婚約者に捨てられた訳ありΩは辺境でしたたかに生きることにしました

和泉臨音

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番外編

何事にも全力投球しすぎです

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 コルトがいつものようにルーティスの寝室に入れば、ソファー脇のローテーブルに見慣れない本を見つけた。
 そもそもルーティスの寝室は寝ることに特化しており、仕事は持ち込まないようにしているとのことで本なども置かれていない。コルトは文字を追うほうがリラックスできるが、どうやら歴代のランドリア辺境伯はそうではなかったらしく寝室で本を読むという趣味はなかったようだ。ルーティスも例に違わず細かい作業は好むものの、文字を読むのは仕事以外では遠慮したいとのこと。
 そんなルーティスの寝室に持ち込まれた本である。俄然がぜんコルトの興味を引いた。

(「指南書」……かな? サリ島あたりの島国文字だと思うけど、専門的すぎてわからないな)

 表紙に書かれた異国文字のタイトルを確認しながらコルトは思案する。ルーティスが読むというなら戦術に関するものかもしれない。
 コルトは本を手に取るとパラパラと中身を確認した。それぞれのページに二人で取っ組み合いをしているような簡素な絵が描かれている。その横には状況の説明だろう島国文字が書かれていた。そしてなぜか説明文の下には「良い」「相手を追い詰められる」「非常に良い」「下半身にダメージが入る」などと明らかに違う筆跡で書き足された文字もあった。それぞれの組み手に関する感想なのだろう。書き足されている文字はコルトが普段使うこの国の言語で書かれている。
 コルトは素直に戦闘時の取っ組み合いの指南書なのだろうと思った。サリ島含む島々は国土が狭いこともあり、軍隊での大規模戦闘よりも個人での決闘に重きをおく。ならばこういった指南書もあるのだろうと見たことのない内容の本に興味を惹かれて、さらに詳しく中身を見ることにした。

(ん、あれ? これってもしかして……?)

 島国言語の説明は読めないまでも、簡素な人の絵を見れば取っ組み合いは取っ組み合いでも、どうも戦闘ではなく伽のいわゆる体位の説明が書かれていることに気づいた。島国の中では紐のような衣装が正装の国もある。コルトは深く考えずに、裸の男同士が組んず解れつしているのはそういった国の戦術書なのかと思ったが、たぶん、いや絶対に違う。

(ええ、どういうこと? なんでルーティス様の部屋にこんなマニアックな本が? それにしてもこの体位で繋がるのは無理じゃない?? でも評価は「良い」になってるな。え、良いの?)

「……ルト」

(うわぁ、これは実際やったらかなり奥まで入るんじゃないかな。こわ……あ、違うのか、ルーティス様のが長くて大きいから奥にめり込んで酷いことになりそうなだけか。俺のサイズだったらこのくらいなら)

「……、コルト」
「ひゃいっ!!」

 真横で聞こえた低く甘い声に、コルトは驚き思わずソファーから飛び上がってしまった。

「まったく、熱中すると本当に周りが見えなくなるな」

 気付けばルーティスが隣に座り、呆れたように背もたれに肘をつきながらコルトを眺めている。

「す、すみません。いらっしゃったのに気付かず失礼しました」

 風呂上がりなのだろう。血色の良い肌にバスローブをまとったルーティスの色香にコルトは自然と照れてしまう。結婚もしたしもう何度も見ている姿なのだが、見る度「俺の旦那さまカッコいい!!」と惚れ惚れしているのだ。
 ルーティスのコルトへの愛も重たいが、それに負けないくらいコルトもルーティスにメロメロなのである。

 コルトの熱い視線にルーティスは口角をあげて笑みを作ると、視線をコルトが手に持つ本に移した。

「それは構わないが。コルトはサリ語も読めるのか?」
「いえ、簡単な単語くらいは理解できますが……この本は特に専門用語が多いみたいで、俺は断片的にしか読めないです」

 コルトは本をパラパラめくりながら答えた。

(そういえば、この本の書き込みってルーティス様がしたのかな? ……童貞だって言ってたけど、この指南書を手に入れたときに体験したとか? ま、まさかそんな)

「そのメモ書きは、私ではないからな」
「!?!?!?」

(また心を読まれた!?)

