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第一章 32歳~

08 叙述 32歳

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 気まずい雨の日から1週間後は快晴だった。
 先週あんなことがあったばかりなので、晴れていても深雪を誘う気にはなれなかった。
 そんな中、紗栄子から大志の部屋を訪問したい“依頼”があったので驚いた。こんなに天気が良くても気持ちがつらいのだろうかと大志は心配になる。
「お邪魔します。」
「先週、本当にごめんな。」
「体調良くなった?」
「うん。」
「良かった。こっちこそごめんね。」
 危惧に反して紗栄子は笑っていた。薄化粧もしていた。大志はホッとして困惑した。
 大志が淹れてくれたコーヒーを少し飲み、紗栄子はソファーに横になる。
「先週の日曜日の夜ね。」
「うん。」
「子供達が寝たあとで、リビングに行ったの。寝落ちしなかったから。」
「うん。」
「蓮の動画をボーッと見てた。」
「うん。」
「蓮はいっぱい笑ってて。」
「うん。」
「胸が苦しくなったわ。」
 言葉は切ないのに、紗栄子の口調は案外淡々としていて涙の気配もない。
「最後に蓮としたのはいつかなあって考えて」
「気づいたらパジャマのボタンを外してた」
「キャミソールの下に手を入れて」
「胸を触って弄んだの」
「目を閉じて、してる時の蓮の顔を思い出して」
「気持ちよくなってきたからショーツに手を入れたわ」
「一番敏感な突起を優しく撫でて」
「もっと気持ちよくなってきたから指を伸ばしたら」
「しっかり濡れてるから、それを突起にこすりつけたの」
「空洞に指を一本入れて」
「膝を擦り合わせて自分の中の指の存在を確かめたの」
「蓮に入れてもらう時に比べたら全然だけど」
「ちょっと安心した。」
 大志は相槌も打てずに聞いている。
「…そんな卑猥な話し、やめろよって言わないの?」
 紗栄子はゆっくりと起き上がり、大志を見据えた。視線が絡み合う。
 勃起してしまったのを隠すために、大志は足を組んだ。
 ペタペタと微かな音をさせて紗栄子が床を這って大志に近寄る。大志が隠したがっている“変化”を確認するために。
「よせ。」
 大志は必死に身をよじって立ち上がった。テーブルに手をついて下を向き、大きく深呼吸する。自分に起きている淫らな変化を鎮めるように。
 紗栄子はやはり何も言わず、大志の背中に抱きついた。
「紗栄子…!!」
 発せられた大志の声があまりに大きくて、紗栄子はさすがに咄嗟に後ずさった。
 一度視線が合い、わざとらしいほどに大志がはっきりと視線をそらす。
「悪いけど、今日は帰ってくれ。」
 紗栄子はそろそろとゆっくりソファー近くに置いたカバンを持ち上げ、無言のまま出ていった。
 テーブルに手をついたままどれくらい時間が経っただろう?大志は乱暴にドアの鍵を閉めると、部屋着のズボンと下着を腿まで下ろして跪いた。
 大志は“視て”いた。紗栄子が赤裸々な内容を怖いほどに淡々と語る中、その時の紗栄子の様子を“視て”いた。
 紗栄子はリビングのテレビ画面に蓮の笑顔を映しながら、自分の中に指を差し込んでいた。あられもない格好で。
 大志は自身の猛り狂っているものをしごいた。あっという間に白濁した体液がフローリングの床を汚す。一度は出したものの体の芯のくすぶりは収まらず、また擦り上げた。先程よりは時間がかかったものの、再び体液を吐き出した。
 呼吸が整わず、酸素が足りない頭で考える。
 ーーー彼女はひとつ、叙述しそびれた。もしくは隠した。
 大志が“視た”あられもない格好の彼女は、一筋の涙を流していた。
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