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「セシリア、ああ言ってるぞ」
「やっ。私、嫌いっ」

 そう言ってセシリアが、ビシーッっと青鎧野郎を指差す。

「そんな馬鹿なっ。お嬢さん、よく見てくれ。容姿も身なりも、私の方が──」
「やっ。やっやっやっ!」

 全力で拒否つセシリアを見て、青鎧野郎は顔を歪め、周りの冒険者が笑いだす。

「おほんっ。スティアンさん。過度な勧誘はご遠慮ください」
「しょ、将来有望な人材が我々の方なAランククランに入ることは、ギルドにとっても有益だと思うのだがね」
「有益不利益関係ありませんから。ギルドに所属冒険者、クランのルールには、例えSランククランであっても従って頂きます」
「……そう目くじらを立てないで欲しい。ちょっとした冗談だ。そうとも。これは何かの冗談さ」

 そう言うと青鎧の男はギルドから出て行った。
 男の姿が完全に見えなくなってから、数人の冒険者が「あいつはしつこいから気を付けろよ」と教えてくれる。

「リヴァさん、セシリアさん。嫌な思いをさせて申し訳ありません。地上のギルドでは、クランへの勧誘も盛んでして。特に先ほどの方が所属する『紅の旅団』は焦っておりまして」
「焦っている?」
「最近、この迷宮都市にBランクに昇格したクランが出まして。紅の旅団はこの町唯一Aランクで、下にはCランクしかいなかった。追い上げてくるクランの存在が煩わしいようでして」

 それで今、必死になってSランクに昇格しようとメンバーの強化をしていると。

「あぁ……トップの座に君臨してなきゃ嫌だって奴らなのか。感じ悪ぃーな」

 もしクランに所属してみようとなっても、あの紅の旅団ってところにだけは絶対入るまい。

「それで、ご依頼を受けていただけますか?」
「あ、えぇ。でも俺たち、三日以内に──」
「大丈夫です。依頼内容はこの手紙を、地下の冒険者ギルドにいるギルドマスター、アルフレッド・フロイライト様にお渡しください」
「ア、アルフレ、え?」
「アルフレッド・フロイライト、です。あの強面でこの名前だと似合いませんよねぇ」

 いや、それギルドの職員は言っちゃっていいものなの?
 で、周りの冒険者もゲラゲラ笑ってるし。

 ま、どうせ下に戻るんだ。お使いぐらいいいか。

 せっかく地上に来たけど、また戻らなきゃいけない。
 
 頑張る。
 頑張って地上の居住権を手に入れる。
 そして時間なんか気にせず、この空の下に──

「あ、依頼は三日以内にお願いします。み・っ・か・い・な・い・です。三日以内ですたら、いつでもいいので」
「え、あの……」
「いいですか? みっか、以内ですよ」

 三日を随分と強調して──は!?
 つまりそれって……。

「リヴァ、いこーっ」
「え、セシリア?」
「みっか。みっかあうよ」

 三日。そうだ。階段の通行用カードも三日ある。
 は、はは。そうか。
 依頼があれば地下住民出の冒険者でも地上に出れるって言っていた。
 その為のお使いクエストなんだ、これは。

「よぉし、それじゃあシア。今後のために買い出しから始めようぜ。いろいろ買い込まなきゃな」
「はいっ」
「あ、それじゃあここの裏手の通りを進んで、一つ目の大きな角を左に行った先にある桃色の大きな二階建てのお店がお勧めですよ。お店のオーナーも面倒見が良くて、いろいろ見立ててくれますから」
「ありがとうございます。さっそく行ってみます」

 セシリアの手を引いてギルドを後にする。
 
 扉を出ると真っ先に晴れ渡った青空が見えた。
 
 この空をいつでも好きなだけ見れるように──

「セシリア、行こう!」
「うん」

 彼女の手を引いて駆け出した。





「あ、そういや……」

 セシリアの服、買ってやるって言ったの忘れてたな。
 
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