婚約者に捨てられた訳ありΩは辺境でしたたかに生きることにしました

和泉臨音

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27.真の目的は海鮮を食べることではありませんでした

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「ははは、坊主は船が好きなのか。そうそうあれはエランドゥーダの貿易船さ」
「あんな大きいの初めて見たんだけど、いつもあそこにいるの?」
「いやいやあんなデカい船を見かけるようになったのは最近だ。今まではほら、あっちに見えるだろ半分くらいの大きさの船、あのくらいの中型船しか来なかったな」
「へぇぇぇそうなんだ。あんなに大きい船だといっぱいエランドゥーダの人も乗ってるんでしょ? 肌の色が濃い西大陸人だよね? おじさんのお店には来てくれた?」
「いやいや全然だねぇ。ほら焼けたぞ」
「わぁおいしそう! ありがとうおじさん」
「おう、ちゃんと兄ちゃんの言う事聞くんだぞ」
「はーい」

(……俺は今、何を見せられているんだ????)

 可愛い笑顔で屋台の店主に手を振るルーティスに手を引かれて、焼き貝の乗った皿を手に持ったコルトは思わず遠くの海原を眺めてしまった。

 ルーティスに手を引かれて向かった先は海鮮焼きの店だった。それなりに人が並んでおり、繁盛しているのだろう。列に並ぶと近くの船着き場に大きな船が停まっているのが見えた。
 コルトは辺境に来て海を初めて見たし、ボート以外の船を見るのも実は初めてだった。何百人も乗れる大きい船があるというのも正直今目の前にして初めて知ったくらいだ。
 思わず「大きい船だな」とコルトが呟けば、それに呼応するようにルーティスが可愛らしい大声で話しかけてきた。

「本当だ! 大きい船だね! ねえねえ、あれはランドリアの船なの??」

(?!?!?!)

 まるで幼子のように無邪気な顔でルーティスはコルトを見上げながら聞いてくる。一体何がどうしたっていうんだ?? と面食らっていたコルトの手をルーティスが強く握るのと、コルトたちの前に並んでいた赤子を抱いたご婦人が振り返るのとほぼ同時だった。

「あれはねぇ、エランドゥーダのお船よ」
「エランドゥーダって海の向こうの?」
「そうよ、よく知ってるのね。海の向こうの西大陸にある国の船よ」
「お姉さんすごいね。どうしてわかるの?」
「あそこに旗が……あら、今日は出てないのね、昨日入港した時は赤い旗が出ていたから外国のお船ってわかるのよ」
「へえええ、そうなんだ。すごいね兄さん!!」

(いたたたたたっ!)

 ルーティスの見た目に反した馬鹿力で手を握られ、コルトは痛みで声を発しそうになるのをなんとかこらえて「そうだね」と相槌を打った。
 そこからご婦人にこの店のお勧めなどを聞きつつ、それとなく最近変わったことがなかったかルーティスは無邪気を装い探りを入れる。

「変わったことと言えば、エランドゥーダの大きな船を見かけるようになったくらいかしらねぇ」

 そういってご婦人は海鮮焼きを購入すると、笑顔で立ち去っていった。うっかりコルトは途中からルーティスの可愛らしさについていけず、ご婦人が抱く赤子と見つめ合ってしまっていた。
 ご婦人との会話を終えれば今度は海鮮焼きの店主にルーティスは可愛らしく話しかけ、焼き貝を一つおまけしてもらうことにも成功していた。

(なんとなく、なんとなくだけど、ルーティス様がわざと子どものふりをして何かを調べているのはわかるんだよ。わかるんだけど……ルーティス様なんだよね??)

 真実を知らなければコルトもご婦人や海鮮焼きの店主のように、デレデレしながらルーティスに接することが出来たと思う。だがルーティスの正体を知ってしまった今、出会った時のように子ども扱いはできなかった。

「……悪いが、もう少し付き合ってくれ」

 顔に出してるつもりはなかったが、コルトの戸惑いを察したのだろう。前を歩いていたルーティスが、先程とは打って変わって低く落ち着いた声音で呟く。

「すみません。できるだけ無表情を作りますので」
「いや、そのままでいい。年の離れた弟に振り回されて辟易へきえきしている兄の演技としては完璧だ」

 口角を上げて笑う子どもらしくないルーティスの笑顔に、思わずコルトの笑顔も引きつってしまった。
 それからも何件か露店を周り、最近変わったことがなかったか、見慣れない船が入港してないかなどをさりげなく聞いて回った。
 その結果、コルトの両手は美味しそうな匂いを漂わせる名物でいっぱいになっていた。

「よし、あそこで食べよう」

 海岸沿いの市場から少し離れた丘の上にある広場までくると、ルーティスは港全体が見渡せるベンチへとコルトを案内した。
 前回来た時よりもさらに風は冷たくなっており、思わずコルトは身を震わす。

(ちょっと寒いけど、ティスは大丈夫かな?)

