婚約者に捨てられた訳ありΩは辺境でしたたかに生きることにしました

和泉臨音

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28.嵐の前触れ

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「なるほど、つまりお二人で食べ歩きデートを楽しまれたってことですね」
「お前は何を聞いてたんだ?」

 にっこりと微笑むケヴィンに子ども姿のルーティスがあきれ顔で呟いた。

 コルトが一日護衛を無事に終えた翌日、ランドリア家の工房へ行けば本邸へ来るようにと呼びだされた。どこに行くのかと思えば二階へと案内され、たどり着いたのはルーティスの執務室で、そこにはすでにケヴィンも待機していた。

「おはようございますコルトさん」
「おはようございます。えっと、これは……?」
「二人とも朝から呼び立ててすまなかった。昨日の報告を早めにしておくべきだと思ってな」

 そういうと少年姿のルーティスは部屋の端にあった応接用のソファーへ移動した。コルトは座る場所に悩んだものの、ルーティスの正面、ケヴィンの隣に腰を下ろすことにする。

(昨日の報告ってことは港での話かな? 俺がいる必要あるんだろうか?)

 情報ならルーティスも把握していることだろうし、同席する意味が見出だせなかったが、コルトは大人しく成り行きを見守ることにする。

「まずオレから報告します。昨日、ラーシム周辺の森で今までいなかった種類の魔獣を複数確認しました。明らかに数が増えています」

 ケヴィンは持っていた資料をルーティスとコルトの間に置く。そこには蛇の体にトカゲのような足が八本ついた魔獣の絵が書かれていた。他にも馬くらいの大きさのネズミのような魔獣や、小鳥サイズの蜂みたいな魔獣などのスケッチもある。
 たしかに死の山脈の魔獣分布資料では見かけなかった魔獣たちだ。

「魔術師団長を筆頭に本日生息域の確認および個体数の調査を行なっています」
「わかった。ケヴィンはこの件に関してどう思う?」

 ルーティスの問いにケヴィンは顎に手を当てて思案する。

「本来この辺りにはいない魔獣ですし、全部駆逐してしまえばいいと思います」
「……なるほど」

(ケヴィンさんってやっぱり好戦的なのかもしれない)

 「赤鬼」の二つ名は伊達じゃないのかも、と思わずケヴィンを見つめていたコルトにルーティスが資料を押しやる。

「コルトはどう思う?」
「俺ですか? そうですね……火竜が居なくなったので生態系が変わったとかでしょうか? うーん、でもどの種も暖かい地域に生息している魔獣なのでそれも考えにくいのかな。この蛇に似た魔獣はいまのランドリアの気候では動きが鈍くなってしまうし、放っておいても他の魔獣に捕食される気がします。誰かが持ち込んだ魔獣が野生化したんでしょうか」
「そうだな。おおむね私たちも同様の結論に達した」
「あ! だから昨日の調査ですか?」
「そういう事だ」

 昨日、丘の上で景色を見ながら休憩をしたあと、向かったのは大型船の近くだった。コルトはそこで魔力が異様に集まっているところがないか、船を見るようルーティスに頼まれた。結果として船の動力源である魔道具に魔力が集まっているのが見えただけで、他には魔力は見えなかったのだが。

「つまり、あの船で魔獣が運ばれている可能性があると?」
「ああ。あんなに大きな船だというのに運び込まれた荷物や人があまりにも少ない。なにかしら裏があるんだろうと考えている」

(もし本当に魔獣を運んでいたとしたら、それって国際協定違反では?)

 魔獣は素材となっていれば商品として流通出来るが、生きたまま売り買いするのは禁止されている。それというのももし天敵のいない所で放たれてしまった場合、大量発生に繋がり多くの人に被害が及ぶからだ。下手をすれば国一つくらい滅びかねない。

「あれ? でもさすがに魔獣がいたとしても戦闘状態とか、なにかしら魔術を使っていないと魔力は見えないと思いますが……」

 コルトは小型や狼程度の大きさの魔獣と戦ったこともあるが魔力が見えたことはない。この資料にある程度の魔獣では普通にとらえられていても魔力で気づくことはできないだろう。

「それはオレもそう思いますね。コルトさんをわざわざ港へ連れていく必要はあったんですか?」

 コルトの疑問とケヴィンの探るような視線を受けて、ルーティスは腕を組み堂々とした表情を作る。子どもの姿のせいか虚勢を張っているように見え、どことなく微笑ましく見えた。

「護衛だ。船を見てもらったのはついでだな。イヴェルザからコルトは目がいいと聞いていたから、情報屋よりもわかることがあるかと思ったんだ」
「なるほど承知しました。色々と思うところはありますが、珍しくティスからお土産もいただきましたしそういうことにしておきましょう」

