32 / 34
第3章『自覚していく気持ち』
第31話 チート?
しおりを挟む武術大会の期間は1週間、午前中が大会で午後は通常授業といった感じで行われるということだった。
わたしはトーナメント2回戦まで、スムーズに勝ち進むことができた。
今まで自分の運動神経がとてつもなく抜群だと思っていたんだけど、それは結局聖女であるが故の精霊たちの力のおかげだった。
有り難いのと残念なのとの複雑な気持ちだわ‥。
だけど精霊の力を自覚したからこそ、その力を扱うことが出来るようになってきた気がするの。
これはロンをも倒して学年1位になれちゃうんじゃないかしら‥。
と言っても、ロンとぶつかるのはこのまま勝ち進んだ先にある準決勝。
まぁそれまでに負ける気は全然ないのだけど。
ちなみにジロは数日前に人間の姿に戻したんだけど、未だにうまく体に力が入らないらしい。可哀想なことにヘロヘロなまま1回戦敗退‥。
やっぱり姿を変えるというのは相当負担になるのね。
わたしの次の対戦相手はポールだった。
ポールは火の精霊が宿ったブレスレットをつけてるし、可愛い顔して油断ならないわ。警戒していかないと‥
第1回戦も第2回戦も魔法道具を使う人がいなかったから簡単に勝てたけど、ポール相手ではそうもいかない。
「‥勝負だね、ポール!」
わたしがそう言うとポールは可愛い顔に似合わない凛々しい顔を見せた。
「負けないからね!リュカ!!(聖女様に負けたら竜騎士だなんて名乗れないよ~!!)」
ポールはごくりと息を飲んで、試合開始と同時に魔法道具に願いを込めた。
(リュカのことはもちろん傷付けたくない!!)
「わぁっ!なにこれ!熱っ!」
ポールが扱う火の精霊の力で、わたしを中心に円になるように火柱が立ち上がった。なるほど‥わたしに参ったと言わせたいんだろうな‥。
確かにこのままでは戦うことも逃げることもできない。
風の精霊に頼んで火柱よりも高く飛び上がることはできるかもしれないけど、なんか火柱がもっと燃え上がるような気もするし‥
どうしよう‥
「リュカ!!君の為にも言わせてもらうけど、早く降参するべきだよ!!」
火柱の向こうからポールの声が響く。
轟々と燃え盛る炎に、目眩がしそうだ。たった数秒で息をするのも難しいと感じてしまうほど。
‥火の精霊さん、静まってくれないかなぁ‥‥
これじゃ熱くてしんどいわよ‥
と、わたしが心の中で呟いた途端ーーー
「「ーーー?!」」
何本にも立ち昇っていたはずの火の柱が瞬く間に勢いを失くして萎んでいった。
今や蝋燭の火程の力しか放っていない。
まさか‥?
ポールの火のブレスレットに宿る火の精霊がわたしの願いを聞き入れてくれた‥?
「ははっ‥反則じゃない‥?それ‥」
ポールもわたしを聖女だと考察していたとロンから聞いていた。
だからポールも、聖女の力によって自身の魔法道具が意に反した動きをしたのだと分かったのだろう。
ポールは元々頭はキレるけど身体能力がズバ抜けているわけではない。意気消沈しているポールを前に、わたしは風の精霊にお願いした。
なんだかんだ、きっと幼い頃から無意識のうちに一番頼りにしてたのが風の精霊なんだとも思う。
ーー風の精霊さん。
ポールを転ばせてください!
前までは無意識だったけど、今は意識をして風の精霊に願う。
するとポールの周りには突然突風のようなものが巻き上がって、足を取られたポールは簡単に尻もちをついた。
何が起こったのか分からずにポールが辺りを見渡している間に、暗殺者教育で培った素早さでポールの首を返して関節技を決めながら、ポールの背中を地に着ける。
途端に周囲からは歓声が湧き、勝負がついたのだと分かった。
「‥‥チートすぎない?
勝てる気がしないよ‥」
ポールが背中を地面につけながら、参ったと言わんばかりに小さく笑っていた。
(‥‥聖女様強すぎない?武闘派すぎない?
俺、このまま竜騎士目指していいの‥?ていうかリュカに勝てる人いるの‥?竜騎士、いらなくない‥?)
この日ポールはぐるぐると考え込んでいたせいか、暫く競技場の床から起き上がれなかったという。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
76
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる