婚約者に捨てられた訳ありΩは辺境でしたたかに生きることにしました

和泉臨音

文字の大きさ
42 / 57

42.魔力の集まる場所

しおりを挟む
 
「……ルト、コルト」
「ん、……はっ!!」
「起きたか?」

 優しい声で何度も名を呼ばれ、コルトは目を覚ました。いつの間にか眠っていたことにコルトは我が事ながら驚愕する。

「す、すみません! 俺寝ちゃってっ!!」
「疲れていたんだろう。気にするな」

(気にするなと言われても、なぜ俺はこの状態で眠れたんだ??)

 海に落ち、木の板の上に乗ったままコルトはいつの間にか爆睡していたようだ。本当に信じられない。体勢的にも無理すぎるし、状況的にも無理すぎる。己の精神の図太さが恥ずかしい。穴があったら入りたい。
 ルーティスはスヤスヤと眠るコルトを見捨てることも起こすこともせず、ただひたすら舵を取るように海流を読み海の中を泳いでいたのだろう。怒っていい立場である。しかしコルトを起こすルーティスからは、怒りどころか慈しみさえ感じてしまう。なんという器の大きさか。

 自分の失態にあまりにも打ちひしがれるコルトに苦笑しつつも、ルーティスは話をつづけた。
 
「できれば海岸についてから起こしたかったんだが、すこし間に合わなさそうでな。悪いがここからは自力で泳いでもらえるか?」

 ルーティスはそう言うと白み始めた東の空を見る。つられるようにコルトも朝日が空を染め始めている様子を確認した。

(そうか、もうそんな時間なのか。俺どれだけ寝てたんだよ……。いや、駄目だ。やってしまったことをウダウダ考えるよりも、今やるべきことに気持ちを切り替えなくては!)

 ここまですべてルーティスに任せてしまっていたのだ。ここからぐらいは、せめてルーティスの姿がティスになってしまった後は、自分が先頭に立つべきだろうとコルトは気持ちを切り替える。
 眠ってしまったのは大失態だが、休めたおかげか回復薬の効きもよく腕の痛みもない。これなら多少荷物を持って泳ぐことだってできる。

「もちろんです!! 今度は俺が押すのでルーティス様がここに乗るというのはどうですか?」
「その申し出はありがたいが、その必要はない。あちらに見えるだろう? あそこが目指していた岬だ。私とコルトなら普通に泳げば半時程度でたどり着けるだろう」
「なるほど、判りました」

 ルーティスが示す先を見れば陸地が確認できた。少しばかり距離はあるが、コルトでも十分泳げる距離だ。二人とも急いで泳げば朝日が昇る前にたどり着けるかもしれないが、このままコルトを運んでいたのでは完全に間に合わないだろう。ルーティスは本当にギリギリのところまでコルトを休ませてくれたのだ。

「ありがとうございます、ルーティス様。俺、本当に足手まといで……」

 板の上で反省した犬のようにしょぼくれるコルトに思わずルーティスは何度も瞳をまたたかせる。

「足手まとい? コルトはしっかり魔術で援護してくれていた。問題ない。私は徹夜での行軍にも慣れているし、このくらいなら耐えられる体力があるが、コルトはそうではないだろう? むしろ休める時にしっかり休んでくれて良かった」

(ううう、ルーティス様って何でこんなにいい人なんだろうか)

 ルーティスはコルトを見上げながら口角を上げて笑う。ティスの時は見た目との差がある笑顔だとしか感じなかったが、大人の姿で見るその笑顔はなんとも男らしくて、コルトの胸がきゅんとする。思わず見惚れていればルーティスが少し言いづらそうに言葉を続けた。

「無理そうなら断ってくれて構わないんだが、もし私が海の中で子どもになってしまった時は、魔剣を預かってもらえないだろうか?」

 何を言い出すのかとコルトは一瞬身構えたが、何のことはないお願いだった。水狼の魔剣は普通のロングソードよりも大きくはあるが、背負って泳げない大きさではない。実際ルーティスはずっと帯剣しているのだ。鍛えていない人間だったら厳しかったかもしれないが、コルトはその辺の騎士程度には鍛えている。体力が回復しているのもあって、その程度のお願いなら造作もない。

「預かります!! なんでもします!!」
「あ、ああ。悪いな」

 前のめりに返事をしたコルトに驚きつつも、役に立てるのが嬉しいと全身で表現している姿に、ルーティスは自然と笑顔をほころばせた。

 それからは二人で岬の海岸を目指して泳いだ。あと少しというところで日が昇りルーティスは黒い靄に包まれる。ルーティスの体が縮んだ瞬間、海面から突如姿を消した。海へ沈んだのだ。コルトは心臓が止まるほど驚いたものの、即座に後を追い魔剣を受け取りルーティスの細い腰を抱いて海面へと泳ぐ。そのままコルトは魔剣とルーティスを抱きかかえて、目前に見えている海岸へ向かって泳いだ。

