婚約者に捨てられた訳ありΩは辺境でしたたかに生きることにしました

和泉臨音

文字の大きさ
21 / 57

21.本来の目的を見失うところでした

しおりを挟む
 
 Ωとαのフェロモンは個人差はあれど常に出ていてお互いに影響し合う事がわかっている。フェロモンが強く出ている場合は、たとえばΩの発情期などはβにも影響をおよぼす。

 コルトは昼寝から起きたルーティスに「自分のフェロモンのせいで異様に眠くなっているのではないか」と伝えることにした。推測でしかないが、気づいていて黙っているわけにはいかない。意図してではないがフェロモンを使って罠を仕掛けているようなものなのだ。コルトに害意があればルーティスの寝首を簡単にかけてしまう。
 しかし大真面目な顔で言うコルトに眠たげな目をこすりながら、ルーティスは「ああ、なるほど」と言っただけだった。
 むしろおかしな事にその日以降、午後のティータイムのあとコルトの膝枕で昼寝をするのがティスの日課となった。
 最初こそ緊張していたコルトだったが五日もすれば膝の上にティスの頭を乗せたまま読書をするようになった。慣れとは恐ろしいものである。

(なんか毎日が楽しすぎて、うっかり呪いのことを忘れそうだ)

 コルトがルーティスに大見得を切ってからすでに一月半経過していた。
 小さなルーティスとのお茶会もイヴェルザとの勉強も充実しており、何故ここで学ぶことになったのかを失念しそうになる。
 そもそもイヴェルザたちが二年以上かけても調べきれていないのだ。ヒヨッコの知識しかないコルトがそう簡単に解明はもとより糸口をつかめるわけもないが、そう言って甘えているわけにもいかないだろう。

 幸いなことにこの二年間、大型の魔獣の出現や野盗、海賊などの人災を含めて大きな災害は起きておらず、ランドリア辺境領は平和である。もちろん辺境騎士団が日々活躍しているからというのはあるが、辺境伯が不在であっても問題なく統治されていた。
 だがこの状態がずっと続くわけではないのは歴史を見れば明らかだ。

 どちらにしろルーティスの呪いを解くのは早ければ早いほどいいだろう。

「あの、イヴェルザさん。そろそろ呪いについて本腰を入れて調べようと思うんですが、すでに判明していることを共有してもらうことって出来るんでしょうか?」

 本来ならもっと早く声をかけるべきだったかもとコルトは少しばかり後悔したが、イヴェルザは特に気にする様子なく「わかったわ」と頷いた。
 
「あくまでも子どもを大人にする魔術の研究ってことになっているからそのつもりで対応してね」
「子どもを大人に? 大人を子どもにするのではなく?」

 二階の書棚の奥からいくつか資料を取り出してきたイヴェルザに、コルトは首を傾げる。
 ランドリア家の工房は家主の許可がないと立ち入ることができない魔術が施されている。まず扉が開かず、無理にこじ開けると雷に打たれてしまうらしい。この屋敷のどこよりも警備が厳重な場所だ、とティスが可愛いドヤ顔で言っていた。
 なので重要書類、特に魔術関連のものは、工房に保管してあった。その一部をイヴェルザはコルトに見せる。

「たしかに原因を解明するのは解呪への近道だけど、それよりも実害を取り除くことを優先することにしたのよ。なにせ極秘だし使える人員も限られてるんですもの」
「なるほど」

(子どもを大人にする魔術が確立できれば、最悪呪いが解けなくてもルーティス様を大人の姿に戻することはできる……ってことか)

「それで錬金術師ならわかることもあるかもといっていたのは……」

 コルトの問いかけにイヴェルザは持ってきた資料をいくつか広げてみせた。そこには「身長を伸ばす魔術」「回復薬の作り方」「破損した瓶の修復魔術」などが書かれており、その中でも目を引いたのは「第二性変換魔術」だ。第二性の変換はαからΩに、Ωからβにとパターンは色々ある。

「物質変化の魔術ですね。その中でも第二性変換と身長を伸ばす魔術は生物の肉体を変化させてるから、子どもを大人にする魔術の足がかりになりそうですが」
「ええ、でも身長の方は読むとわかるのだけど、すぐに伸びるというものではないの。あくまでも予想される将来の身長より高くなるというレベルだから、魔術と言えるかも怪しいわね」
「そうなんですね」

 真剣に資料を読み始めたコルトを気にすることなくイヴェルザは言葉を続ける。

「話を戻すけど、錬金術師ならわかることもあるかもとルーティス様に進言したのはわたしよ。この第二性変換魔術は貴族がこぞって欲しがる方法だから噂は聞いたことあると思うけど」
「錬金術師しか使えないといわれる魔術ですよね」
「その通りよ。前にも説明したけど魔術の中でも己の魔力を使うことでさらに難解な現象を引き起こすことができるのが錬金術よ。生きたまま肉体のかたちを変えるという事象が起こせるとしたら、それは錬金術の領域だろうと思っているわ」
「錬金術師のもつ知識も知りたかったし、もし大人に戻す魔術が構築できたとしても、錬金術が使える者でなければ実現は難しいと仮定しているわけですね」
「ご明察よ。まあ錬金術師なんて見つけるのは砂浜に落としたイヤリングを探すようなものだから期待してなかったんだけど、何気にルーティス様は強運の持ち主よね」

 にっこりと笑うイヴェルザにコルトは思わず苦笑する。

「錬金術師というにはなんの知識もない俺でしたけどね」
「あら、ルーティス様が認めて側にいることを許しているだけでも、わたしからすれば喜ばしいことよ。理屈ではΩの魔女でもよかったのだけど……あんまり条件に合う人がいなくてね」
「そういえばルーティス様が部下にΩは居ないって言ってましたけど、魔術師団にもいないんですか?」
「ええ、今は騎士団内にもこの屋敷にもルーティス様に会う可能性がある場所にΩはいないわね」

 Ωはもともと第二性の中でも一番少ない性別だ。だが優れた魔女にはΩが多いというし、実力主義の辺境ならばΩの魔術師がいても不思議はないと思ったがそうではないようだ。

「前はいたんだけどね、いろいろ問題が起きて採用しなくなったのよ。ルーティス様に番ができればまた雇えると思うけどそれまでは無理ね」

(ああ、いわゆるヒートトラップでも起きたのかな。未来の辺境伯夫人の座を狙う人は多いだろうし)

 ヒートトラップとはΩが発情してαを誘惑し既成事実を作ることだ。Ωに薬を盛るαもいれば、αをおとしめるΩもいる。貴族の間ではそれこそよくある話である。
 そういえば呪いを解くという話をした時も、ルーティスはコルトが夫人の座を狙っていると思っていた。それなりにΩにトラウマがあるのかもしれない。
 コルトはルーティスがΩを遠ざける一番ありえそうな理由を思い浮かべると、思わず同情したのだった。
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。 性表現は一切出てきません。

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)
BL
 公爵令息のウォルターは、第一王子アリスターの婚約者。  ふたりの婚約は、ウォルターが生まれた際、3歳だったアリスターが『うぉるがぼくのはんりょだ』と望んだことに起因している。  そうして生まれてすぐアリスターの婚約者となったウォルターも、やがて18歳。  初めての発情期を迎えようかという年齢になった。  これまで、大切にウォルターを慈しみ、その身体を拓いて来たアリスターは、やがて来るその日を心待ちにしている。  しかし、そんな幸せな日々に一石を投じるかのように、アリスターの運命の番を名乗る男爵令息が現れる。  男性しか存在しない、オメガバースの世界です。     改定前のものが、小説家になろうに掲載してあります。 ※蔑視する内容を含みます。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。 しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです… 本当の花嫁じゃないとばれたら大変! だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど
BL
愛されていないのに形だけの番になるのは、ごめんだ。  オメガの王族でもアルファと番えば王位継承を認めているエステート王国。  そこの第一王子でオメガのヴィルムには長年思い続けている相手がいる。それは幼馴染で王位継承権を得るための番候補でもあるアルファのアーシュレイ・フィリアス。 アーシュレイは、自分を王太子にするために、番になろうとしてると勘違いしているヴィルムは、アーシュレイを拒絶し続ける。しかし、発情期の度にアーシュレイに抱かれる幻想をみてしまい思いに蓋をし続けることが難しくなっていた。  そんな時に大国のアルファの王族から番になる打診が来て、アーシュレイを諦めるためにそれを受けようとしたら、とうとうアーシュレイが痺れを切らして…。 二人の想いは無事通じ合うのか。 現在、スピンオフ作品の ヤンデレベータ×性悪アルファを連載中

処理中です...