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1話 ナタリーの婚約破棄

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「こ、婚約破棄ですか……!? そんな……!」

「まあ、済まないな。ナタリー、こういうこともあるのだと分かって欲しいよ」

「し、しかし……」


 私はいきなり婚約者であるジオット・オルガス侯爵令息から婚約破棄の話をされてしまった。一体、何事なのかと聞いていると……。

「他に好きな女性が出来たのでな。悪いがナタリー、お前とは婚約破棄だ」

「それってつまり……浮気ですか?」

「まあ、対外的にはそういう話になるか。まあ、理由なんてどうでも良いじゃないか。どのみち、別れることに変りはないのだし」

 ジオット様はもう完全に婚約破棄をするものとして話を進めているようだ。彼と婚約をして1年近くになるけれど、こんな日が訪れるなんて……。

「婚約破棄は決定なのですか? ジオット様」

「何度も辛いことを言わせるなよ、ナタリー。決定事項だと言っているだろう? こうして謝罪もしているじゃないか」

「……」

 まったく謝罪にはなっていない……それに罪悪感もまったく感じているようには見えなかった。でも、これ以上何を言っても無駄そうだ。彼の決心はそれほど強いと分かってしまったから。


「分かりました、ジオット様……非常に残念ですが、仕方ありませんね」

「ふふふ、まあそういうことだから。諦めてくれ。私としても非常に残念だよ」

「……」

 何が非常に残念なのだろうか? 慰謝料の話も本格的な謝罪も一切していないのに……こんなにニヤニヤした婚約破棄宣言など例がないのではないかしら? しかも、ジオット様の浮気で……。


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 私はマルコシアス家の屋敷に戻ってからも、不快な思いは消えなかった。お父様達は私を責めることはなかったけれど、それでも申し訳ないという気持ちが生まれてしまうし……。

「ふう、これからどうすれば良いのかしらね……はあ」


 大きなため息は屋敷に戻ってからも吐いてしまう。婚約破棄……この噂は舞踏会などでも流れることになるだろうし。対外的には私はジオット様から捨てられたと思われるでしょうしね。憂鬱だわ……。


「ナタリー、少し良いかしら?」

「お母様ですか? はい、大丈夫です」


 ノックと共に私の部屋に入って来たのは、お母様だった。


「何かご用ですか?」

「ええ、あなたに聞いておきたいんだけれど……ほら、エリクサーの件があるじゃない?」

「エリクサーですか? は、はい……そうですね」


 私は貴族令嬢以外にもアイテム士という側面も持っている。様々なアイテムを作れるけれど、その中でもエリクサーは私しか作れないのだとか。そういう意味ではザザン王国内で重宝されているような気がするわ。

「ええと、こういうのは物凄く言いづらいんだけど、エリクサーの供給先としてオルガス侯爵家も含まれているのよ。おそらくジオット様はあなたがエリクサーを作っていたとは知らないと思うけど。どうする?」

「え、ええ……どうするって……」


 そういえばジオット様のところにもエリクサーは向かっていたのよね。今までは問題なく売っていたけれど……流石に今はそんな気にはなれなかった。
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