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15.竜の呪い
しおりを挟む「実際に見ても信じ難いことだというのはわかっている」
見上げていた顔をおろして自嘲気味に笑うティス、いやルーティスの姿にコルトは我に返った。
慌てて片膝をつき、視線を合わせる。
(確かに信じられない、信じられないけど……)
二人が入れ替わる時間も変な動きもなかったし、そもそもこんな意味不明な嘘をルーティスやティスがつく必要がない。もし親子だとバレたくないのなら親戚の子どもだとか最もなことを言えばいいのだ。大人が子どもになるなど、そちらの方が到底信じられない。
信じられない、だけど自分が告げる真実を嘘だと決めつけられる悲しさを、コルトは痛いほど知っていた。
「あの……とりあえず状況を整理してもいいですか?」
「ああ構わない」
(あ、さっきの辺境伯と同じ言い方だ)
いや、それだけではない。
よくよく思い出してみれば表情や言葉遣いもティスとルーティスはとても似ていた。だから血の繋がった親子だと思ったし、同一人物だというなら本当にそうなのだろう。それならば右眉にある傷が全く同じなことにも頷ける。
「ティスがランドリア辺境伯なんですよね?」
「そうだ」
(ということは、俺もしかしなくてもすごく失礼な態度をとっていたのでは??)
市場でのティスとのやり取りを思い出し、コルトは血の気が引くのを感じた。だがしかし今更しでかしたことを後悔しても仕方はない。それにティスに対するコルトの対応を特には咎められていないので、大問題になることはないだろう。
コルトは浮かんだ不安をとりあえず横に置くことにする。
「なぜ辺境伯が子どもの姿になるのか……お伺いしても?」
「竜の呪いだ」
「竜?」
ルーティスの説明によれば、少年の姿になってしまうのは『竜の呪い』なのだという。
二年前の竜との戦いでルーティスは背中に重傷を負い、どうにか一命を取り留めた。その後から陽の光を浴びると体が子どもになってしまうのだという。夜になれば元の姿に戻るし、子どもになる以外は特に変化や不調はないらしい。
ちなみにルーティスが先ほど点けた丸い大きなランタンは、半径50メートルくらいを昼間と同じ明るさにできる国宝にも匹敵する貴重な魔道具だった。昔、夜行性の魔獣討伐のために開発されたものなのだそうだ。
コルトはその魔道具もものすごく気になったが、とりあえずそれも横に置くことにする。
なるほどとルーティスの説明を聞きつつも、コルトはどうにも腑に落ちない部分があった。
「あの、確かに竜は魔力も強い魔獣ですけど、呪いをかけるなんて話は聞いたことありません」
呪いというものはたしかに存在する魔力の利用方法だ。たとえば呪殺というものがあるが、毒殺や暗殺に比べると制約が多い割には成功率が低く、実用的な方法ではない。他にもαをΩにする呪いなどもあるらしいが、数少ない錬金術師でもさらに少ない者しか使えない術だという。
なので呪いというと一般的にはちょっとした不幸を呼び寄せ、嫌がらせに使われるくらいの手段だ。不幸をはじく効果のある御守りとは逆転の発想である。
コルトは今まで読んだ本や聞いた話をいろいろと思い出しつつ思案する。
(物質の変化という意味では魔力を使って体を子どもにするというのは可能かもしれない)
だが、命を保ったままでとなるとかなり複雑な術になるだろう。それこそ皿などを修復するのとはわけが違う。
もしこれが本当に呪いだというならば、行ったのは人間だと考えるほうがしっくりくる。あくまでも人間だからこそできる魔力の使い方であり、発想だろう。
魔獣は人とは異なり性別関係なく魔力を扱う力がある。それだけでなく魔獣自身も体内に魔力を持っている。彼らはその魔力を使って空を高速で飛んだり、炎を吐いたり、水の中に潜り続けたりするのだ。人間と違い、生きることに必要な動作の一部として魔力を使う。
そのことからも呪いという複雑な魔力の使い方をして、わざわざ人間を子どもにする理由がない。
仕留めるなら押しつぶせばいい。おのれが息絶える瞬間だとしても、いや、そんな瞬間だからこそ複雑なことなどせず、全力を持って殺しにかかってくるのが魔獣という生き物のはずだ。自分の死んだあとの敵のことなど考えたりしないだろう。
「たしかにそれは他の者にも言われ私も調べた。竜にはそこまでの知能はないらしいな」
「はい。知能というか感情といいますか。本能で生きているので相手を困らせるために呪う、といったような行動はしないかと」
コルトの言葉にルーティスが頷く。コルトでもわかっていることだ。ルーティスも把握していることだろう。
考え深げにコルトの話を聞く少年の姿にコルトは跪いたまま話を続けた。
「人と会話ができるという古竜ならもしかしてと思いますが、伝説上の生き物でしょうし……いたとしても、それこそとても人間が倒せる相手ではないと思います」
「そうだな。私が倒したのはただの火竜だった。だが竜との戦闘以外に原因が見当たらないんだ」
元の姿に戻るから後ろを向いていてくれと言われ、コルトは立ち上がると大人しくルーティスに背を向ける。
昼光を放つ魔道具を消したのだろう。すっと室内から光が減り、決して暗くはないのだが先ほどよりもかなり部屋が暗くなった。
(この部屋に入った時は、これでもびっくりするほど明るく感じたのにな。……それにしても)
「なんで昼間だけ呪いが発動するんだろう?」
「さあな。それも全く見当がつかない」
思わず呟いたコルトの背後から低い声が聞こえて、そこにルーティスがいる事はわかっていたのに、コルトは驚いてしまった。
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