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37.戦の準備
しおりを挟む「そちらの用事も終わったのかしら?」
用意された会議室に入れば先に着いていたルーティスたちの姿を見てイヴェルザが声をかける。
「ええ、それはもうルーティス様の勇姿をコルトさんにもお見せしたかったくらいです」
(ルーティス様の勇姿? というと……エリックの捜索に付き合わせてしまっていたけど、もしかして他にも問題が起きていた?)
「あの、大型の魔獣でも出たんですか?」
そうだとしたら大問題だ。コルトの顔が青ざめる。明らかに勘違いをしたコルトにケヴィンは慌てて訂正した。
「ああ、いえ違います! 魔獣といえば似たようなものですが、ここを取り仕切っていたシルジ伯爵と交渉してきたんです」
「シルジ伯爵と?」
「話し合いはうまくいったの?」
「いや、この期に及んで知らを切るので領主権限で拘束した」
「そのついでに家宅捜索をして、これから乗り込む予定の船の内部構造図も入手してきました」
(伯爵を拘束して家宅捜索した!? それって大ごとなのでは??)
辺境伯よりも伯爵の方が身分は低いが、この国でも十五名しかいない高位の貴族階級だ。そんな大物をおいそれと拘束なんてしたら後でどこから何を言われるかわかったものではない。貴族界の大ニュースになってしまう。
驚き顔を隠さずルーティスとケヴィンを見るコルトに二人は苦笑する。
「シルジ伯爵はエランドゥーダ国から大型船の建造技術を秘密裏に買っていた。その見返りにランドリアへ魔獣を持ち込むことや、今回の誘拐を黙認……いや、協力していたんだ。領主として、またこの国を守る辺境伯としてさすがに看過できない」
「今までシルジ伯爵が関係している確実な証拠もありませんでしたし、あの程度の魔獣を運び入れたくらいでは始末書を書かせる程度でおわってしまいます。そればかりか大型船の技術なんて言っても王都の貴族はピンと来ないでしょう。なのでもっと大きな尻尾をださないかと泳がせていたんですが、エリックさんの誘拐はさすがにやり過ぎでしたね。間違えたとはいえ、狙った相手は辺境伯の婚約者なんですからいい度胸です」
ケヴィンはにっこりと笑って説明する。
魔獣を運び入れるのは重罪だ。だが平民であれば極刑でも、伯爵がしたとなれば書面だけの報告で終わる可能性がある。
なぜそんな緩いのかと言えば、珍しい魔獣をペットとして飼っている貴族が少なからずいるからである。大抵が羽根のきれいな鳥だとか人畜無害な魔獣だが、そんな実態があるため大きな被害でもなければお咎めはないだろう。
「確かに小さな魔獣だけじゃ大した罪にはならないかもしれません。大型船の技術も貿易が盛んになるから悪い技術ではない気がしますけど、婚約者の誘拐は……黙認はできませんね。たまたま狙いやすかった男のΩが俺だっただけかもしれませんが」
「例えそうだとしてもコルトは私の婚約者だ」
真剣な表情で言い切るルーティスにコルトは思わず息を飲む。
(そうか……その話、まだ生きてたんだな)
ルーティスの婚約者でいることが嬉しいのか辛いのか自分でもよくわからない。だが婚約者の誘拐がランドリア家の沽券に関わるのは理解できる。実際さらわれたのは婚約者ではないが、狙われたとなれば黙っているわけにはいかないだろう。
「そう、エリックの誘拐が決め手ではあるけどわたしたちの危惧は船の方よ。大型船の技術は独占したところで王都へつながる海路もないし、外国へ向かうだろうと考えるわね。だから中央貴族たちが大して問題視しないのも目に見えてるわ。でもねコルト、あの大型船の動力源を他へ転用したらどうなるかしら?」
コルトは先日見た大型船を思い出す。貴族の屋敷位ある大きさの船を動かせるだけあって動力源である魔導具は結構な大きさのはずだ。船の外からだったが海からたくさんの魔力を集めているのも見えた。
(あれ……目に見えるほど魔力を集めるって、どこかで聞いたような)
そこまで考えて、コルトは思いついた言葉を口にした。
「……竜の口から吐く炎」
「ご名答よ。軍事転用したら大変なものになるわ。そこまでシルジ伯爵が考えていたかはわからないけど」
「それが、ちゃんと考えていたみたいですよ姉さん」
「大型の砲台を建設するつもりだったようだな」
「大型の砲台?!」
思わずコルトが声を上げた。つまりそれは竜の炎に匹敵するほどの攻撃力を持つ兵器ということだろう。
「シルジ伯爵はそんなもの作って何と戦うつもりなんですか?!」
どう考えても過剰戦力だ。
ルーティスはずっと青ざめているコルトが可哀想になり言い淀む。そんなルーティスに代わりケヴィンが説明を続けた。
「彼の主張によれば魔獣対策用とのことですよ。いわく『ランドリア家に頼らずとも戦える武器を作る』だ、そうです」
「それってつまり、自分が辺境伯家に成り代わるってことですか?」
「端的に言えばそうですね。さすがにルーティス様相手に使うとは言いませんでしたが、その兵器一つで辺境騎士団に匹敵すると考えていたようです。竜すら倒すオレたちより、そんなものが本当に強いと思っておいでなのだとしたら、とても残念ですよね。魔獣相手に止まったままで戦おうなんて実戦を知らないにもほどがある」
(確かに。固定されている砲台なんて簡単に破壊できるし、魔獣相手に単調な攻撃が効くのは最初のうちだけだと思う。そもそも兵器が戦闘で優位になるのは牽制ができるからで、知性の低い魔獣相手には効果は薄い。破壊力が凄くとも辺境騎士団とどちらが強いかなんて明白で、比べるまでもない。いやそんなことより、辺境伯家に成り代わるって……さすがに国王陛下が認めるわけがないのに)
ランドリア家は代々続く辺境伯家だ。過去にさかのぼれば王族から降下した人物もいる。血は薄くとも王族に近い貴族家系だ。だからこそ辺境という場所柄もあるが、好きに行動することを許されている。
「まあそんな訳もありまして、シルジ伯爵のことはどうしても失脚させたかったんですよ」
「……なるほど」
「ルーティス様はあまり乗り気ではなかったみたいだけれどね」
「そうなんですか?」
コルト、ケヴィン、イヴェルザがそれぞれルーティスを見る。ルーティスは三人の視線を受けて少しばかり眉をひそめた。
「シルジ家とはもともと武と商でお互いうまく付き合ってきた。私の代でその縁を切るのはどうかと思っただけだ」
「そんなお優しいルーティス様が威圧全開で先程シルジ伯爵を締め上げたんです。愛の力は偉大だと実感しました」
「おいっ、余計なことは言わないでいい」
「あらやだ気になるじゃない」
「そんなことより、今後の打ち合わせをするぞ」
(愛の力? とは?)
疑問に思って小首を傾げるコルトに「後でお伝えしますね」とケヴィンはウインクした。
その後の話し合いでイヴェルザが指揮官として港に残り、コルト、ルーティス、ケヴィンとその部下十名ほどが小舟を使い大型船に乗り込む事が決定した。
最初ルーティスはケヴィンに港へ残るよう指示を出した。ルーティスが船に行く以上当然の選択だろう。副官であるケヴィンが残り、港で全体指揮を取るべきである。しかし「絶対に嫌です。ルーティス様の命令でもオレも救出班に入ります」とケヴィンは頑なに拒否し、イヴェルザが残ることになった。
ケヴィンが言うには少数精鋭で早く終わらせた方がいいだろうとのことで、そのためには自分の戦力が必要になるはずだとのこと。それを聞いたルーティスはなんとも複雑そうな顔をしていたが、珍しいケヴィンの反抗に折れることとなった。
コルトは二人の気さくなやり取りしか見ていなかったのでそこまで違和感を感じなかったが、ケヴィンがルーティスの命令に逆らうのは本当に珍しいらしく、部下の皆様方は怯えるくらい驚いていた。
一緒に船に乗り込む騎士八名と魔術師二名と、コルトは一人一人挨拶を交わした。その時ルーティスに「私の婚約者のコルト=ナハード子爵令息だ」と紹介され、突然のことにコルトは言葉を失ってしまった。
きっとまたΩに見えないとか、好奇の目に晒されるのだろうと覚悟したコルトだったが肩透かしをくらうことになる。
部下の皆はそれはもう嬉しそうにコルトを迎え入れてくれたのだ。
「あなたがコルト様ですか! 頼りにしてます」
「お会いできて光栄です。どうぞ団長のことよろしくお願いしますね」等々。
名前を名乗ったあとにここまで好意的な挨拶をうけたのは一体いつぶりか。思わずコルトの目頭が熱くなってしまった。
(いかんいかん。今はエリックの救出に集中しなくては)
コルトは改めて気合を入れる。
今日は挨拶した時に変な目を向けられなかったんだ、すごく嬉しかったんだと、エリックに伝えるのだ。そうしたら絶対にエリックは「やりましたね!」と自分の事のように喜んでくれる。
(……どうか無事でいてくれ)
コルトはそう強く願うと、ウエストポーチに魔道具を詰め込むのだった。
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