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52.朝光の中で
しおりを挟むコルトは窓から差し込む朝の光で目を覚ます。ぼんやりと瞼を開ければ、陽光をキラキラと反射させた銀髪の美丈夫が眠っていた。
(ルーティスさま……間近で見ると整った顔してるなぁ。まつ毛もキラキラしてるし、綺麗……)
髪と同じ色のまつ毛は朝日にキラキラと輝いているし、筋骨隆々たる肉体も光り輝いて見える。神々しいという表現が適切だろう。まさに軍神、いや太陽神のような圧倒的な存在感と逞しさだ。
(腕も立派だなぁ)
そんな雄々しい神のような男にコルトはしっかりと抱きしめられていた。結構ガッチリと抱きしめられているので身動きは取れないし重たいけど、これは幸せの重みだなぁなんてコルトは思わずニヤけてしまう。
(そういえばティスはよく見てるけど、ルーティス様の寝顔を見たの初めてかもしれない。ルーティス様の銀髪もやっぱり陽の光の方が綺麗に見え…………っ!!!!!!)
「ルーティス様!! 起きてください!!」
(そうだ! なんで気づかなかったんだよ!)
「……ん、なんだコルト。もう起きたのか?」
ゆっくりと開かれた新緑色の切れ長の瞳がコルトを見つめる。今まで以上にルーティスが眩しく見えて、思わずコルトは目を閉じてしまった。
(ぐぅ、俺の番がかっこよすぎる!!!! 寝起きなのになぜこんなにかっこいいのか!?)
「コルト?」
「はっ! すみません、あの! ルーティス様がルーティス様のままです!!」
「?」
コルトの言わんとすることがわからず不思議そうな顔をしたルーティスが余りにも可愛くて、コルトは再び心の中でのた打ち回りつつも、わかりやすくルーティスの腕を持ち上げた。
「ティスになってません! もう朝日が昇ってるのに、子ども化してないんです!」
「なっ!!」
コルトの説明に弾かれたようにルーティスが身を起こす。ちなみに抱きしめられているコルトも一緒に起き上がることになった。
「……本当だ。子どもになってないな」
ルーティスはコルトを自分の胸に寄りかからせたまま、両手を握っては開いてを繰り返し、体の状況を確認する。
「番になったことで解呪ができたんだと思います!」
「そうか……」
「はい!」
(途中からすっかり魔術のことなんて忘れてたけど、解呪が成功してよかった!)
はにかむように微笑みながらコルトはルーティスの厚い胸板に抱きつき頬ずりする。よかった、本当によかった。もちろん解呪できる自信があったから提案はしたが、確証はなかったのだ。
コルトは猫のようにグリグリとルーティスの男らしい体に頭をなすりつける。ちゃんと大人だ、ちゃんと立派な胸筋だ、間違いなく本来の年齢のルーティスだ。ふわりと香るαのフェロモンがなんとも心地よい。
子ども化しないことに感動しているのか、ルーティスは無言のまま動かない。コルトがルーティスの胸筋を堪能し終えてもまだ動かないので不思議に思い顔を上げれば、なぜかギラギラとした新緑色の瞳と目が合った。
その視線と表情は朝の日差しの中で見るには余りにも不釣り合いである。
ゾワリとコルトの背筋に悪寒が走る。
「ルーティス様、とりあえず皆に報告を……」
「まだ朝も早い、それは後でいいだろう」
「ひゃぁっ……んっ」
腰を抱き寄せられて、昨日噛まれたうなじを甘噛みされればコルトの体が跳ねた。
「せっかく呪いが解けたんだ、子どもではないということを実感させてくれ」
「ちょっ……ま、俺は、もう……ンンンッ」
コルトの抵抗虚しく、可愛い番に甘えられて火がついてしまったルーティスはコルトの言葉を奪うように口付ける。そのままコルトをベッドに押し倒すと、いまだ柔らかいコルトの蕾を指で刺激し始めた。朝の寝室には似合わないヌチヌチと響くいやらしい水音に、思わずコルトの顔が朱に染まる。
その後、二人は昼過ぎまで寝室で過ごし、コルトは回復薬のお世話にならないと起き上がれないほど体力を消耗する羽目になった。ルーティスと比べたらΩとか女性とか関係なく、ほとんどの人がか弱いのでは……? と、コルトは身をもって実感したのだった。
ぎりぎり日が沈む前にコルトも自力で歩けるようになり、皆を集めて報告することができた。ルーティスの呪いが解けたことに皆喜んだが、むしろそれよりも番が出来たことを大喜びしていた。ケヴィンなんかは「これでオレも遠慮せずに恋人が作れます。コルトさんはオレの恋の恩人です」などと言ってコルトに抱きついたため、ルーティスに肩を掴まれ引きづられて行ってしまった。
(本当によかった……)
陽の光の中でケヴィンたちと戯れるルーティスを見るのはすごく新鮮だ。なんとなく生き生きしているようにも見える。
「コルト様。坊ちゃまをお救いくださり本当にありがとうございました」
深々と頭を下げるジェイクにコルトは笑顔で「お力になれて良かったです」と何でもないことのように答える。そんなコルトにジェイクは再び頭を下げた。
「初めてお会いしたときは失礼な態度を取り、申し訳ございませんでした。……坊ちゃまを、ランドリア家を今後ともどうぞよろしくお願いいたします」
(そういえば、そんな事もあったな)
ジェイクに門前払いをされてから、色々なことがあった。だけど、そのおかげでこうやってルーティスと知り合うことが出来て、番にまでなれたのだ。あの時、辺境伯と突然やってきた押しかけ婚約者のΩとして出会ってしまっていたら、今の関係にはなれなかったかもしれない。
こうなるとこれまでコルトに降りかかった嫌なことも全部、ルーティスに会うための布石にすら思えてくる。都合のいい考えかもしれないが、そう本気で思えるくらい、今のコルトは幸せだった。
「はい、任せてください! これからもルーティス様のお力になれるように頑張ります!」
コルトは心の底から湧き上がる想いを言葉にして花咲くように微笑んだ。
その日から、ルーティスが子どもの姿になることはなかった。
コルトとルーティスは貴族の風習にのっとり婚約期間を半年設けたあと、正式に結婚することになった。
といっても、もともとコルトが辺境に来てから婚約状態のままだったので、想いを確かめ合ってから一月足らずで結婚することになる。それは余りにも早急では? と、コルトを含めて周りは戸惑ったものの「書類だけでも提出する」と頑としてルーティスは譲らなかった。その結果、国への申告だけを先に行いコルトの領民へのお披露目を含めた結婚式やパレード、各所要人との顔合わせともなる晩餐会は後日行うことで話がまとまった。
あの『南の英雄』がついに身を固めるとあって貴族たちも辺境伯領の領民たちも大騒ぎとなった。次第に国をあげての祭りのような雰囲気になっていくのだが、この時のコルトはそんなことを知る由もないのである。
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