婚約者に捨てられた訳ありΩは辺境でしたたかに生きることにしました

和泉臨音

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50.有言実行

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 二人は工房へ向かうことなく歩いてきたレンガ道を戻る。どちらからともなく手をつないだコルトとルーティスがやってきたのは本邸にあるルーティスの寝室だった。
 ここ数週間屋敷に滞在しているのでコルトもルーティスの寝室の場所自体は知っていたが、中に入るのは初めてだった。他の部屋同様、寝室も手入れの行き届いた歴史ある家具に囲まれた部屋である。その中でも天蓋付きのベッドのどっしりとした存在感は中々のものだった。きっと代々のランドリア辺境伯も大切に使ってきたのだろう。

(なんとなく、落ち着かないというか、不思議な感じがするな……)

 コルトはそわそわと周りを見回す。別に今さら寝室に連れ込まれて恥じらうような年でもないが、ここでルーティスがいつも寝ているのかと思うと、なんだか変な気分になるのだ。
 どうにも落ち着かず挙動不審になっていたコルトを、ルーティスが突然抱き上げる。

「のわっ?!」

 いわゆる横抱き、あるいは姫抱きとも呼ばれる状態である。
 突然の浮遊感に驚いたコルトは思わず変な声を出してルーティスの首に抱きついた。その様子にルーティスは声をあげて笑う。

「な、な、なんですか突然?」
「逃げられたら困ると思ってな」
「……逃げませんよ」

(別にそれでソワソワしていたわけじゃないし)

 コルトは心の中で反論するものの、まあ確かに変に思われても仕方なかったかもと反省する。
 安定感のあるルーティスの腕の中は怖くはなかったが、逃げるつもりはないのだと伝わるようにコルトは両腕に力を込めて密着した。ルーティスはしっかりと抱きついてくるコルトに微笑むと、揺らさないようにゆっくり歩を進める。
 コルトが抱きあげられて運ばれた先はベッドの上だった。座るように体を降ろされる。しかし、コルトはルーティスにぎゅっと抱きついたまま離れない。

「コルト?」
「……逃げられたら嫌なので」
「逃げないよ」

 ルーティスは再び楽しげに笑ってからそういうと、コルトの髪についばむように口付ける。くすぐったそうに顔を上げたコルトの唇にルーティスはそっと唇を重ねると、触れるだけですぐに離れようとしたので今度はコルトからしっかりと口付けた。ルーティスの唇を割り開きコルトが口内に舌を差し入れれば、待ち構えていたように舌を絡め取られる。

「……んっ」

(……なんだろ、すごく甘いし、気持ちいい)

 そんなはずはないのにルーティスの口の中は凄く甘くて、美味しく感じる。コルトが夢中で舌を動かし、唾液を交換するように口付けていれば、ルーティスの皮膚の硬い手が服の中に侵入して、直接肌に触れるのを感じた。
 唇が離れるとどちらからともなく見つめ合う。
 コルトは黒曜石のような瞳を潤ませながらルーティスの唾液を一滴も逃すまいと自分の唇を舐めた。
 その扇情的な姿にルーティスは唾を飲む。ギラギラと獲物を追う獣のような、普段よりも強い輝きを放つ新緑色の瞳にコルトは胸が締め付けられるのを感じた。狙われているという本能的な恐怖。ぞわりと背筋に何とも言えない感覚が走り抜ける。

(あっ……やばい、そろそろ……)

 キスだけで気持ちよくなってきたコルトは己の体の変化を感じ取る。発情期でもないのに、薬も飲まずこんなに早く発情状態になるのは初めてのことだった。
 フェロモンが溢れ出るのと同時に男のΩでなければ濡れない場所がジワリと熱くなる。男根にも熱が集まるのを感じたコルトはなんとなく居心地が悪くなり、足をすり合わせてしまう。

(もう少し……したかったのに……)

 あと数分もすればルーティスは眠ってしまうだろう。今までのαもそうだった。いや、今までのαとは正直、誓いのキス以上のことをしたことはない。
 初夜だって薬で発情したコルトのフェロモンのせいで服を脱ぐこともなく相手のαは眠ってしまったのだ。
 一度だけでもこんな濃厚なキスが出来たのは幸せなことだろう。
 コルトは少しでもルーティスの熱を感じたくて、その逞しい体を抱きしめ頬を寄せる。
 もし眠ってしまっても、このまま抱きしめていようとコルトが思ったその瞬間、コルトの体がベッドに押し倒された。

「へ?」

 倒れたにしてはあまりに力強い。コルトが驚いてルーティスを見上げれば、ギラリと光る新緑色の瞳が変わらずにそこにはあった。

(な、なんで……俺が押し倒されて?!?!)

 ルーティスはベッドにコルトを押し倒すと、自分は上半身を起こしたまま上着を素早く脱ぎ捨てる。半裸になりおおかぶさってきたルーティスをコルトは驚愕の表情で見つめた。

「……どうした?」
「あ、の、いや、なんで……眠らないんですか??」

 驚き顔のコルトの問いかけにルーティスは口角を上げるように笑みを作る。そのままコルトの首筋に口付けるとぺろりと舐めた。

「ひゃぁっ!」
「ああ、確かにコルトのフェロモンを感じるな。だが、脱力感は感じるが、この程度の眠気なら耐えられないほどじゃない」

 ルーティスは笑顔のままそう言うと、コルトの服を脱がしていく。
 余りの驚きにコルトはされるがままだ。気付けば下も脱がされており、いつの間にか一糸まとわぬ姿になっていた。

(~~!! 耐えられないほどじゃないって、ルーティス様の精神力ってどんだけ強いんだよ)

 思わずルーティスを凝視してしまっていたコルトの頬に、ルーティスはついばむようなキスを落とす。
 あまりの驚きで今何が起きているのか把握できていなかったコルトだが、ルーティスの暖かい唇を感じると、まるで悪い呪いから解けたように視界がひらけた。

「そんなに驚くことでもないだろうに。むしろ、落ち着くいい匂いだ」
「で、でも……」
「私には問題ないと言っただろ?」

 ルーティスはそういうとあらわになったコルトの肌をゆっくりと指でなぞる。
 
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