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26.港町デート? 開幕
しおりを挟む翌日。貴重な魔術研究ノートを借りる代わりに一日護衛を引き受けたコルトだったが、なんとなくそんな予感はしていたが、待ち合わせ場所に現れたのはルーティスだけだった。
(いやまあ初めて会った時もティスだけだったし、俺を連れて行こうとするだけマシなのかもしれないけど)
腕に自信があるから一人でも大丈夫だと思うのはコルトも理解はできる。が、成人男性とどう見ても十歳児では話が違うだろう。
「どうかしたのか?」
「ジェイクさんには伝えてきてます、よね?」
「書き置きはしてきた。問題ない」
ルーティスは言い切るとくるりと背を向ける。ふわりと舞った銀髪が朝日を浴びて煌めいた。
(うーん、これ絶対にまたこっそり抜け出してきてるな)
これが本当の十歳児ならどうにかして屋敷に連れ戻すのだが、中身は三十歳近い辺境の地を治める領主で、竜殺しの英雄だ。さすがに十歳児として扱うのは失礼だろう。
コルトは心配するであろうジェイクに同情しつつ、本日の護衛をしっかり務めようと決意を新たにした。
(それにしても、やっぱり銀髪って目立つよな)
コルトは前を歩くルーティスのキラキラと輝く銀髪のつむじを見つめる。港地区は色々な国との交易港なので、この国では珍しい肌の色や髪色の人も多い。コルトが生活していた王都に比べれば稀有な銀髪も目立っていないのは確かだが、見る人が見ればティスがランドリア辺境伯家の縁者だということはわかるだろう。
つまり貴族令息だということがモロバレだ。
「あの、ティス。ちょっとした提案があるんですが、髪の色を変えてみませんか?」
「突然何を言ってるんだ?」
馬車乗り場へまっすぐ向かっていたルーティスが立ち止まりゆっくりと振り返った。怪訝そうな顔をしているのかと思えばそんなことはなく、興味津々といった表情を浮かべている。
魔術以外でも髪を染める技術はあるが時間がかかるのと、一度染めると元の色に戻せないという欠点がある。コルトがルーティスに今回提案したのは魔術による変化だ。
コルトが持参した髪染めの魔法薬は塗っただけでは何も起きないが、色変えの魔術を同時に使うことで任意の髪色に瞬時に染めることができる。しかも髪を傷めず何度でも利用が可能だ。ただ色変えの魔術の加減が難しく、王都には専門の髪染め魔女がいるくらいである。またこちらの魔法薬は貴族の御婦人が身分を隠して外泊したい時に使われることが多いこともあり、公には出回っていない高価な薬でもあった。
(侯爵夫人に渡された回復薬の中に間違って入っていたやつだけど、役立てることが出来そうで良かった)
急遽辺境行きが決まった時、旅の支度を色々と整えてくれたのはトラジェント侯爵夫人だった。「何かあったら使いなさい」と渡された荷物の中にはいくつも貴重な魔法薬が入っていて、この髪染めの魔法薬もその中の一つだ。
きっとバタバタしすぎて入れ間違えてしまったのだろう。
「それは何色にでも変えられるのか?」
コルトの説明を聞いて楽しそうに見上げてくる姿は、年相応の少年に見えるから不思議だ。
(ルーティス様ももしかしたら武術より研究とか、細かい作業のほうが好きなのかもしれないな)
だけど辺境伯家の跡取りとして生まれた以上、武人になる以外の選択肢はなかったのだろう。金継ぎの時のように興味ありげにのぞき込んでくる新緑色の瞳にコルトは優しい笑みを返した。
「理論的には可能ですが、なにせ俺も初めてやるのであまり複雑な色は無理だと思います」
「ふむ……ならば黒ならどうだ? わりと失敗してもどうにかなるだろう?」
「なるほど、それなら確かに」
「よし、ではやって見せてくれ」
さすがに往来で魔術を使うわけにはいかず、一度屋敷へ戻ってから港地区へ向かうことになった。
ちなみジェイクには屋敷に戻った時に当然見つかったのだが、「楽しんできてくださいませ」とだけ言われて見送られた。意外とあっさりした見送りにコルトは拍子抜けしたが、それだけ護衛として信用されているのだろうと嬉しくなった。
無事に黒髪になったルーティスは心なしか楽しそうに海岸線に並ぶ市場を歩く。なんとなくその様子が微笑ましくてコルトも自然と笑顔を浮かべていた。
髪の色が目立たなくなったからか、ルーティスは先日と同じ服装をしているが平民感が増したように思う。
(よし、これなら貴族には見えな……くはないけど、銀髪よりは溶け込めてるな)
コルトはルーティスの黒髪頭を見下ろしながら、魔術が上手くいったことに満足げに微笑む。たぶんルーティスが良家の子息に見えるのはその立ち居振る舞いも大きいのだろう。きっとボロ布を身にまとっていても滲み出るオーラは誤魔化せない。
「コルト、あそこの店に行くぞ」
人混みの中で地味な容姿になってもどことなく目立っているルーティスは横を歩いていたコルトの手を掴むと、指差した露店へ歩き出す。
「え、わっ」
コルトは突然のことに慌てる。こんな風に人と手をつなぐことなんてなかったからびっくりした。
それこそ幼いファリシアンと出かけたことは何度もあったが、お忍びといえど護衛は他にもついていたし、人前で体を接触させることなどなかった。
「どうした?」
「い、いえ、何でもありません! 行きましょう」
(ルーティス様に特別な意図があるわけないよな。……もし弟と出かけることがあったら、こんな感じだったのかも)
コルトには年の離れた弟がいるが病弱で、どこかに一緒に出掛けた記憶はない。でもきっと兄弟でこんな人混みに来たなら手をつなぐのは普通のことなのだろう。
コルトは動揺する気持ちを落ち着かせながら、ルーティスの小さな手を握り返した。
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