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1話
しおりを挟む「ノール、今日こそは話を聞いて欲しいの」
「どうしたんだい、リリア?」
私は婚約者のノールと話をしている。本題は私達の今後についてだ。彼とは幼少期からの付き合いであり、お互い伯爵家の生まれだったこともあり、すぐに打ち解けることができた。私の初めての友達でもある。それから彼とは頻繁に遊んだし、同じ学園へ通い、15歳の卒業まで仲良く進めることができた。周りからは恋人同士だと馬鹿にされたこともあるくらいだ。
でも、卒業して2年、17歳になったタイミングで彼とは正式に婚約手続きをした。お互い既知の間柄だったし、幼馴染であり優しい彼となら、絶対に上手く行くと思えたから。でも……現実は厳しかった。
いえ、現実というよりはノールの変化に戸惑ったと言った方がいいのかもしれない。彼は……とても私を束縛する人間だったのだ。
「私に対する束縛をなんとかして欲しいの」
「待ってくれ、リリア。束縛って……僕はそんなつもりはないよ」
「あなたにそんなつもりがないのは分かっているわ。私のことも考えてくれているのだと思う。でも、その想いが強すぎるのよ」
「リリア……」
ノールに束縛をしているという自覚はない。決して私に対していじわるをしているわけではないのだ。だからこそ、余計に性質が悪かった。彼の無自覚な束縛振りは目に余るものがある。
最初に違和感を持ったのは、とあるパーティーで私が貴族令息の男性と話していた時。ノールはその様子を見て明らかに不機嫌になっていた。私が他の男性と話していたので嫉妬したのである。その後、かなり問い詰められてしまったのだ。私は単純に夫になるノールのことを話していただけだけど、なかなか信じてもらえなかった。その後も彼は私が他の男性と話すのを極端に嫌った。
時にはお父様や兄さまと話すのすら嫌っているほどだ。そして、私が自分の屋敷に戻る時も寄り道はしないようにと念を押される始末だった。さらに、兄さまと話すのも避けるようにと。兄妹間の関係にさえ嫉妬してくる始末……私は少し恐怖を覚えた。
「あなたの嫉妬からくる束縛は、とても恐怖なの。他人だけでなく、兄妹間での仲や使用人間での仲でも嫉妬するでしょう? この前も執事を一人クビにしたじゃない」
「あれは……あの男がリリアに対して恋愛感情を抱いていたからであって。僕は君のためにしたんだよ?」
「そうだとしても、執事をクビにすることはないと思うわ。そんなことをしたら、あの人の今後に影響してくるじゃない」
「リリアは執事の味方をするのかい?」
「そんなつもりはないけれど……」
それに、こういう話になると彼は逆上してくることがある。直接手を出してくることはないけれど、それも怖かった。
「どのみち、このままだと今後の生活に支障が出て来るわ。私も将来が不安でしかないの。あなたとこのまま一緒にいることが不安で」
「どうして僕が責められないといけないんだ? 僕は君への愛情が強いんだよ。だから心配なんだ。それなのに、リリアは分かってくれていない!」
「そ、そんなつもりじゃないわ……ノール。落ち着いて」
「いいや、怪しい。誰か他の人間と付き合っているんじゃないのか?」
「まさかそんなこと……」
「白状するんだ! リリア! 一体、誰と付き合っているんだ? この前の貴族令息か!」
ノールは逆上して、そのまま椅子を蹴り始めた。これがノールの裏の顔だ……本当に怖い。私はどうしたら良いのだろうか。この時はなんとか謝罪をして事なきを得たけれど、このままでは身体が持ちそうにない。
婚約破棄をしたい……私の脳裏にはそんな言葉が浮かんでいた。
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