「ゴホッ……すまない、ここまで非力だとは思っていなかった」

 海岸につくとゼーハーと大きな息をして、ルーティスが砂浜に転がる。子ども姿になったあと邪魔だからと殆ど着ている服は脱ぎすて、下着とワンピースのようになったシャツ一枚という姿になっていた。

(とりあえず、無事についてよかった)

 コルトも体力を使い果たしたようにルーティスの隣にへたり込む。周りを見渡せば港と同じように砂浜になっていたが、近くに人の住んでいる気配はなかった。

(人の気配もしないけど、魔獣も多分いなさそう……だよな)

 コルトはそれとなく周りを警戒するが問題はなさそうだ。そもそも問題があるような場所ならばルーティスがこんなにも無防備になっていないだろう。

(あれ……でも、微妙に魔力を感じる?)

 きっと預かっているルーティスの魔剣か、ウエストポーチに入れてある魔道具のどちらかだろう。コルトはそう思いながら魔力の流れを追って視線を動かせば、大の字になって倒れているルーティスのシャツに隠れた太ももあたりに魔力が流れ込んでいるのが見えた。

「あの……ルーティス様?」
「……なんだ?」
「つかぬことをお聞きしますが、下着とかに魔道具をつけてたりしますか?」
「?????? なんだそれは?」
「いや、俺もわからないんですけど」

 コルトだって下着に着ける魔道具なんて聞いたことはない。だけど位置的にはそのあたりなのだ。

「あの、ルーティス様の太もも? 足の付け根あたりに微量ですけど魔力の流れを感じます。発生してるというより、周りから吸収しているような。痛みとか違和感はないですか?」
「足の付け根? いや、特に何も感じないが」

 ルーティスは眉を寄せいぶかし気な表情になると上半身を起こし、シャツをまくし上げた。あらわになった少年らしいすべらかな細い足の付け根にあったのは魔術印だ。左足の付け根の内側に刻まれた小さな魔法陣である。

「ああ、これか。これは生まれたときに子どもの健康と成功を祈って刻む、ランドリアでは一般的な魔術印だ」

 凝視してくるコルトに魔術印が見えるようにとルーティスが膝を立てて座る。ルーティスが動いたことで魔術印に集まる魔力の量が一層多くなった。

(確かにこれは御守りでも使う一般的な魔法陣だけど……こんな風に目に見えて魔力を吸収したりしない。この魔力を……何に使っている?)

 自然界にある魔力を集めるということは、魔術を使う準備をしているということだ。人の身体に魔力を集めて魔術として使えるのは子を成せる者だけのはずだ。ルーティスに魔力を集めていったいどうするというのだ。

(いや、違う。今、この瞬間、ルーティス様は魔術を使っている、ううん強制的に魔術が発動しているんだ……。まだこれは可能性であり、推測でしかないけど。だけど、多分そうだ)

 コルトはごくりと唾をのむ。

「ルーティス様……呪いの正体がわかったかもしれません」
「!!?? 本当か?」

 突然のコルトの告白に、ルーティスが目を見開く。驚くのも無理はない。あまりにも唐突な話だ。

「はい。その魔術印が竜の呪いです」

 コルトはゆっくりと、ルーティスの足にある魔術印を指さした。
 
しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

もう一度君に会えたなら、愛してると言わせてくれるだろうか

まんまる
BL
王太子であるテオバルトは、婚約者の公爵家三男のリアンを蔑ろにして、男爵令嬢のミランジュと常に行動を共にしている。 そんな時、ミランジュがリアンの差し金で酷い目にあったと泣きついて来た。 テオバルトはリアンの弁解も聞かず、一方的に責めてしまう。 そしてその日の夜、テオバルトの元に訃報が届く。 大人になりきれない王太子テオバルト×無口で一途な公爵家三男リアン ハッピーエンドかどうかは読んでからのお楽しみという事で。 テオバルドとリアンの息子の第一王子のお話を《もう一度君に会えたなら~2》として上げました。 ※画像は男の子メーカーpicrewさんよりお借りしました。

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

天啓によると殿下の婚約者ではなくなります

ふゆきまゆ
BL
この国に生きる者は必ず受けなければいけない「天啓の儀」。それはその者が未来で最も大きく人生が動く時を見せる。 フィルニース国の貴族令息、アレンシカ・リリーベルは天啓の儀で未来を見た。きっと殿下との結婚式が映されると信じて。しかし悲しくも映ったのは殿下から婚約破棄される未来だった。腕の中に別の人を抱きながら。自分には冷たい殿下がそんなに愛している人ならば、自分は穏便に身を引いて二人を祝福しましょう。そうして一年後、学園に入学後に出会った友人になった将来の殿下の想い人をそれとなく応援しようと思ったら…。 ●婚約破棄ものですが主人公に悪役令息、転生転移、回帰の要素はありません。 性表現は一切出てきません。

