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6話 カイル王子殿下 ②

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 私は手に力を込めて、スキルで薬草を作り出した。作り出したというより、無から出現したって感じだけれど。その光景を見たカイル王子殿下は目を丸くしている。彼の後ろで待機している護衛の人々も同じような態度になっていた。


「なんということだ……まさに、超常現象……! スキルとはこのようなことまで可能なのか……?」

「いえ、これは私の特殊能力です。確かにスキルは人それぞれに備わった特殊能力のことを指しますが」


 スキルで空を飛んだりする冒険者も居るらしいし、本当に様々な特殊能力があるんだと思う。私はそれが薬草などの作製だっただけ。大釡などでの調合いらず……素材も特に必要なし、とこの道にかけてはチート能力かもしれない。


「素晴らしい能力だな……。いままでは何をしていたのだ? 其方ほどの者が、薬屋に居たという情報はないと思うが……」

「今までは冒険者パーティで活動していました。でも、色々あって……」


 私は話していた言葉を途中で止めた。嫌なことを思い出したからだ。隣に立っているアミルも、私の気持ちを分かってくれているのか、無言になっている。


 パーティ追放……それも身勝手すぎる理由で。ハンニバルたちの憎たらしい顔が思い出されるわ……ああ、一刻も早く消し去ってしましたいのに……!

 私はそんなことを考えていたけど、カイル王子殿下もその辺りは理解してくれたのかもしれない。それ以上、聞くこともなかった。


「なるほど、冒険者間の問題も色々とあるだろうからな。それで、現在は薬屋を営むことになったのか」

「は、こちらのアミルから、この空き家を提供してもらって……まだまだ、試運転の状況ですけど。従業員は私しか居ませんし」


「なるほど……なかなか、大変というわけか。いくら無から生み出せるとは言っても、無尽蔵に作成できるわけではないんだろう?」

「そうですね、1日辺りの限りはもちろんあります」


 さすがに何のデメリットもなく生み出せるってわけではない。売り切れにならないように、ストックをいくらか置いておかないといけないしね。いろいろとやるべき課題は多いわ。


「なにはともあれ、こうして出会えたのは何かの運命かもしれない。また来させてもらうとするよ」

「はい、王子様。いつでもお待ちしております」

「お待ちしておりますわ」


 私とアミルの二人は同時にカイル様に頭を下げた。まさかの王子様とのパイプラインの確保……これって何気に凄いことよね?


 と、そんな時、さらにお客さんと思われる声が聞こえてきた。


「ねえねえ、ハンニバル。ここよ確か……この店だったはずよ」

「本当かよ? あのエメラダがこんな場所に居るのか……?」

「間違いないって」


 なんだか聞き覚えのある声……私はとても嫌な予感がしていた……。


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