(そういえばイヴェルザさんに目がいいって褒められたな)

 イヴェルザが言う「目がいい」とは「魔力がよく見えている」ということだ。魔力の感知能力が人よりも高いとのこと。そんなことを気にしたことはなかったが貴重な才能だと褒められれば素直に嬉しかった。
 しかし変だな、とコルトは首をかしげる。

「あの船が魔獣を運んでいるとしたら仕掛けているのはエランドゥーダ国ということですよね。いま、国交は安定しているはずじゃ……?」
「安定しているし良好ですね。うちの王太子がエランドゥーダの王女と婚約もしていますし、戦争を始める理由はありません」
「ですよね」

 ケヴィンの説明にコルトは頷く。王太子とエランドゥーダ王女との婚約も強制ではなくお互い好き合ってのことだと聞いている。「お陰様でボクたちも自由に恋愛できるし、好きな人と結婚できるよ」とファリシアンも言っていた。むしろこんなことをして国際問題になったら困る人間は多いだろう。得をする人間が思い浮かばない。
 コルトの思案気な顔に、ケヴィンは肩を上げてお手上げと言わんばかりの表情をし、ルーティスも首を横に振った。

「本当にエランドゥーダが関係してるという証拠があるわけでもないですしね。いっそ船に乗り込んできてくだされば良かったのに」
「証拠がないのに乗り込んだらそれこそ問題になるだろう。それで警戒を強められても困る」
「それもそうですね。シルジ伯爵には?」
「今夜会う予定だが……まぁしらばっくれるだろうな。あんなにデカい船が入港しているのに「見たことがない」の一点張りだ」

(シルジ伯爵ってラーシムに常駐して交易をしている貴族の名前だったような)

 コルトがランドリアへ来る前に覚えた重要人物の名前を思い出していると、ケヴィンが横から補足する。

「シルジ伯爵家は海外との貿易を王から許可されていて、ラーシムに何代か前から住んでいる一族です。領地は持たず、ランドリア家の部下というよりは王家直轄の見張りと言ったところでしょうか。今の伯爵はたぬきジジイで食えないやつなんですが商才は本物ですね」
「ケヴィン、余計なことは言わなくていい」
「余計ではないですよね。ここまでコルトさんを巻き込むならきちんと情報は共有すべきです」
「ぐっ」

 ルーティスが少年姿だからというのもあるが、ケヴィンがルーティスを追い詰めているように見えてしまう。もしかして退席した方がいいのではとコルトがルーティスを見ると、ルーティスはコルトの視線の意図を感じとったのか観念したように「説明する」と呟いた。

「シルジ伯爵はたしかに食えない御仁だが、国への忠義は厚い。……まぁ私に嘘の報告をしている時点で信用できるかは微妙だが」

 話を聞くとシルジ伯爵は結構真面目な人らしい。だが「大型船など見たことがない」と言っているらしく、実際ルーティスとして港地区に訪問するときには大型船は停泊していないので深く追及が出来ないのだそうだ。

「ルーティス様が夜にしか来ないってわかっていて、その間はどこか他の場所に停泊してるんでしょうか?」
「ああ、少し離れた沖合にいるのは確認が取れているが、情報がなければ発見は難しかっただろうな」

 わざわざ何でそんなことを? など考える必要はない。ルーティスに知られないためなんだろう。つまりやはり何かしらあの大型船には探られたくない秘密があるということだ。

「そういえば、前に市場で立ち寄った屑魔石屋の店主に、ここには外国の大きな船もいて子どもや貴族が人攫ひとさらいに会うから気をつけろって言われました」

(そうだ! なんでこんな重要な情報を忘れてたんだろう)

 魔獣も大問題だが、あの大型船は人攫いのアジトなのかもしれない。コルトの言葉にルーティスとケヴィンが顔を見合わせる。

「ちょうどそのことを言われた時にルーティス様がお皿の件で絡まれていて、てっきり人攫いに会ってるのかと思ったんですよね」
「それで私を助けてくれたのか」
「はい」

 真面目な顔で大きく頷いたコルトにルーティスは「なるほど」と呟いてソファーに深く腰掛けた。

「他にもその魔女に何か言われたか?」
「ええと……男のΩは珍しいから錬金術師なら攫われないよう気をつけろと」

 コルトの説明に再びルーティスとケヴィンは顔を見合わせると小さく頷く。

「ケヴィン」
「承知しました。人攫いの件は調べなおします」
「頼む」

 ルーティスとケヴィンの阿吽あうんの呼吸に、この二人だから竜を倒すことが出来たんだなとコルトは実感する。それと同時にこの場で自分だけが蚊帳の外だということを改めて感じて複雑な気持ちになった。
 
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