 子どもは風の子というし、そもそもルーティスは辺境生まれの辺境育ちだ。この程度の寒さには慣れているんだろう。特に寒がる様子もなく、ベンチに持っていた砂糖菓子などを置いていた。その様子を見つめていれば、顔をあげたルーティスと目が合う。

「……ここで少し待っていてくれ」

 荷物を置き、手ぶらになったルーティスは広場の端にある屋台へ向かったようだ。

(この距離なら何かあっても駆けつけられるな)

 ルーティスとの距離や周りの様子を確認しつつ、コルトも荷物をベンチへ置く。思わずルーティスに言われるままに両手に荷物を持ってしまったが、護衛としてこれはちょっと駄目なのでは? と一人反省会を始めたところでルーティスがカップを手に戻ってきた。

「ほら、ホットミルクブランデーだ。温まるから飲むといい」
「え? もしかしてわざわざ俺のために?」

 差し出されたカップをコルトが受け取ると、ルーティスは口角をあげて笑う。

「私はこの姿では酒を飲めないからな。それに寒くもないし、先ほど買った木の実ジュースもあるから問題ない。少し休憩しよう」
「……ありがとうございます」

(あったかい……)

 ルーティスが少し悪ぶった感じの笑顔で言ったのはコルトに気を使わせない為だろう。さり気ない気配りにやはり見た目通りの年齢ではないんだなと、コルトは不思議な気持ちになった。
 子どものふりをするルーティスにも違和感があったけど、本来のルーティスの行動をティスがするのにも違和感がある。

(……呪いを解いて、元の姿のルーティス様と市場をまわったらどんな感じなんだろう)

 さすがに今日みたいにはならないだろう。
 今は温かいカップを持つ、先ほどまでルーティスと繋いでいた自分の手を見る。

(きっと全然違うんだろうな。いやそもそも元の姿に戻ったら俺はお役御免だし、こんな風に過ごすこともないのか……)

 ルーティスの呪いが解けるのは願ってもないことだ。本人はもとより辺境のひいてはこの国のためでもある。そんなことはわかってるのに。

(なんだろう……なんだか変な感じがする)

「疲れたか? すこし連れ回しすぎたか」

 自分でもよくわからないが、気持ちが落ち込み無表情になっていたコルトを心配そうな新緑色の瞳が見つめる。

「あ、いえ大丈夫です。なんというか、ティスのテンションについていけなかったというか、驚いてしまって」
「ああ、あれか。せっかくこんな姿なんだ、利用しない手はないだろう? 髪も染めてくれたからいつもよりもやりやすくて助かった。コルトと同じ色にして正解だったな」

 先ほどまでの笑顔とは異なり、ふわりと花がほころぶような柔らかいルーティスの笑顔にコルトの胸がギュっと苦しくなる。

(?? なんだこれ)

「本当に大丈夫か?」
「あ、はい、大丈夫です。お役に立てたなら光栄です。それにしてもここからの景色はすごいですね」

 ルーティスにまっすぐ見つめられると動機が妙に激しくなる。いたたまれなくなったコルトは話題を変えてルーティスの視線を眼下に広がる海へと誘導する。

「ああ、ここは港が一望できるラーシムでも有数の観光名所だ。他にも連れていきたいところはあるんだが、時間が限られているから今日は無理だな。悪いが、この後もうひと働きしてもらうから、しっかり食べて休憩をとってくれ」

 そういうといつも通りの少年には似つかわしくない笑顔を浮かべ、ルーティスは焼き貝を食べ始めた。さりげなく身をはずしやすくしてコルトに渡していたが、妙な動機のせいで気もそぞろなコルトはルーティスの優しさに気づけなかった。
 
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