スパダリかそれとも悪魔か

まめ太郎

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「姉きの野郎嘘つきやがったな。」
「ん。何か言ったか。」
 楢崎がこちらを振り返る。
「いえなんでもありません。」
 俺はにっこり笑顔を作って答えた。

    山奥の学校はそれはそれは城のように立派だったが、どこを見回しても車に乗ったOLさんはいなかった。そもそもここに来るまでに車とすれ違った記憶がない。俺は山奥のお城に閉じ込められたのだ。

「はい。ここがお前の教室。1-A。」
 楢崎の声で俺の思考はぶった切られた。
「9月の今は夏服でも冬服でもどちらを着てもいいが、来月からは冬服着用な。」
 俺の夏服のネクタイを楢崎は無遠慮に引っ張る。

 俺は犬じゃねえぞ。

 視線の先ではにやつく楢崎。前髪のせいで口元しか見えないが、笑みが浮かんでいた。
「じゃ、いくぞ。」
 戸に手をかけた楢崎はおもい切りそれを横にひく。扉は音もなくスライドした。
「おし、みんな席につけ。転校生紹介するぞ。入れ、神崎。」

 俺が教室に入ってあたりを見渡すと急に歓声がわいた。
「おお、久しぶりの大当たりじゃん。」
「誰だよ、ブサイクって言ったやつ。」
「いや、まじ俺の好み。仲良くしてねー。」

 四方八方から言葉を投げつけられ俺は固まってしまった。

 えっ、好みって俺男なんですけど。

「ほら、ふざけるのもいい加減にしろ。」
 楢崎がパンパンと手を打ち黒板に俺の名前を書いた。

「神崎優だ。今日からお前たちと同じクラスの仲間になる。西とは同じ部屋になるからな。ちゃんと面倒見てやれよ。」
 西と言われた生徒は、はーいとふざけて手を挙げている。顔はふつうだが、髪をオレンジに染めて、性格も明るそうな雰囲気だ。

 これならうまくやっていけるかも。

「じゃ神崎一言あいさつ。」
「神崎優です。寮生活とか初めてで、わからないこと多いと思うけど、よろしくお願いします。」
 おれはぺこりと頭を下げる。
「おい、趣味くらいいえよ。」
 楢崎があまりに簡単な俺のあいさつに突っ込みをいれる。
「趣味。んー。あっ、料理は得意です。」
   両親が共働きだったので小さい頃から家事全般はこなしている。

「料理得意だって。俺のとこ、嫁にきてー。」
「俺の胃袋早くつかんで。」
 また野太い声があがり、俺は二度目の硬直となった。
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