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第五章

もう一人の隠しキャラ

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    忘れていたんです。
    ……改めて攻略対象を確認し、イベントが起きないように注意していたんです。

    でも、うっかり忘れていたんです。
    隠しキャラが、もう一人居た事を……。

    隠しキャラの王子は二周目からのキャラだけど、二度目のプレイで普通に出てくるキャラだ。
    が、二周目以降にとある条件を満たした時にのみ攻略対象キャラとなる人物をうっかり忘れてたんだ。

    だから、うっかり先生から用事を言いつけられてホイホイ出向いてしまったんだ、そのイベントの起こるエリアへ。
    ――その部屋の名は。

   「ヒルデ先生のブースはその突き当たりですよ」
    ニコニコ人畜無害そうな笑みを浮かべる教師が居るここは、職員室。
    そしてこの男の名は。

   「ああ、私はローデリヒ=ヴェルグリンドと申します。剣術担当の教師ですので、女性の貴女にお目にかかる機会は少ないでしょうが」

    ……ええ。存じております。ついさっきまでうっかり忘れていたけど、知ってますよ。あなたがウチの執事のご同業だって事も。
    アゼルの護衛として。数年前には王太子や第二王子を影から護衛するための――そして学園での彼らの様子を王に報告する任務を負っている事も、ゲームで聞きましたからね!

    ただ、彼を攻略対象にする条件が厳しく、他キャラに比べてプレイ回数が圧倒的に少なった。
    故にうっかりしていた。

    護衛はともかく城に報告されるのはアゼルだけでなくその婚約者である私も……という可能性が高い。
    ここで動くにしてもあまり怪しい行動をすると、この男がどう動くか分からない。

    爺なウチの執事と違って流石攻略対象だけあって顔は綺麗だし、何より若い。生徒が子供だから大人に見えるけど、多分まだ二十代。
    面長の顔に賢そうな緑眼に眼鏡を装備し、微笑む姿は神父のごとく。……が、騎士連中の様な分かりやすいゴリマッチョではないけれど、確実に鍛え絞りきった細マッチョを隠すゆったりした衣装で誤魔化してはいるけど、この人、強い。

    私はウチの執事とどっちが強いかなんて分かるような武術の達人じゃないけど、だからこそ私なんてその気になれば簡単にどうにでも出来るはず。

    かなり制限のある環境の中で余程上手く立ち回らなければクリアできない超難易度のゲームの、最大の壁の一つにもなりうるキャラ。
    彼には唯一悪役令嬢が存在していない。

    影、だからね。婚約者なんて居るわけないし、彼女なんか作るはずもない。

    私はとっとと用事を済ませて職員室を後にしたけど。
    ……アレ、出会いイベントだったよね?
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