする。

 なるほどとルーティスの説明を聞きつつも、コルトはどうにも腑に落ちない部分があった。

「あの、確かに竜は魔力も強い魔獣ですけど、呪いをかけるなんて話は聞いたことありません」

 呪いというものはたしかに存在する魔力の利用方法だ。たとえば呪殺というものがあるが、毒殺や暗殺に比べると制約が多い割には成功率が低く、実用的な方法ではない。他にもαをΩにする呪いなどもあるらしいが、数少ない錬金術師でもさらに少ない者しか使えない術だという。
 なので呪いというと一般的にはちょっとした不幸を呼び寄せ、嫌がらせに使われるくらいの手段だ。不幸をはじく効果のある御守りとは逆転の発想である。
 コルトは今まで読んだ本や聞いた話をいろいろと思い出しつつ思案する。

(物質の変化という意味では魔力を使って体を子どもにするというのは可能かもしれない)

 だが、命を保ったままでとなるとかなり複雑な術になるだろう。それこそ皿などを修復するのとはわけが違う。
 もしこれが本当に呪いだというならば、行ったのは人間だと考えるほうがしっくりくる。あくまでも人間だからこそできる魔力の使い方であり、発想だろう。

 魔獣は人とは異なり性別関係なく魔力を扱う力がある。それだけでなく魔獣自身も体内に魔力を持っている。彼らはその魔力を使って空を高速で飛んだり、炎を吐いたり、水の中に潜り続けたりするのだ。人間と違い、生きることに必要な動作の一部として魔力を使う。
 そのことからも呪いという複雑な魔力の使い方をして、わざわざ人間を子どもにする理由がない。
 仕留めるなら押しつぶせばいい。おのれが息絶える瞬間だとしても、いや、そんな瞬間だからこそ複雑なことなどせず、全力を持って殺しにかかってくるのが魔獣という生き物のはずだ。自分の死んだあとの敵のことなど考えたりしないだろう。

「たしかにそれは他の者にも言われ私も調べた。竜にはそこまでの知能はないらしいな」
「はい。知能というか感情といいますか。本能で生きているので相手を困らせるために呪う、といったような行動はしないかと」

 コルトの言葉にルーティスが頷く。コルトでもわかっていることだ。ルーティスも把握していることだろう。
 考え深げにコルトの話を聞く少年の姿にコルトはひざまずいたまま話を続けた。

「人と会話ができるという古竜ならもしかしてと思いますが、伝説上の生き物でしょうし……いたとしても、それこそとても人間が倒せる相手ではないと思います」
「そうだな。私が倒したのはただの火竜だった。だが竜との戦闘以外に原因が見当たらないんだ」

 元の姿に戻るから後ろを向いていてくれと言われ、コルトは立ち上がると大人しくルーティスに背を向ける。
 昼光を放つ魔道具丸い大きなランタンを消したのだろう。すっと室内から光が減り、決して暗くはないのだが先ほどよりもかなり部屋が暗くなった。

(この部屋に入った時は、これでもびっくりするほど明るく感じたのにな。……それにしても)

「なんで昼間だけ呪いが発動するんだろう?」
「さあな。それも全く見当がつかない」

 思わず呟いたコルトの背後から低い声が聞こえて、そこにルーティスがいる事はわかっていたのに、コルトは驚いてしまった。
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。 性表現は一切出てきません。

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)
BL
 公爵令息のウォルターは、第一王子アリスターの婚約者。  ふたりの婚約は、ウォルターが生まれた際、3歳だったアリスターが『うぉるがぼくのはんりょだ』と望んだことに起因している。  そうして生まれてすぐアリスターの婚約者となったウォルターも、やがて18歳。  初めての発情期を迎えようかという年齢になった。  これまで、大切にウォルターを慈しみ、その身体を拓いて来たアリスターは、やがて来るその日を心待ちにしている。  しかし、そんな幸せな日々に一石を投じるかのように、アリスターの運命の番を名乗る男爵令息が現れる。  男性しか存在しない、オメガバースの世界です。     改定前のものが、小説家になろうに掲載してあります。 ※蔑視する内容を含みます。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。 しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです… 本当の花嫁じゃないとばれたら大変! だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど
BL
愛されていないのに形だけの番になるのは、ごめんだ。  オメガの王族でもアルファと番えば王位継承を認めているエステート王国。  そこの第一王子でオメガのヴィルムには長年思い続けている相手がいる。それは幼馴染で王位継承権を得るための番候補でもあるアルファのアーシュレイ・フィリアス。 アーシュレイは、自分を王太子にするために、番になろうとしてると勘違いしているヴィルムは、アーシュレイを拒絶し続ける。しかし、発情期の度にアーシュレイに抱かれる幻想をみてしまい思いに蓋をし続けることが難しくなっていた。  そんな時に大国のアルファの王族から番になる打診が来て、アーシュレイを諦めるためにそれを受けようとしたら、とうとうアーシュレイが痺れを切らして…。 二人の想いは無事通じ合うのか。 現在、スピンオフ作品の ヤンデレベータ×性悪アルファを連載中

処理中です...