 コルトが驚き顔でルーティスを見れば、再び呆れ顔のルーティスと目が合う。

「サリ島を治めるシャリシャラ族の族長が結婚祝いにと贈ってくれたものだ。冷やかしで送ってきたのなら突っ返したんだが、あの方の性格を考えると本気でよかれと思って届けてくれたんだろう」
「なるほど、ということはこの書き込みは族長によるものと……」
「ああ、所感だそうだ」
「これ、全部試したってことですかね」

 書かれているイラストを見るにどうも男同士の性交渉の指南書のようだ。男のΩは少ないし、そうなると本当にただの快楽を追求した指南書なのだろう。奥深い異国の文化である。

「そうかもしれないし、誰かに聞いた感想かもしれない」
「たしかに。……それにしてもなんで四十八なんて中途半端な数なんでしょうね? 五十とか百のほうが区切りがいいのに」
「ひゃく……? それはさすがに思いつかなかったんじゃないか?」
「ああ、なるほど。思いついたのがこの数だったってことですね」

(結構無茶な体位もあるもんな……でもルーティス様がしてくれるヤツは載ってない気がする)

 体型が同じくらいの同性用だからか、完全に抱き上げて挿入するような怪力前提の体位は記載されていない。
 コルトが真剣な顔で本を読んでいれば、ルーティスはコルトの耳元に口を寄せて「それが気になるのか?」と囁いた。
 その声があまりにも官能的で、コルトの全身が粟立つ。
 コルトが開いたページに書かれていたのは、四つん這いになった後ろから上に覆い被さるようにして挿入しているもので、まるで四本足の獣が交尾をしているような野生的な図だった。
 コルトは思わずルーティスとの激しい交尾を想像してしまい、腹の奥がうずいてしまう。

「……どうせなら始めのページから全部試してみるか?」

 先ほどまでは「これはさすがに無理だろ」と思う体位もあったのに、さり気なく腰を抱かれて引き寄せられて、大好きなルーティスのフェロモンを感じてしまえばコルトの思考は一気に奪われる。

「はい……」

 コルトは甘えるようにルーティスに寄りかかれば、そっと触れるだけの口付けをする。ルーティスの劣情に火を付けるにはそれだけで充分だった。

 まさかこんな上手くいくとは、さすがのルーティスも思いもよらなかった。「本」なのでコルトはきっと興味を惹かれるだろうとそれとなく寝室に置いておいたものの、すべて実践することが出来るとは。

 ルーティスはコルトの心地よいフェロモンが増すのを感じながら心の中でほくそ笑みつつ、快楽の入り口となる一ページ目を開くのだった。

 後に作者不明のエロの指南書「ランドリアの愛の結晶、六十九種」なるものがまことしやかに広まることになる。
 ちなみに四十八という数字はサリ島では縁起のいい数字とされておりそれにちなんだものだった。

(69なんてさらにキリの悪い数字になっちゃったけど、でもまあ出来は悪くない……と思う)

 コルトはサリ語を翻訳しイラストもさらに詳細にして、体感として良かった体位を追加した指南書を作成した。どちらかというとただの覚書のようなもので、世に出すつもりはなかったのだが、いつの間にか外部に持ち出されてしまったのである。
 研究熱心すぎるコルトと、そんなコルトの力になりたいルーティスの、全力の愛の結晶はいくつも後世に受け継がれることになる。
 しかし、その一つがこのエロの指南書「ランドリアの愛の結晶、六十九種」だということを知る者はいなかった。

 ◆ おわり ◆
 
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