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51話 侯爵夫人の準備
しおりを挟む朝食室から出て結婚する前まで泊まっていた部屋へ行き、荷物をまとめるヴィトーリア。
オエスチ侯爵夫妻として初夜を過ごした部屋には、ローブと花嫁衣裳しか残されていない。
「ヴィー、オレは今からオウロ公爵と話をして…その後、旅支度をしに騎士団の宿舎へ戻るつもりだがお前はどうする?」
「私は…」
大奥様の付き添いとして、オージ伯爵家に今までは雇われていたが、結婚式と同時に職を解かれ、大奥様にはオウロ公爵夫人が手配した付き添い役が付いている。
「私は大奥様にまだ、感謝の気持ちを何も伝えていないから… 新しい付添人の方に引継ぎもしていないし…」
<急に結婚が決まって、今までとは何もかもが変わってしまった>
「そうか、明日には西方へ立つ予定だから、忘れないよう早めに伝えに行くと良い」
「ありがとう」
「いや、こっちこそ急がせてスマナイ… 仕事を投げ出して行くから気が急いて、代行をしてくれる公爵たちに悪くてな…」
婚約していた頃の傲慢なアーヴィとは違い、真摯で生真面目な顔を見せる今の姿がヴィトーリアは愛おしかった。
「分かってるから気にしないで! 私はアナタに付いて行くから大丈夫」
アーヴィの分厚い胸に手を置きヴィトーリアは微笑む。
胸に置いた手を取り、アーヴィはチュッとキスすると、ヴィトーリアをギュッと抱きしめ、唇にもキスして満足そうに部屋を出て行く。
<アーヴィと再会して以来ずっとキスばかりしている… まだほんの数日しか経っていないのが不思議…>
「キスなんて今までしたコトも無かったのに…」
キスのし過ぎで、カサカサと荒れてしまった唇を撫でる。
<痛くなる前に軟膏を塗っておこう… 後で、アーヴィにも塗ってやらないと>
アーヴィの唇もヴィトーリアと同じ理由で荒れてしまっていた。
ニヤけてしまうヴィトーリア。
コンッコンッと部屋の扉を叩く音がする。
扉の外にはオウロ公爵夫人と、もう1人オメガの品の良い男性がいる。
「ヴィトーリア、こちらムーズィカ叔母様、最近はエズメラウダ公爵邸にクリステルを手伝いに行っていたのだけど、アナタの服の買い出しに、一緒に行ってくれるよう来てもらったの」
「え、服ですか? …でもお金が」
不安と羞恥でヴィトーリアの、言葉の端切れが悪くなる。
「コレはアーヴィに頼まれたコトなの、安心して? ムーズィカ叔母様は本当に頼りになるよ、言う通りにすれば、後で絶対に叔母様の言う通りにして良かったと感謝するコトになるから」
公爵夫人はニッコリ笑ってヴィトーリアを説得する。
だが、あまりにも乗り気でない様子のヴィトーリアに、ムーズィカ叔母様はその場で有り難い助言をする。
「アナタ、先代のオエスチ侯爵夫妻に妻としてお会いするのでしょう? 夫に恥をかかせたいの?」
「うっ…!」
子供の頃に行った隣家、オエスチ侯爵邸の豪華さを思い出し、ヴィトーリアは黙り込む。
「今、着ている服装ではダメだよ? アナタは付添人ではなくオエスチ侯爵夫人なのだから … 義理の母に会うのだし、もっと気合いを入れないと、躾が悪いと最初から侮られるよ」
<確かに… アーヴィが頼んだと言うのならお任せしよう>
ヴィトーリアは小さく頷き…
「よろしくお願いしますムーズィカ様!」
「アーヴィの奥方なら、私の姪っ子みたいなものだから、叔母様と呼びなさい」
「はい、ムーズィカ叔母様」
「いい子だね、可愛いし! コレは飾り甲斐があるね!!」
ウキウキと楽しそうな叔母様。
褒められてポッと頬を染めるヴィトーリアを、増々気に入った様子のムーズィカ叔母様。
「変にスレていないトコロなんて、昔のフロルを見ているようだよ! アーヴィは良い子を妻にしたね、褒めてやらないと!」
<ムーズィカ叔母様は、陽気で楽しそうな人だなぁ…仲良く出来そう>
ホッとするヴィトーリア。
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