スパダリかそれとも悪魔か

まめ太郎

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 それから数日たった授業中、怜雄から最近多い「今日は夕飯はいらない」というメッセージが届き、いつもなら俺は寂しくスマホを放り投げるところだが、今日は「了解っ」と可愛い有料スタンプを返信してやった。

 今日これからの予定が楽しみで、俺は授業を受けていても気がそぞろだった。

 俺は授業が終わると、電車に乗り、都心の駅で降りた。有名ブランドが路面店として連なる通りに向かう。
 足を踏み入れたことのない、黒いピカピカに磨かれた高級ブランドショップの前で立ち止まる。

 格式が高すぎて、何でこんなところにジーンズとТシャツで来てしまったのかと自分を呪ったが、もう出直す時間もない。
 俺は大きく息を吐くと、黄金色に輝くノブに手をかけた。

「いらっしゃいませ。何かお探しですか?」
 指輪のショーケースの前で、俺が目を凝らしていると店員の女性が声をかけてくれた。
 俺は慌てて、自分の薬指にはめられている指輪を引き抜き「これと同じものが欲しいんですが。」と言った。
 店員さんは「失礼します。」と白い手袋をした手で指輪を持ち、眺めると、ショーケースから一つの指輪を取り出した。

「こちらですね。どうぞお手に取って見てください。」

 俺はその指輪を台座ごと持ち上げた。
 俺の指輪の方は毎日の家事のせいで若干輝きを失っているが、確かに同じものだった。

「そちら定番の形でお値段もお手頃ですので、若い方にも人気なんですよ。」
 にっこり笑って店員さんが言う。
 この値段がお手ごろなのかと驚いたが、俺は何度か深く頷くと、「これください。」と言った。

 この日のために、バイト代を貯めてきたのだ。
 俺は緊張しながらいつもより分厚い財布が入ったバックを撫でた。
「かしこまりました。刻印も内側にいれられますが、いかがなさいますか?」
「あっ、YtоRっていれてもらっていいですか?」
 俺の方の指輪にはRtоYと刻印されていた。

「かしこまりました。こちらでよろしいですか?」
 店員さんが紙にさらさらと文字を書き俺は確認して、頷いた。

 できあがるまで、一週間ということだったのでぎりぎり怜雄の誕生日に間に合いそうだ。
 俺は引き換えの紙を受け取ると「よろしくお願いします」と何度も頭を下げ、店を後にした。

 駅までの道のりも足取りが軽い。思わずスキップしそうになり、そんな自分を心の中で戒める。

 ここのところ怜雄とすれ違い気味だったが、誕生日に指輪を渡して、怜雄の気持ちをもう一度確かめてみよう。
 今までずっと不安に思っていたことも全部怜雄にぶちまけて、そうしたらきっと怜雄は「馬鹿だな」って笑って、俺の不安なんて吹き飛ばしてくれるはずだから。

 俺はショーウインドーに映る自分の口元に、にたりと笑みが浮かんでいるのに気付いて慌てて顔を引き締めた。
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