婚約者に捨てられた訳ありΩは辺境でしたたかに生きることにしました

和泉臨音

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18.魔術師団長の実力試験

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「錬金術を学んだことがないって話だったからどんなものかと思ったけど、手先も器用だし根気も強そうだし魔法を学ぶにはうってつけの性質だと思うわ」
「なるほど、そういうことですね……って、え?? 錬金術? って、えええ?!」

 イヴェルザの説明を聞きながら頷いていたケヴィンが驚いた声を出しコルトを見た。そんなケヴィンの腹にティスが間髪入れずにこぶしを入れる。

「ぐぅっ、ちっちゃいのに馬鹿力過ぎる……」
「子どもに殴られたくらいでよろけるな、鍛錬が足りん」

 殴られた腹を抱えてうずくまるケヴィンをティスは冷ややかな目で見降ろす。隣に立つイヴェルザの瞳も同じく冷ややかだ。

「ケヴィン……貴方、ルーティス様の副官なのに彼の名前をちゃんと聞いてなかったの?」

 工房にやってきた時、はじめて会ったコルトとカーディガル姉弟はルーティスにそれぞれ紹介をされていた。その時にコルトがルーティスの呪いを解く手助けをすることになったことも伝えてある。なので、ただの職人ではないとわかりそうなものだが、ケヴィンは深く考えなかったのだろう。
 いや、コルトの外見から錬金術師おとこのオメガである可能性など考えなかったのかもしれない。

「え、だって、魔術じゃないのに皿を直せる職人だって……んん、コルトさん……あ、コルト=ナハード子爵令息!! あああ、失礼しました。Ωには全然見えなかったもので気づけませんでした!」
「いえいえβに間違われるのはよくありますし、その方がふつうに生活しやすいのでお気になさらずに」

(そうそう、この反応が普通なんだよな)

 コルトは慣れ親しんだ反応に思わずしみじみしてしまう。うずくまったまま謝罪をするケヴィンがいたたまれなくなりそっと手を差し伸べた。
 コルトがΩと思われないのはよくある事だ。ケヴィンに落ち度があるわけではない。
 そしてコルトが無自覚で人助けをするのも良くある事で、そこに深い意味は無い。だが、相手もそう感じるかといえば必ずそうとは限らなかった。

 ケヴィンはコルトの手を取って立ち上がると、気のせいでなければ青い瞳をうっとりとさせながらその手を力強く握リ返してきた。

「コルトさんはなんて優しい人なんだ……」
「え、ええと、普通だと思います、け、ど?」

(ん? なんか、ちょっと雰囲気がおかしい……気が?)

「よろしければ今度オレとお食事でもいかがですか? 良い店を知っています」

 ケヴィンのあからさまな熱い視線に、さすがのコルトも違和感を感じる。
 しかも、いつの間にか手を包むように両手で握られ、心なしか顔が近づいて来ている。これはどういう状態なんだろうか?
 予想外の相手の行動にコルトが戸惑い始めたところでルーティスが大きな咳払いをした。

「執務室へ戻るぞケヴィン。お前の用はもう済んだだろう。あとは頼んだぞイヴェルザ」
「ぐえっ」
「はい、お任せくださいルーティス様」

 コルトに絡むケヴィンの服をティスは乱暴に掴むと、引きずるように工房を後にした。ケヴィンが「待ってくださいまだ話の途中で~」などと言っていたが問答無用である。ティスの小さい体に大の大人が引きずられて行くのはなかなか不思議な光景だった。
 まるで喜劇のワンシーンのような二人をイヴェルザは苦笑しながら見送る。

「あ、あの今のは……?」

(一体なんだったんだ??)

 コルトは思わず固まったまま呟くようにイヴェルザに問いかけた。第二性のせいで好奇の目にさらされることは良くあるが、先ほどのように口説かれた経験はほぼない。もちろん婚約者がいたから誰も声をかけなかったというのもあるのだろうが、でもそう考えるとケヴィンもコルトの正体に気づいたはずで、それなら辺境伯の婚約者だと認識したはずなのだが。
 コルトの戸惑った表情にイヴェルザが再び苦笑した。

「ごめんなさいね。わが弟ながらあの悪癖はどうしたものかと思うのだけど、単純というか迷惑というか、ちょっとでも優しくされるとすぐ惚れちゃうのよね」
「それは、またなんというか大変そうというか……」

 恐ろしいあだ名や噂はあれどケヴィンは見た目もいいし男爵位も持つ立派な騎士だ。あんな熱い目で口説かれたら本気にする人も多いだろう。

「うざ絡みしてくることもあると思うけど、挨拶みたいなものだから無視してくれればいいわ。さて、邪魔者はいなくなったし、わたしの用事も済ませていいかしら?」
「あ、はい。お願いします」

(そうだった。イヴェルザさんは俺の実力を確認しに来てくれたんだった)

 錬金術師としての知識や経験がないことをルーティスに伝えたところ、実際コルトにどの程度の実力があるのかイヴェルザが確認してくれることになったのだ。

「じゃあ、まずこの三つの箱の中からそれぞれ一つずつ、魔石を選んでもらえるかしら?」

 イヴェルザが差し出したのは十五センチ四方の木箱だ。それぞれ大小さまざまな石が等間隔に並んでおり、透き通っているものやまだら模様があるものなど、並べられた石の種類に一貫性はない。
 コルトは渡された箱を順番に見る。
 キラキラと透き通った石がグラデーションのように並べられている箱は簡単だった。その中で魔力を持つ石は柘榴ざくろのように真っ赤な石だけだったからだ。
 だが他の二箱には首を傾げてしまった。
 なぜなら一つは全てが魔石であり、もう一つには魔石が一個もなかったからである。

(それぞれ一つ魔石を選べ、と言われたけど、そのままの意味ではないんだろうか?)

 コルトは目の前で腕を組み様子を窺っている赤髪の魔女を見る。美しい魔女はうっすらと微笑みを浮かべてコルトを見つめ返すだけだ。
 その探るような青い瞳にゾワリと鳥肌が立つ。すべてを見透かされているようで、コルトは下手な知恵を働かせるのは辞めて、素直に自分の答えを伝えることにした。

「こちらの箱はこの柘榴色の石が魔石です。あとこの箱には魔石はありません。残りの一つ、こちらの箱はすべてが魔石です。その中から好きな魔石を選ぶということで良いでしょうか?」

 コルトの回答にイヴェルザの瞳が細められる。思わずコルトはゴクリと唾を飲んだ。

「フフッ、そんなに怯えなくても取って食ったりしないわよ。ええ、コルト様の見立てで正解よ」 

 先ほどまでの緊迫した空気とは一転してイヴェルザは明るい声で笑うとにっこりと微笑んだ。

「じゃあ次にこのすべて魔石の箱の中身を、魔力の量が多い順に並べてもらえるかしら?」
「わかりました、やってみます」

 第一関門を突破したことにコルトは安堵しつつ、次の課題に取り掛かる。

「出来ました」
「いいわね、ちゃんと魔力が見えているわ。じゃあ続いてこちらの問題に答えてちょうだい」

 石を並べ終えると今度は一冊の本をイヴェルザが取り出した。中を見れば魔力や魔術についての基礎知識の問題のようだった。

(これなら俺でもどうにか解けるかも)

 ページを捲る毎に問題は難易度を増していく。コルトはさまざまな問題を読むだけでもわくわくして、いつの間にか実力をテストされていることを忘れ、本の内容に夢中になっていた。
 
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