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終章 永遠の愛を君に捧げん
5 茨の道
しおりを挟む「ここが……」
「そう、この扉の向こうに我らのお姫様がいる」
ここは施設内の建物の最上階。
療養棟と言うには些か豪奢で重厚な造りの扉に、王女専属の護衛騎士なのだろう二人の騎士達が、部屋の中にいるベルを護る様に警護していた。
「ここはね、公爵家以上の身分の貴人達が終の棲家とする為の部屋。一般棟のものとは違い貴人達のの最期らしく、貴族として終えたいだろうと思って造らせたものだよ。まあ中でもここが一番特別な部屋だ。まだまだ研究段階だけれど、魔力量がダントツに保有するのは王族だからね。魔力暴走症の罹患率も必然的に高いかも――――と思って用意したのだけれど、まさか……僕の大切なお姫様が罹るなんて、神様も随分意地悪だよね」
両肩を竦め、ややおどけた調子で話すファルークの表情は苦悶に満ちていた。
「さあシリル、この扉を開けて自身の目で確かめてごらん。現実に目を背けずに向かい合うといい」
「はい」
シリルはゆっくりとその重厚な扉を両手で開くと――――。
「何者です!! ここは我がマンヴィル王国第一王女殿下のおわす寝所と知っての狼藉ですか!!」
冷たく突き刺さる様な、シリルに対し誰何する声が放たれた。
それもそうなのかもしれない。
シリルが逢っていたとされるのは、悪魔で妖精とも思えるベルの魂。
現実にはまだ、そう断罪の場を入れなければ、幾ら王命により正式な婚約を交わしていたとはしてもだっ、まだ一度も正式に逢った事もない二人。
そして王女ベルセフォーネに仕えるフランチェスカと数名の侍女達にとってのシリルは、全くの他人であり、それに加え彼女を悲しませた敵に他ならない。
確かにフランも侍女達も貴族であるからして、栄えある第一騎士団団長でもあるシリルを知らない訳はない。
前元帥の祖父と冷徹な宰相を父に持つ名門公爵家の子息なのだ。
社交界でも絶賛優良物件であるからして、女性達の間でも恐らく知らない者はいないだろうがしかしっ、それはそれ――――なのである。
幾ら優良物件出たとしてもだっ、自分達の遣える王女を悲しませた……いや表面的にはベルは何時も幸せそうにしていた。
だが長年仕えていれば自ずとわかるものなのだ。
ましてやフランはベルの筆頭専従侍女兼彼女の乳母。
娘の様に愛しているベルの悲しみや辛さを、王妃と共に悲しんでいたのである。
まさに彼女の目の前にその元凶となるシリルが今になって現れたのだ。
フランだけではない。
フランと共にまだ若いがベルを崇拝する侍女達にもその怒りは見る間に伝播していく。
「お見受け致しますところ、貴方様はもしやベディングトン公爵家のシリル・ランバート・アランデル様でしょうか。ベルセフォーネ姫様の元婚約者であった貴方様が何故この様な所へ、今更お見えになられるのでしょう」
シリルは一瞬悪寒めいたものを感じてしまう。
王太子や父デュークと対峙していた時と比べられないくらい室内の温度は一気に氷点下以下へと下がり、シリルを囲む様にフランと侍女達は冷たい氷の様な視線でい殺さんばかりに睨みつけていた。
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