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9話 苦い旅立ち

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 アーヴィは騎士の印である剣を腰の革ベルトに装着し、愛馬には荷物を括り付け旅装姿でカステーロを連れエスケルダ家を訪れた。
 

 隣国へ旅立つ前に盗まれた馬を返そうと思ったからだ。

 父イーダには良い馬だから、隣国へ連れて行き自分で調教すると言って出て来た。 


 だが、時すでに遅く…

 エスケルダ邸に居たのは、涙ぐみ鼻をグスグスさせながら黙々と邸内の掃除をする元使用人のプランタだけだった。



「どちら様ですか? エスケルダ家の方々は、もうココにはいませんよ」

「オレはオエスチ侯爵家の者だ、エスケルダ家の人たちは何処へ行ったのだ?」

 眉をひそめ心配そうに尋ねるアーヴィに…


「さぁ知りません! お可哀そうに、2度も続けて強盗団の襲撃を受ければ誰だって逃げ出しますよ!!」

 オエスチ侯爵家の名を聞き目を吊り上げて睨みつけるプランタ。


「強盗団が、また来たのか?!  一家はどうなった?!」

「1度目は財産を奪って、2度目は命を奪いに来たのでしょうね!! 幸運なコトに旅立たれた後だったので皆様は無事ですよ!」


「無事か! ソレは良かった」

 ホッと肩の力を抜くアーヴィ。 


「アナタは何の御用でいらっしゃったのですか? エスケルダ家の方たちの弱みに付け込み半分の値段で土地を奪っておいて、オエスチ侯爵家の人たちは強盗団と変わりませんよ!!」 

「……っ!!」

 怒りをぶつけるプランタの言葉ににアーヴィは息を呑む。
 
 ソコまで酷い契約を父イーダがエスケルダに結ばせていたとはアーヴィも知らなかった。

「彼らが何処に行ったか心当たりは無いか?」


 警戒して何も言わないプランタ。

「知りません! 私は聞きませんでしたから、侯爵に事情を話し契約を結んだ途端、強盗団がまた襲いに来るなんてね?」 
 
 プランタは怒りに任せ、暗にオエスチ侯爵が強盗団にエスケルダ家を襲わせたのではないかと、仄めかしたのだ。


 この侮辱にはさすがに耐えられず、プランタを睨みつけるアーヴィだが… 父イーダのニヤつく顔を思い出すと、絶対に違うとは言い切れなかった。
 


 苦いモノが胸いっぱいに込み上げて来て、ラベンダー色の瞳をグッと閉じて、大きなため息をつく。


「そうか… 掃除の邪魔をして悪かった、オレはただ盗まれた青毛の馬を返してやりたかったダケなんだが… 残念だよ… 本当に…」




 玄関脇に繋いであった愛馬とカステーロの綱を解くと、アーヴィはエスケルダ邸を見上げ虚しさで顔を歪める。


「一足遅かったな… アイツがカステーロを見つけた時に返してやれば良かった! オレもドジだな… 父上の許可を取ろうなどと、モタモタしてる間に… クソッ!!」




 アーヴィは愛馬の背に乗るとオエスチ侯爵家には戻らず、カステーロを引いてそのまま隣国へ旅立つ。









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