回帰したシリルの見る夢は

riiko
BL
公爵令息シリルは幼い頃より王太子の婚約者として、彼と番になる未来を夢見てきた。 しかし王太子は婚約者の自分には冷たい。どうやら彼には恋人がいるのだと知った日、物語は動き出した。 嫉妬に狂い断罪されたシリルは、何故だかきっかけの日に回帰した。そして回帰前には見えなかったことが少しずつ見えてきて、本当に望む夢が何かを徐々に思い出す。 執着をやめた途端、執着される側になったオメガが、次こそ間違えないようにと、可愛くも真面目に奮闘する物語! 執着アルファ×回帰オメガ 本編では明かされなかった、回帰前の出来事は外伝に掲載しております。 性描写が入るシーンは ※マークをタイトルにつけます。 物語お楽しみいただけたら幸いです。 *** 2022.12.26「第10回BL小説大賞」で奨励賞をいただきました! 応援してくれた皆様のお陰です。 ご投票いただけた方、お読みくださった方、本当にありがとうございました!! ☆☆☆ 2024.3.13 書籍発売&レンタル開始いたしました!!!! 応援してくださった読者さまのお陰でございます。本当にありがとうございます。書籍化にあたり連載時よりも読みやすく書き直しました。お楽しみいただけたら幸いです。

ぼくの婚約者を『運命の番』だと言うひとが現れたのですが、婚約者は変わらずぼくを溺愛しています。

夏笆(なつは)
BL
 公爵令息のウォルターは、第一王子アリスターの婚約者。  ふたりの婚約は、ウォルターが生まれた際、3歳だったアリスターが『うぉるがぼくのはんりょだ』と望んだことに起因している。  そうして生まれてすぐアリスターの婚約者となったウォルターも、やがて18歳。  初めての発情期を迎えようかという年齢になった。  これまで、大切にウォルターを慈しみ、その身体を拓いて来たアリスターは、やがて来るその日を心待ちにしている。  しかし、そんな幸せな日々に一石を投じるかのように、アリスターの運命の番を名乗る男爵令息が現れる。  男性しか存在しない、オメガバースの世界です。     改定前のものが、小説家になろうに掲載してあります。 ※蔑視する内容を含みます。

転生したようだけど?流れに身を任せていたら悪役令息?として断罪されていた――分からないまま生きる。

星乃シキ
BL
発作の後に目覚めたら、公爵家嫡男の身体だった。 前世の記憶だけを抱えたまま生きるレイは、ある夜、男の聖女への嫌がらせの罪で断罪される。 だが図書室の記録が冤罪を覆す。 そしてレイは知る。 聖女ディーンの本当の名はアキラ。 同じ日本から来た存在だった。 帰りたい聖女と、この身体で生きるレイ。 秘密を共有した二人は、友達になる。 人との関わりを避けてきたレイの人間関係が、少しずつ動き始める。

逃げた弟のかわりに溺愛アルファに差し出されました。抱かれたら身代わりがばれてしまうので初夜は断固拒否します!

雪代鞠絵/15分で萌えるBL小説
BL
隣国の国王キリアン(アルファ)に嫁がされたオメガの王子リュカ。 しかし実は、結婚から逃げ出した双子の弟セラの身代わりなのです… 本当の花嫁じゃないとばれたら大変! だから何としても初夜は回避しなければと思うのですが、 だんだんキリアンに惹かれてしまい、苦しくなる…という お話です。よろしくお願いします<(_ _)>

高貴なオメガは、ただ愛を囁かれたい【本編完結】

きど
BL
愛されていないのに形だけの番になるのは、ごめんだ。  オメガの王族でもアルファと番えば王位継承を認めているエステート王国。  そこの第一王子でオメガのヴィルムには長年思い続けている相手がいる。それは幼馴染で王位継承権を得るための番候補でもあるアルファのアーシュレイ・フィリアス。 アーシュレイは、自分を王太子にするために、番になろうとしてると勘違いしているヴィルムは、アーシュレイを拒絶し続ける。しかし、発情期の度にアーシュレイに抱かれる幻想をみてしまい思いに蓋をし続けることが難しくなっていた。  そんな時に大国のアルファの王族から番になる打診が来て、アーシュレイを諦めるためにそれを受けようとしたら、とうとうアーシュレイが痺れを切らして…。 二人の想いは無事通じ合うのか。 現在、スピンオフ作品の ヤンデレベータ×性悪アルファを連載中

処理中です...