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第一章 32歳~

36 もう一人 38歳

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 紗栄子が健やかな寝息を立てている。
 はじめから眠るつもりだったならいいのだ。
 23時10分。工藤家の大きい方の寝室。ベッド上、上半身裸の大志。
 まぶたを重そうにしながら紗栄子がお誘いをしかけてきたと思ったらこれだ。その気になった後に放置されるのがどれほど辛いか。
 ーーーそれにしても、月に一度、2、3日連続でお誘いをしかけてくるというのはやっぱりーーー。
 一歳になった娘・唯(ゆい)の寝顔を確認し、大志は自身の気持ちと体を鎮めるために、キッチンで水を飲むことにした。



「昨日は寝ちゃってごめんね。今日は大丈夫だから。」
 放置プレイ翌日の夜。
 寝室で紗栄子が大志にギュッと抱きつく。
 そりゃあ昨日はその気になった夫を放置して真っ最中に眠り始めたんだからスッキリしているだろう。
「…寝ちゃったの、怒ってる?」
 それには答えず、大志は紗栄子を見つめて息を吐いた。
「ここんとこ毎月排卵日前後に集中的にお誘いいただいてる気がするんですけど合ってますか。」
 事務的な口調の大志の言葉を聞いて、紗栄子が図星の顔でうつむいた。
「俺は自然にまかせるんでいいよ。元々瑛がいて奏がいて、唯が生まれたのも幸運だと思ってる。紗栄子も正直さらに高齢になっていろんなリスクが上がるし、無理に妊娠を目指さなくていいよ。」
 紗栄子はムスッとして悲しそうな表情だ。
「…蓮の子供は2人いるから、大志の子供も2人ほしいんだもん。」
 正直、大志は呆れた。
 それが紗栄子なりの愛情なのだろうが、大志は家族である子供たちが自分の実子かどうかなど元々どうでもいい。心底、だ。
「紗栄子の子供がもう3人もいる。父親が誰かなんていいんだよ。そんなこと関係なく、君の子供ならみんな愛おしいっていう俺の気持ちもわかっといてください。」
 大志の両手が紗栄子の顔を包み、上を向けさせる。いつものように上唇をついばんで、顔を離した。
「また子宝に恵まれたらそれはそれで嬉しいけど、無理する気はない。そのために放置プレイされる方がしんどいね。」
「……ごめんなさい。」
「そういうわけで、今夜はじっくりたっぷりお付き合いいただきましょう。…覚悟しろよ。」
 言うなり紗栄子を押し倒すと、少し進んだところで唯が泣き始めた。
「この家の女達は本当にもう…!」
 小声で怒りながら起き上がり、大志は娘を抱き上げる。
 やがて唯が再度眠りについたので、そっとベビーベッドに寝かせた。背中の起床スイッチが発動しなくてホッと一息だ。安心した大志はベッドをきしませ、押し倒した紗栄子の胸をくわえるように荒々しく口に含んだ。
「やぁ…!」
 紅い頂きのごく近く、ブラで隠れる位置のやわらかく白いところをきつく吸う。紅い痕がつく。
 昔、やたらとキスマークをつけたがる女がいたな、と大志はうっすら思い出した。
 キスマークなんて、つけられる時に気持ちいいものでもなく、ただ所有欲を満たすものにしか過ぎないと大志は思っている。
 ただ、今は、紗栄子にお預けにされた腹いせをしたい気分だった。その手段にキスマークを使っている。
「痛い?」
「ちょっと痛い。」
 ふ、と笑って大志は紗栄子を腹ばいにし、ショーツで隠れるお尻の一部も強く吸い上げた。
「お尻。突き上げて。」
 恥ずかしそうに、紗栄子は頭の方は落としたまま、ヒップの方だけ持ち上げる。
「ああ…っ。」
 大志が紗栄子の後ろから子宮への入り口を吸い、指で前方の敏感な部分をいじる。時々ヒップの膨らみをきつく吸って紅くする。紗栄子が十分にほぐれると、そのまま後ろから太いもので突き、大志は果てた。
「なんか…すごい…。」
「昨日お預けにされた分、たまってたからな。」
「……もうしません。」
 一休みすると、大志は紗栄子の体を仰向けにした。まだ潤っている彼女の中心に指を這わせ、ゆったりと撫でる。紗栄子はその快楽に集中するように瞳を閉じて、眉間にしわを寄せている。
 その様を大志はじっと見つめた。口腔で紗栄子の体を可愛がるのも好きだが、その間は彼女の顔をじっくり眺めることはできない。自分自身が少しずつ活気を取り戻していくのを感じる。
 ———もし今自分がいなくなったら。彼女はまた違う男を受け入れ、こんな行為をするのだろうか。
 紗栄子の分泌物の滑らかさを感じながら、何を考えているんだと自分でも思う。ただ、唯が生まれて以降、こんな考えが頭に浮かぶことが増えた気がする。それはきっと子供が生まれることで、紗栄子と夫婦でいることがより自然なことになったからかもしれない。
 ———きっと、耐えられない。蓮でも自分でもない男を受け入れるなんて。
 自分が再婚相手になっておいてわがままなようだが、紗栄子にとって蓮と自分は特別な存在だという自負がある。自分の知らないところで親しくなった男くらいいるだろうが、それでも蓮や大志に対する以上に親しみを持って接するような男はいないだろうと思っている。
「は…っ。」
 こらえてこらえてこらえきれなくなった紗栄子の吐息が漏れた。ぱちん、とシャボン玉がはじけるように大志の意識が戻る。
「紗栄子、好きだよ…。」
 声に滲むのは焦燥感。唯が起きたらと思うと、そんな風になるのだろうと紗栄子はひとり快楽の中で納得する。大志の暗い想いなど知りもしないで。
「好きだよ…。」
 大志が思う存分紗栄子の体を弄んでいる間、ベビーベッドの上で、唯は平和な寝息を立てていた。
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