恋も魔力も期限切れですよ。

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「おいっ!聞いてるのか、モートルっ!」
「……………、あ、はい」

聞いてますよもちろん。しっかり。くっきり。

「えっと……あれですよね、名字変更の手続きとかちゃんとしとけよって話ですよね」
「違ぇよ、勝手に村を抜け出した話だ」
「あ、そっちか」

気の抜けた返事をしてたけど、よく見れば村を出る前に指揮を取っていた第二騎士団の人だった。

(えっと……そうだ、確かあのあと捜索隊と合流して、村に帰ってきて、リンクルとジャンを医務室に連れていって……)

未だに続く説教を聞き流していると、向こうで他の団員と話をするストラーダ団長を見つけてしまう。

「っ……!」
「おいどうした?熱でも出たか?」
「い、いえ何でもないです」

顔が熱い。心臓がうるさい。
あれが噂に聞く、プロポーズってやつなのだろうか。自分には一生縁がないものだと諦めてたけど……まさかのタイミングで、まさかの相手にされてしまった。

(と、とりあえず結婚の話は置いといて。どんな形であれストラーダ団長が味方になってくれれば心強い)

今だって、団長は私が話したリンクルたちの騒動について聞き取り調査を行ってくれている。相手が相手なだけに揉み消されてもおかしくないが、団長はそんなことせずすぐに動いてくれたのだ。

「そもそも一般兵団はなぁ……」
「デリック、少しいいか?」
「だ、団長っ?!」

まだまだ怒り足りなそうだった男が、ストラーダ団長の登場によりビシッと敬礼し口を固く結ぶ。

「これから第一騎士団の件を取り調べるんだが、その席に彼女を同席させたい。説教はもうそのくらいにしておけ」
「で、ですか……」
「違反だが、彼女が森に入ってくれなければ俺は今頃ドラゴンの腹の中だ。俺に免じて許してやってくれ」
「…………団長がそう仰るならば」

そう言って彼は何も言わずスッと身を引いた。

(すごい……一瞬で黙らせちゃった)

というより信頼されているんだろう。親しみやすく周りに好かれるガルファとは違うタイプの上司だ。

「それじゃあ行こう」
「え……あ、はい」

森でよ会話に触れることなく先を行ってしまう。……気にしているのは私だけ?
そして私は追いかけるように医務室まで駆けていった。





「そんなのでたらめに決まってんだろぉがっ!!」

ガシャンと物が倒れた音がして、入った瞬間ビクッと肩が跳ねてしまった。

「お、落ち着けって……」
「うるせぇなっ!そのガキたちが嘘言ってんだよっ!自分たちが勝手にいなくなったくせに、罪を被りたくないからって騙そうとしてんだっ!!」

(村にきた時、揉めていた第一騎士団の人だ)

彼は私が初めて見たときよりも目が血走り、今にも噛みついてきそうなほど怒り狂っている。そんな彼を他の第一騎士団の人たちが羽交い締めにしていた。
彼らの前には縮こまるリンクルとジャン、2人を守るようにして対峙する第二騎士団がいる。

「ち、ちがうよぉっ!おじさんが嘘ついてんだもん!ば、バリアが急にちっさくなって!そんでおれたち、追い出されたんだっ!」
「小さくなっただとぉー?あり得ない、我々はみんなトーマ様より守護力の魔法石を与えられてるんだぞ?」
「そ、そうだっ!守護力の魔法石がある限り、防壁が消えることなどない!なぁ?」
「あ、ああ……あ、当たり前だろっ?!」

魔法石の単語に、さっきまで息巻いていた男の様子がおかしくなる。
その原因に気付いているのはこの中で私だけで、同僚たちは加勢のつもりでどんどんと喋り出した。

「……どうするんですか、ストラーダ団長」

今、この場で最も力があるのはストラーダ団長だ。第二騎士団はもちろん、あの生意気な第一騎士団の連中も団長の言葉を待っていた。

「埒が明かないな」
「なっ!なんだと……」
「デリック、この男が防御担当していた村人の人数はどれくらいだ」

動揺することなく、ストラーダ団長はそばに立っていたあの男に尋ねる。

「記録によると、30人ほどです」
「ならばどれだけまとまって移動していても相手がドラゴンであれば……横10メートル、高さ3メートルの防壁が必要だな」
「ま、まぁ……?」
「ならばこの場でやってみろ」

騒いでいた第一騎士団の男に詰め寄り、ストラーダ団長は告げる。
それはつまり、この場で言われた規模の防壁を構築してみせろという課題。しかもその出した条件が絶妙すぎる。

(護衛対象の人数からこの男が成せる防壁の最大サイズまで割り出すなんて……)

本当にこの人、何者なの?

「っ……な、何故俺がそんなことを!」
「お、おい……もうさっさと出しちまえよ」
「そうだよ!魔法石があればそのくらいすぐに出せるだろっ?!」

同僚に言われるたびに男の顔がどんどん青ざめていく。

(こんな状況じゃますます言えないよね……)

魔法石がなくなった、だなんて。

「出来ないのか。ならば子供たちの証言を認め、国民を危険にさらした罪を償わせるだけだ」
「っふざけんなよ!お、俺は男爵家の生まれだぞ?!貴族よりもそんなガキの言うこと信じるのかっ?!」

喚き散らす男にはもう余裕などない。返す言葉も、魔法石もない彼の悪あがきは……何とも醜かった、

異変を察知した同僚がひきつった笑顔で彼に近づく。

「おい、お前どうしたんだよ……さっさと防壁出しときゃトーマ様が上手く庇ってくれるよ」
「うるせぇ!おい触んなっ!!!」
「証拠なんてそもそもない話なんだからぱぱっと終わらせてよぉ……!!」

同僚が彼のシャツのボタンを外した時、本来煌めいているはずのネックレスには……魔法石がついていなかった。

「お、おい……ま、魔法石は」
「………」
「おいっ!!どこやったんだよ?!それ、お前……まさか失くしたんじゃ!!」
「……盗まれたんだ」

さっきまで他人事だった同僚たちもこればかりは冷静でいられず、盗まれたとしか言わない男の胸ぐらを掴み激しく揺さぶった。

「ふざけんなよテメェっ!おま、それがどういう事を意味するか分かってんのか?!」
「俺ら全員死刑だぞ?」

守護力の魔法石は国を守るための大切な力、その国益を害したとなれば当然命の保証はない。
……まぁ、裁判にかけられ最終決定するのが誰なのかにもよる。

(臆病者の国王であれば死刑、寛大な王太子殿下であれば終身刑ってところかな……)

盗まれたといっても、もうあの魔法石は一生出てこない。必死に訴えても物がないままであれば彼の証言は認められないだろう。

嘘をつきリンクルたちを陥れた彼には、ふさわしい最後なのかもしれない。

結局、この討伐作戦は全く違う形で幕を引いた。
ドラゴン討伐や行方不明者の救出が霞んでしまうほどの大問題を残し、私たちは一度王都へと帰されたんだけど……


「……な、なんでここに」

数日後。
いつもは騒がしい一般兵団の食堂内が一瞬で静まり返った。全員が箸を止めこっちに注目していた。

「一緒に食事をしてもいいか?」

フィブライト王国最強の魔法騎士が、大量のパンを持って私に話しかけてきたのだ。
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